情報処理学会第88回全国大会 会期:2026年3月6日(金)~8日(日) 会場:松山大学

Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術の構築

日時:3月7日(土) 9:30-11:30

会場:第1イベント会場

【セッション概要】わが国が提唱するSociety 5.0が目指す社会の実現のためには,プライバシーやセキュリティー,知的財産などの安全を確保した上で,自由に「データ」が流通することが必要である.令和3年度の文部科学省の戦略的創造研究推進事業の戦略目標の一つ「Society 5.0時代 の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウエアの研究開発」の策定には本会も大きく貢献した.これに基づいてJST CREST,さきがけ研究が実施されてきており,また令和6年度からはそれを戦略目標に含むJST ACT-X研究領域として「AI共生社会を拓くサイバーインフラストラクチャ」が開始された.本セッションでは,これらに採択された研究者の発表とアドバイザーを中心としたパネルを実施し,その取り組みや技術課題を紹介・議論するとともに,サイバーインフラストラクチャ研究の将来を展望する.

全体司会

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括,ERATOパネルオフィサー

9:30-9:40- 講演(1) ACT-X「AI共生社会を拓くサイバーインフラストラクチャ」について

下條 真司(青森大学 ソフトウェア情報学部 教授)

下條 真司

【講演概要】JSTで2025年より開始されたACT-Xプログラム「サイバーインフラ」について,紹介するとともに,第2期採択の概要及び研究者の方から研究内容について紹介いただく.本プログラムでは,今後,AIをより広く社会で利用していくためには,このデータ流通の中核となる次世代のサイバーインフラストラクチャ(CI)を構築するための様々な課題に対応し,通信や計算における様々な技術的限界やサービス・アーキテクチャの変化による従来の考え方・原理の限界を打破するような独創的なアイデアを持ち,技術と社会の新たな分野を切り拓いていける優秀な若手研究者を育成していくことを目指したものである.「将来的に情報通信・情報科学の革新につながる技術」というキーワードのもとに,若手研究者の新たな発想に基づいた,次世代のCIの創造につながる挑戦的な研究を推進していく.2026年度の公募に向けて広く興味のある方々に参加いただきたい.

【略歴】大阪大学基礎工学部大学院後期課程, 昭和61年3月修了. 平成10年4月同教授,平成12年4月同大学サイバーメディアセンター副センター長,平成17年8月 同大阪大学センター長,平成19年8月 同副センター長,平成20年4月から3年間 情報通信研究機構大手町ネットワーク研究統括センター センター長/上席研究員.平成23年4月サイバーメディアセンター教授. 退職,令和5年4月より青森大学ソフトウェア情報学部教授.現在に至る. 大阪大学名誉教授.JST ACT-X「サイバーインフラ」研究総括.

9:40-9:45- 講演(2) さきがけ「ICT基盤強化」について

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報学科 教授)

東野 輝夫

【講演概要】JSTで戦略目標「Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術」に基づき2021年より開始されたさきがけ領域「社会変革に向けたICT基盤強化」(ICT基盤強化)の研究状況と成果を紹介する.

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授・情報学研究科長.大阪大学・特任教授・兼務.1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了.工学博士.1999年大阪大学教授,2002年同情報科学研究科教授.2021年京都橘大学工学部教授.モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事.文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者.情報処理学会元副会長.JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括.

9:45-9:50- 講演(3) CREST「S5基盤ソフト」について

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

岡部 寿男

【講演概要】JSTで戦略目標「Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術」に基づき2021年より開始されたCREST領域「基礎理論とシステム基盤技術の融合によるSociety 5.0のための基盤ソフトウェアの創出」(S5基盤ソフト)の全13研究課題の研究状況を紹介する.

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括,ERATOパネルオフィサー

9:50-10:02- 講演(4) アドレスの秘匿によるサイドチャネル攻撃に頑健なOS

穐山 空道(立命館大学 情報理工学部 准教授)

穐山 空道

【講演概要】メモリサイドチャネル攻撃とは,プログラム動作時の様々な副作用を用いて本来アクセスできないデータを読み書き可能になる攻撃である.代表例としてメモリの物理的機器内の電磁気的相互作用を利用するRowHammer攻撃や,メモリ上のデータを一時的にためておくキャッシュの競合を利用するキャッシュタイミング攻撃が挙げられる.これらの攻撃は攻撃により何が起こるのかという危険性の理解と,それを踏まえた防御策がどちらも確立されていない重大な脅威である.本講演では,JSTさきがけでの研究で新たに明らかになった攻撃の危険性を計算機システムの専門家以外にも分かりやすく紹介する.

【略歴】2010年京都大学工学部情報学科卒業.2015年東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻修了.博士(情報理工学).日本電信電話株式会社,産業技術総合研究所,東京大学を経て,2022年4月より立命館大学情報理工学部准教授.計算機システム,特にメモリシステムや仮想化技術等の研究に従事.2022年10月よりJST さきがけ「ICT基盤領域」研究者.

10:02-10:14- 講演(5) プログラム異常動作の自動検出技術の創出:機械が実現するセキュアな自動テスト

柏 祐太郎(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 准教授)

柏 祐太郎

【講演概要】本講演では,人手で作成した入出力テストに頼ることなく,機械が自動的に不具合(異常)を検出するための手法についてご紹介します.本手法では,まず変更前後のソフトウェアを実行し,動的解析によってトレースログを生成します.トレースログとは,プログラムがどのように動作したかを記録したログのことです.次に,このトレースログを分析し,変更後の動作が変更前の動作と著しく異なる場合や,開発者の変更意図(コミットメッセージなど)から逸脱している場合を,異常な変更として検出することを目指しています.

【略歴】奈良先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科・准教授.2013年和歌山大学システム工学部卒業.2015年同大学大学院博士前期課程修了後,(株)日立製作所入社.2017年日本学術振興会特別研究員(DC1).2018年からカナダPolytechnique Montréal大学にて訪問研究員.2020年和歌山大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).同年九州大学特任助教.2022年奈良先端科学技術大学院大学助教を経て,2025年同大学准教授.JST さきがけ「ICT基盤強化」研究者

10:14-10:24- 講演(6) 生成AIはケア専門職の思考を拡張するか

石坂 晴奈(千葉大学 大学院情報学研究院 助教)

石坂 晴奈

【講演概要】情報技術が医療・福祉の現場において適切に普及するためには,技術分野と応用分野の対話が不可欠である.新しい技術をいたずらに恐れて排除したり,あるいは過度に楽観視して推進するのではなく,応用分野において何が重視されているのかをふまえながら試行を重ねていく必要がある.そこで,生成AIを使用した際の看護師の思考の変容に着目する.生成AIを用いた際の臨床推論の観察やインタビューなどを通して,生成AIは看護師の考える力を拡張できるのかを検討し,看護分野における生成AIの作り方・使い方の指針を得る.

【略歴】2016年千葉大学看護学部卒業.2016-2019年認知症専門病棟にて看護師として勤務.2024年千葉大学大学院看護学研究科修了.博士(看護学).専門は認知症看護,排泄ケア.JST ACT-X「サイバーインフラ」研究者

10:24-10:34- 講演(7) 組込みAIアプリ向け省リソースLinux実行環境

朱 義文(名古屋大学 大学院情報学研究科 大学院生)

朱 義文

【講演概要】組込みAIアプリに特化した高性能MCU(Microcontroller Unit)が登場しているが,ソフトウェア資産の乏しさが開発の障壁となっている.本講演では,この問題を解決するために,高性能MCUにLinuxを適用可能にすることを目指す研究について紹介する.具体的には,コンパイラ・リアルタイムOS・Linuxを協調的に活用することで,ハードウェア制約を克服し,リアルタイムOSと省リソース化したLinuxの共存環境をMCU上に実現する.これにより,SWaP-C(サイズ,重さ,電力,コスト)・リアルタイム性・信頼性といった非機能要求を実現しながら,Linuxによる高機能な組込みAIアプリの開発を容易にする.

【略歴】名古屋大学大学院情報学研究科情報システム学専攻 組込みリアルタイムシステム研究室(高田・松原研究室)修士2年生.組込みシステムおよびシステムソフトウェア技術の研究に従事.セキュリティキャンプ全国大会2017修了.SecHack365 2018優秀修了.2024年名古屋大学情報学部コンピュータ科学科卒業.JST ACT-X「サイバーインフラ」研究者

10:34-10:44- 講演(8) 納得感生起の量子回路モデル

山岡 悠(大阪大学 量子情報・量子生命研究センター 特任研究員)

山岡 悠

【講演概要】納得とはヒトが情報処理を意識下に潜在化させることである.本研究では,従来ヒトが意識上で行う情報処理をAI技術にどこまで委ねるのか--意識下処理に組み込む条件解明を目的とする.人の内部発話「内言」を工学的に再現した「疑似内言」という,外部情報をあたかも自ら思いついた言語的思考であるかのように錯覚させる手法を観測窓とし,「納得感」が発生する条件を情報提示法/内容と相関づける.

【略歴】大阪大学・量子情報・量子生命研究センター(QIQB)特任研究員.2025年大阪大学大学院情報科学研究科バイオ情報工学専攻修了.博士(情報科学).2021年(株)GramEye 技術開発部部長としてAI医療機器の製品開発及び上市.2023年日本学術振興会特別研究員(DC2).2025年より現職.JST ACT-X「サイバーインフラ」研究者

10:44-11:30- パネル討論 デジタル社会の「見えない不安」の解消に向けて

【討論概要】私たちが便利に利用しているクラウドやAI.しかし,その土台となるハードウェアやソフトウェアには,実は未知の脆弱性が潜んでいるかもしれません. Society 5.0の実現には,こうした脅威からデータを守りかつ活用するための革新的な基盤技術に加え,情報技術者が「安全の根拠」を市民にいかに分かりやすく伝えられるかが大きな課題となっています. 本討論では,まず研究開発の最前線から「ヒトゲノム」と「ヘルスケアコホート」という特に機微なデータを扱うプロジェクトをケーススタディとして取り上げます.信頼できない環境でもデータを守り抜く技術や理論的に安全性を保証するアプローチを,いかに市民の言葉へと「翻訳」し,信頼(トラスト)を可視化していくのか.技術と社会の接点について,多様な視点から議論します.

パネル司会

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括,ERATOパネルオフィサー

パネリスト

清水 佳奈(早稲田大学 理工学術院 教授)

清水 佳奈

【略歴】2006年早稲田大学より博士(工学)取得.同年,産業技術総合研究所入所.2013年-2015年メモリアルスローンケタリング癌センター客員研究員,2016年早稲田大学准教授を経て現職.2019・2020年度情報処理学会理事.ゲノム配列をはじめとする生命情報の解析法,及び,プライバシ保護技術の研究に従事.JSTさきがけ「ICT基盤強化」領域アドバイザー

パネリスト

菊池 浩明(明治大学 総合数理学部 専任教授)

菊池 浩明

【略歴】明治大学大学院修了.博士(工学).(株)富士通研究所,東海大学を経て,2013年より明治大学総合数理学部専任教授.一般社団法人JPCERTコーディネーションセンター(JPCERT/CC)代表理事.JST CREST S5基盤ソフト「安全性と有用性の保証のあるヘルスケア匿名コホート基盤」研究代表者,さきがけ「ICT基盤強化」領域アドバイザー

パネリスト

下條 真司(青森大学 ソフトウェア情報学部 教授)

下條 真司

【略歴】大阪大学基礎工学部大学院後期課程, 昭和61年3月修了. 平成10年4月同教授,平成12年4月同大学サイバーメディアセンター副センター長,平成17年8月 同大阪大学センター長,平成19年8月 同副センター長,平成20年4月から3年間 情報通信研究機構大手町ネットワーク研究統括センター センター長/上席研究員.平成23年4月サイバーメディアセンター教授. 退職,令和5年4月より青森大学ソフトウェア情報学部教授.現在に至る. 大阪大学名誉教授.JST ACT-X「サイバーインフラ」研究総括.

パネリスト

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報学科 教授)

東野 輝夫

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授・情報学研究科長.大阪大学・特任教授・兼務.1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了.工学博士.1999年大阪大学教授,2002年同情報科学研究科教授.2021年京都橘大学工学部教授.モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事.文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者.情報処理学会元副会長.JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括.

パネリスト

穐山 空道(立命館大学 情報理工学部 准教授)

穐山 空道

【略歴】2010年京都大学工学部情報学科卒業.2015年東京大学大学院情報理工学系研究科創造情報学専攻修了.博士(情報理工学).日本電信電話株式会社,産業技術総合研究所,東京大学を経て,2022年4月より立命館大学情報理工学部准教授.計算機システム,特にメモリシステムや仮想化技術等の研究に従事.2022年10月よりJST さきがけ「ICT基盤領域」研究者.

パネリスト

柏 祐太郎(奈良先端科学技術大学院大学 先端科学技術研究科 准教授)

柏 祐太郎

【略歴】奈良先端科学技術大学院大学・先端科学技術研究科・准教授.2013年和歌山大学システム工学部卒業.2015年同大学大学院博士前期課程修了後,(株)日立製作所入社.2017年日本学術振興会特別研究員(DC1).2018年からカナダPolytechnique Montréal大学にて訪問研究員.2020年和歌山大学大学院博士後期課程修了.博士(工学).同年九州大学特任助教.2022年奈良先端科学技術大学院大学助教を経て,2025年同大学准教授.JST さきがけ「ICT基盤強化」研究者