情報処理学会第86回全国大会 会期:2024年3月15日~17日 会場:神奈川大学

Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術の構築

日時:3月16日 9:30-11:30

会場:第2イベント会場

【セッション概要】わが国が提唱するSociety 5.0が目指す社会は、人とモノがつながり、さまざまな知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すデータ駆動社会である。その実現のためには、プライバシーやセキュリティー、知的財産などの安全を確保した上で、自由に「データ」が流通することが必要で、令和3年度の文部科学省の戦略的創造研究推進事業の戦略目標の一つとして「Society 5.0時代 の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウエアの研究開発」が設けられ、同年よりJST CREST、さきがけ研究が実施されている。本セッションでは、令和3〜5年度にCREST、さきがけに採択された研究者の発表とアドバイザーを中心としたパネルを実施し、その取り組みや技術課題を紹介・議論する。

9:30-9:40 オープニング

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括.

9:40-9:52 講演(1) データセンタハードウェアへのソフトウェア脆弱試験の適応

空閑 洋平(東京大学 情報基盤センター)

空閑 洋平

【講演概要】現在データセンタでは,GPUやSmartNICなど多くのアクセラレータが利用されており,CPU中心のシステムから,アクセラレータ中心のシステムへの移行が始まっている.CPU中心のシステムでは,CPU側でアクセラレータへのデータ通信内容の観測や操作が可能だが,一方で,アクセラレータ中心のシステムでは,多くのデータ通信がCPUをバイパスするため,データ通信の観察やシステム機能拡張が困難になっている.本研究では,DMAバッファに観測・操作機能を付与ことで,アクセラレータによるデータ通信の観測・操作を可能とし,アクセラレータ中心のシステム研究の促進に貢献する.

【略歴】2015年慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科博士課程修了.博士(政策・メディア).2015年5月より同大学にて特任助教.2018年11月より東京大学情報基盤センター特任講師,2021年11月より同准教授.

9:52-10:04 講演(2) 細粒度のリカバリを可能とする高信頼OS

山田 浩史(東京農工大学 知能情報システム工学科)

山田 浩史

【講演概要】OS はアプリケーションの実行を司り安定的な稼働が求められるが,OS の信頼性阻害要因の多岐化(部分的なハードウェアの故障や OS をも乗っ取る攻撃など)に伴ってその性質が脅かされている.メモリサニタイザや TEE といったフェイラを検知する仕組みは洗練されているが,検知後のリカバリ方法としては未だ再起動が一般的である.本研究では OS のエラー箇所のみを修復して他の健全な部分を再利用することで,アプリケーションを継続実行可能にするリカバリ方式を新規提案する.OS をレジリエントにすることで,実行基盤層の立場から高信頼機械学習基盤や高信頼データストアの構築に貢献する.本講演ではこの取り組みについて紹介する.

【略歴】2009年慶應義塾大学大学院後期博士課程修了,博士(工学).2009年慶應義塾大学特任助教,2012年東京農工大学大学院工学研究院准教授.オペレーティングシステムならびにディペンダブルコンピューティングの研究に従事.IPSJ 山下記念研究賞,IPSJ 論文賞,などを受賞.

10:04-10:16 講演(3) 自律的な組合せ最適化システムのための双方向最適化ソルバ

川村 一志(東京工業大学 科学技術創成研究院)

川村 一志

【講演概要】JSTさきがけプロジェクト「AIを活用したユーザ主体の組合せ最適化システム」について、取り組み内容を一部紹介します。本プロジェクトでは、イジングマシンを土台とし、ボルツマンマシンと強化学習を活用することで自律的な組合せ最適化ソルバの構築を目指しています。自律的な組合せ最適化ソルバの核は、解の最適化を実施するイジングマシンとモデルの最適化を実施するボルツマンマシンを融合した双方向最適化ソルバにあります。本講演では、双方向最適化ソルバに関する構想ならびに研究の初期段階で得られた結果を示し、今後の展開について議論します。

【略歴】2012年早稲田大学情報理工学科学士、2013年同大学大学院情報理工学専攻修士、2016年同博士(工学)。 2018年より早稲田大学情報通信学科講師(任期付)。 2020年より東京工業大学科学技術創成研究院AIコンピューティング研究ユニット特任助教。 JST CRESTの研究員としてアニーリングプロセッサの研究に従事。 また、2023年10月よりJSTさきがけICT基盤強化領域にて「AIを活用したユーザ主体の組合せ最適化システム」プロジェクトを開始。

10:16-10:28 講演(4) 実応用に即したプライバシー保護解析とセキュアデータ基盤

田浦 健次朗(東京大学大学院 情報理工学系研究科)

田浦 健次朗

【講演概要】医療データや軌跡データなど多くの有用なデータが個人に関する情報を含んでいる. そのようなデータはセキュリティに対する懸念, データの2次的な漏洩・拡散に対する懸念, 解析結果からの個人の再特定に対する懸念などから利用が進まないという問題がある. これらの懸念を払拭し, 安全に, 安心してデータを利活用するために, システムソフトウェア, プライバシー保護データ解析, 軌跡データや医療データの専門家チームで以下のような課題に取り組んでいます. 本講演でそれらについて紹介します. [1] 管理者への信頼に依拠しないセキュアファイルシステム [2] プライバシー保護を強制・追跡可能なシステム機構 [3] 柔軟なプライバシー保護データ解析・機械学習 [4] 医療・軌跡データ実応用での実証

【略歴】1996年東京大学大学院理学系研究科 情報科学専攻 博士課程を退学し, 同専攻助手. 1997年同専攻 理学博士(論文)取得. 2001年東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻講師.2002年同准教授, 2015年より同教授, 現在に至る. また、2018年4月より東京大学情報基盤センター長を務める. 主に、並列処理, プログラミング言語, 高性能計算などに関する研究に従事.

10:28-10:40 講演(5) 検証可能なデータエコシステム

天笠 俊之(筑波大学 計算科学研究センター)

天笠 俊之

【講演概要】Society 5.0超スマート社会では、多様な情報源から得られるビッグデータに対する分析、機械学習・AIモデル等による意思決定が重要な役割を果たす。一方で、データにには不確実性や誤りが含まれることがあり、信頼性向上や不正発覚時の検証可能性が重要となる。このため本研究では、データに付随する信頼度やリネージュ(来歴)を第一級データとし、任意のデータを検証可能なデータエコシステムを研究開発する。包括的な信頼度・検証モデル及びトランザクションを考慮したデータベース修復の理論盤を構築するとともに、高信頼分散ストレージを含むシステムアーキテクチャを検討する予定である。本講演では研究の概要を紹介する。

【略歴】1999年群馬大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助手、筑波大学大学院システム情報工学研究科講師、同准教授を経て、2017年より筑波大学計算科学研究センター教授。データベース、データマイニング等の研究に従事。日本データベース学会理事。情報処理学会、電子情報通信学会,IEEE各シニア会員。ACM会員。

10:40-10:52 講演(6) 超分散小型IoTエッジノードのための自己進化型リアルタイム学習基盤

松原 靖子(大阪大学 産業科学研究所)

松原 靖子

【講演概要】本研究では、プライバシー、セキュリティの確保が必須とされる医療・ヘルスケア等分野におけるデータ利活用に焦点を当て、個人から生成される多種多様な個別事象型IoTビッグデータのための高精度な解析・自己学習・予測・最適化と自律・高速・セキュアな小型エッジ処理を同時に実現する自己進化型セキュアエッジAI技術基盤を構築します。またPoCとして、産科医療、IoT・ヘルスケア分野等システムへの適用を推進します。

【略歴】2012年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻博士後期課程修了.博士(情報学).NTTコミュニケーション科学基礎研究所RA等を経て,2019年5月より大阪大学産業科学研究所准教授.2018年度IPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Research,2020年度情報処理学会マイクロソフト情報学研究賞,電気通信普及財団第36回テレコムシステム技術賞,令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞等受賞.大規模時系列データマイニングに関する研究に従事.

10:52-11:20 パネル討議 Society 5.0が創る未来社会:生成AIと基盤ソフトウェア

【討論概要】本パネルでは、生成AI技術の急速な進展と、それらが社会にもたらす影響に注目し、Society 5.0のビジョンを踏まえた基盤ソフトウェアの役割と重要性を探求する。欧州では生成AIの規制を考慮に入れたEU AI法が検討されるなど、デジタル化が進む中、個人データの保護と安全なデータ利用が社会にとって不可欠であることが強く認識されるようになっている。本パネルでは、「生成AI時代の今、基盤ソフトウェアに求められているものは何か?」をテーマに、パネリストと会場の参加者で議論していきたいと考えている。

パネル司会

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括.

パネリスト

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報工学科)

東野 輝夫

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授/副学長。大阪大学・特任教授・兼務。1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1999年大阪大学教授、2002年同情報科学研究科教授。2021年京都橘大学工学部教授。モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事。文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者。情報処理学会元副会長。JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括。

パネリスト

山口 利恵(東京大学 大学院情報理工学系研究科)

山口 利恵

【略歴】2003 年 津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了,2006 年 東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学),2006 年 4 月 独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員,2007 年 11 月〜2011 年 3 月 内閣官房情報セキュリティセンター員 兼務,2013 年 6 月 特任准教授,2023年4月 准教授,情報セキュリティ,プライバシー保護の研究に従事.

パネリスト

田浦 健次朗(東京大学大学院 情報理工学系研究科)

田浦 健次朗

【略歴】1996年東京大学大学院理学系研究科 情報科学専攻 博士課程を退学し, 同専攻助手. 1997年同専攻 理学博士(論文)取得. 2001年東京大学大学院 情報理工学系研究科 電子情報学専攻講師.2002年同准教授, 2015年より同教授, 現在に至る. また、2018年4月より東京大学情報基盤センター長を務める. 主に、並列処理, プログラミング言語, 高性能計算などに関する研究に従事.

パネリスト

天笠 俊之(筑波大学 計算科学研究センター)

天笠 俊之

【略歴】1999年群馬大学大学院工学研究科修了。博士(工学)。奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科助手、筑波大学大学院システム情報工学研究科講師、同准教授を経て、2017年より筑波大学計算科学研究センター教授。データベース、データマイニング等の研究に従事。日本データベース学会理事。情報処理学会、電子情報通信学会,IEEE各シニア会員。ACM会員。

パネリスト

松原 靖子(大阪大学 産業科学研究所)

松原 靖子

【略歴】2012年京都大学大学院情報学研究科社会情報学専攻博士後期課程修了.博士(情報学).NTTコミュニケーション科学基礎研究所RA等を経て,2019年5月より大阪大学産業科学研究所准教授.2018年度IPSJ/ACM Award for Early Career Contributions to Global Research,2020年度情報処理学会マイクロソフト情報学研究賞,電気通信普及財団第36回テレコムシステム技術賞,令和4年度科学技術分野の文部科学大臣表彰若手科学者賞等受賞.大規模時系列データマイニングに関する研究に従事.

11:20-11:30 クロージング

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報工学科)

東野 輝夫

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授/副学長。大阪大学・特任教授・兼務。1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1999年大阪大学教授、2002年同情報科学研究科教授。2021年京都橘大学工学部教授。モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事。文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者。情報処理学会元副会長。JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括。