情報処理学会第86回全国大会 会期:2024年3月15日~17日 会場:神奈川大学

【特別講演】完全無欠な情報システムはあり得るのか? ~リスクと総合信頼性~

日時:3月16日 15:20-17:20

会場:第1イベント会場

【セッション概要】情報システムが社会の隅々に浸透するにつれ,そのトラブルの影響がますます大きくなっている.リスクの少ないシステムの実現のためには,誤りなく動作するという,狭い意味での信頼性だけでなく,稼働可能な状態である可用性,修復可能である保全性,交換部品供給等の支援の対象とできる支援性などのシステム属性が必要で,これらはまとめて総合信頼性(dependability)と呼ばれる.本特別講演では,形式検証の出発点を与えるシステムモデル構築における問題,総合信頼性とシステムのリスクの間の関係,車載システムの現場での総合信頼性の課題,総合信頼性の概念と国際標準などのテーマについて,それぞれの専門の立場から解説される.

15:20-17:20 司会

西澤 弘毅(神奈川大学 情報学部 教授)

西澤 弘毅

【略歴】神奈川大学情報学部教授.博士(情報理工学).2001年東京大学理学部卒業,2003年同大学院情報理工学系研究科修士課程修了,2006年同研究科博士課程修了.産業技術総合研究所システム検証研究センター特別研究員,東北大学大学院情報科学研究科助教,鳥取環境大学環境情報学部講師,神奈川大学工学部准教授を経て2023年4月より現職.専門は理論計算機科学,特に,代数構造,圏論,関係理論,位相空間,システム検証に興味を持つ.

15:20-15:50 講演者 総合信頼性の数学

蓮尾 一郎(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)

蓮尾 一郎

【講演概要】形式検証は,システムが仕様を満たすことを数学的に証明することにより「究極の信頼性保証」を与えようとする.しかし物理情報システムや統計的機械学習などシステムが多様化する現在,数学的証明のためそもそも必要な「定義」,すなわちシステムモデルが入手できないという方法論的困難が現出している.この困難を乗り越えるために,現代数学(特に論理学と圏論)の成果がどう活用できるかを論じる.自動運転や生成AIなど次々現れる新情報技術に対し,数学的証明を媒体とした信頼性の主張・論証・精査・議論を通じて,新情報技術が説明可能な形で社会的に受容され,社会制度等も包括した総合信頼性を樹立する,人間中心の未来像を提示したい.

【略歴】国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系教授,数理的高信頼ソフトウェアシステム研究センター長,JST ERATO 蓮尾メタ数理システムデザインプロジェクト研究総括,学術博士(Radboud U. Nijmegen, 2008).京都大学数理解析研究所助教,東京大学大学院情報理工学系研究科講師・准教授,国立情報学研究所准教授を経て現職.専門は理論計算機科学,特に形式検証,プログラミング言語理論,物理情報システム,情報科学における数学的構造.

15:50-16:20 講演者 総合信頼性達成とリスクマネジメント

澁谷 忠弘(横浜国立大学 リスク共生社会創造センター 教授)

澁谷 忠弘

【講演概要】リスクと総合信頼性(ディペンダビリティ)は密接に関連しているが、かならずしも表裏の関係にあるわけではないと考えられる.とくに、旧来の信頼性(Reliability)の概念に依ると,高信頼性が必ずしもリスクの許容を導くとは限らない.システム総合信頼性の獲得とリスクマネジメントの関係について述べる.

【略歴】平成12年9月京都大学大学院工学研究科機械物理工学博士課程修了.博士(工学).令和5年4月より総合学術高等研究院教授及びリスク共生社会創造センターセンター長.現在、安全工学を専門として、産業安全の高度化に関する研究を推進している.ISO TC262リスクマネジメント日本代表エキスパート、ISO TC96 ジブクレーン国際議長等、安全及びリスク関連の国際標準化活動にも従事している.

16:20-16:50 講演者 車載システムの総合信頼性

松原 豊(名古屋大学 大学院情報学研究科 准教授)

松原 豊

【講演概要】車載システムは,高度運転支援や自動運転,ソフトウェア更新機能などが搭載され,複雑化の一途を辿っている。開発現場では,コストや納期などの厳しい制約がある中で,信頼性や安全性,サイバーセキュリティなどの総合信頼性を維持,向上させる挑戦的なものづくりに直面している。本講演では,車載ソフトウェア開発現場での課題について技術面と管理面から紹介する。さらに自動運転サービスの総合信頼性についても考える。

【略歴】名古屋大学大学大学院情報学研究科准教授。組込みリアルタイムシステムの開発技術,システム安全,セキュリティ,システムオブシステムズのレジリエンスなどの研究に従事。博士(情報科学)。総合信頼性に関する標準化や産業展開を推進するディペンダビリティ技術推進協会理事。オープンソースの組込みリアルタイムOSなどを開発するTOPPERSプロジェクト運営委員。IEEE,ACM,情報処理学会,電子情報通信学会,自動車技術会各会員。

16:50-17:20 講演者 総合信頼性の概念と国際標準

木下 佳樹(神奈川大学 情報学部 教授)

木下 佳樹

【講演概要】信頼性に可用性,保全性,支援性などのライフサイクル全体に亘る属性を合わせた総合信頼性(dependability)について,IEEEとIEC TC 56 Dependabilityによる概念規定を比較して歴史を振り返り,その上に立って,常に変化に晒される開放系(open systems),多数のステークホルダが関係するsystem of systemsなどについて,新たに生じている総合信頼性の課題とその解決の可能性について概観する.

【略歴】平成元年3月東京大学大学院理学研究科情報科学専攻博士課程修了.理学博士.同年通商産業省工業技術院電子技術総合研究所研究員.独立行政法人産業技術総合研究所システム検証研究センター長,神奈川大学理学部情報科学科教授などを経て令和5年4月より神奈川大学情報学部計算機科学科教授および神奈川大学情報学研究所所長,現在に至る.令和3年9月よりIEC TC 56 Dependability chair.