情報処理学会第85回全国大会 会期:2023年3月2日~4日 会場:電気通信大学

持続可能なスマート一次産業実現への情熱

日時:3月4日 9:30-12:00

会場:第3イベント会場

【セッション概要】農業や漁業といった自然や生き物を対象とした一次産業では、熟練者たちがどの部分を見て、どのように解釈し判断しているのかといった技能の継承が工業製品以上に困難であり、高齢化の進行もあいまって持続可能な構造の実現が急務である。そのような背景のもと、コンシューマ向けデバイスやシステムにも利活用の進むIoTやAI、ロボット等の先端技術を活用したスマート一次産業が注目されている。しかし、一次産業分野の研究者にとっては技術発展の著しい情報技術を使いこなすことが求められ、情報分野の研究者にとっては一次産業分野のデータの入手方法だけでなく、入手してからも適切に取り扱うための知識や知恵の獲得も求められ、双方の研究者が苦労しているというのが実情である。本企画では、スマート一次産業の実現に向けて第一線で活躍する研究者をお招きし、これまで直面してきた課題やそれらをどう打破してきたか興味深い研究開発の実績についてご紹介いただく。持続可能なスマート一次産業実現に向けまだまだ課題が山積であるが、情報学研究者が革新的な研究成果を創出し活躍できる可能性や今後の期待について講演者らの情熱が伝われば幸甚である。

司会

峰野 博史(静岡大学 学術院情報学領域/グリーン科学技術研究所 教授)

峰野 博史

【略歴】1999年静岡大学大学院理工学研究科計算機工学専攻修了.同年日本電信電話(株)入社.NTTサービスインテグレーション基盤研究所を経て,2002年10月より静岡大学情報学部助手.2018年4月より同教授.九州大学大学院システム情報科学府 博士(工学).知的IoTシステム,マルチモーダル時系列データの機械学習,Agri-CPHS (Cyber Physical Human System) 等の研究開発に従事.情報処理学会 コンシューマ・デバイス&システム(CDS)研究会主査.IEEE,ACM,電子情報通信学会,農業情報学会,Informatics Society等,各会員.

9:30-9:35 オープニング

峰野 博史(静岡大学 学術院情報学領域/グリーン科学技術研究所 教授)

峰野 博史

【略歴】1999年静岡大学大学院理工学研究科計算機工学専攻修了.同年日本電信電話(株)入社.NTTサービスインテグレーション基盤研究所を経て,2002年10月より静岡大学情報学部助手.2018年4月より同教授.九州大学大学院システム情報科学府 博士(工学).知的IoTシステム,マルチモーダル時系列データの機械学習,Agri-CPHS (Cyber Physical Human System) 等の研究開発に従事.情報処理学会 コンシューマ・デバイス&システム(CDS)研究会主査.IEEE,ACM,電子情報通信学会,農業情報学会,Informatics Society等,各会員.

9:35-10:05 講演(1) みんなで育てるスマート水産業

和田 雅昭(公立はこだて未来大学 教授)

和田 雅昭

【講演概要】水産業におけるスマート化とは、ICTを導入することではなく、日々のワークフローのちょっとした改善やムダの削減を実現することです。その意味で、最初からデータを集めることを目的とするのではなく、ちょっとした便利を提供するための手段としてIoTやスマートデバイスなどを活用することによって結果的にデータが集まり、集まったデータを解析し、次のちょっとした便利の提供につなげる、といったことの繰り返しがスマート水産業の社会実装につながっています。私たちの研究チーム「マリンIT・ラボ」にとって、スマート水産業の取り組みは漁業者と研究者との共創です。漁業者の仕事を観察することによってワークフローを理解し、ワークフローを壊さないシステムを漁業者と一緒に構築していきます。ときには、ワークフローに潜むムダを見つけることもあります。スマート水産業への第一歩は、漁業合羽を着て漁船に乗り、海に出ることであると考えています。

【略歴】公立はこだて未来大学教授。博士(水産科学)。1993年北海道大学水産学部卒業。同年より株式会社東和電機製作所で機械化による水産業の支援に従事。2005年より公立はこだて未来大学で情報化による水産業の支援に従事。2012年度北海道科学技術賞、2015年度総務大臣賞等を受賞。総務省地域情報化アドバイザー、水産庁スマート水産業現場実装委員等を兼務。著書に「マリンITの出帆」(2015年)、編著書に「スマート水産業入門」(2022年)がある。

10:05-10:35 講演(2) 様々な産地市場に転用可能な資源調査の自動化システム

長谷川 達人(福井大学 学術研究院工学系部門情報・メディア工学講座 准教授)

長谷川 達人

【講演概要】高齢化や就業者不足が進む水産業において,漁業従事者の所得向上や業務の効率化により持続可能な水産業の実現が急務である.現在,我が国の漁業では適切な資源管理により,漁業従事者の長期的な所得向上と,水産資源の維持が図られている.資源管理には正確な資源調査が必要であるが,多くの市場では職員らの手作業により漁獲物の計測が行われている.本研究では,市場で水揚げされた漁獲物がベルトコンベアを流れる環境において,深層学習を用いて漁獲物の魚種,魚体長,尾数を自動記録するシステムを開発した.特に,画像合成手法による訓練データの自動生成により,様々な漁場に容易に転用可能な認識モデルの開発事例を紹介する.

【略歴】2009年石川工業高等専門学校電子情報工学科卒業.2011年金沢大学工学部情報システム工学科卒業.同年株式会社富士通北陸システムズ入社.2014年東京医療保健大学助手.2015年金沢大学大学院自然科学研究科修了.博士(工学).2017年福井大学大学院工学研究科講師,現在,同大学准教授.コンテキストアウェアネス,深層学習,教育工学に関する研究に従事.

10:35-11:05 講演(3) 農業ビッグデータ時代のチャレンジ

郭 威(東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授)

郭 威

【講演概要】この10年近くの間、センシング技術、パソコンとストレージ性能、データ解析手法の向上に伴い、農業もビッグデータの時代にやってきた。筆者が2015年からJST・CRESTビッグデータ応用領域の中の農業ビッグデータ課題へ参加され、農業における栽培技術の向上や育種の効率化のため、農業ビッグデータの構築及び農学における有用な新知見を発見する手法の開発を研究目的としてきた。本講演では、農地ドローン画像を一例として、ビッグデータの収集、解析及び応用事例を紹介する。そして実感してきた農業ビッグデータ時代の課題も共有し、情報科学の専門家との意見交換を期待しています。

【略歴】2014年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。2015年東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、2019年同研究科助教、2022年同研究科特任准教授、准教授、現在に至る。農業情報学、植物フェノミクスを専門としている。ドローンやロボットを利用したフィールドセンシング技術、画像処理、機械学習を用いたハイスループット・フェノタイピングアルゴリズムの開発及び農業生産、研究現場への応用に関する研究を取り込んでいる。

11:05-11:35 講演(4) 農学と情報学の融合によるスマート農業の実現

中川路 哲男(農研機構 理事)

中川路 哲男

【講演概要】急激に進展する情報技術は、多くの産業で活用され、社会や人々の生活に大きな変革と進展をもたらした。農業という一次産業では、長年の熟練者の暗黙知によって支えられてきており、いわゆる経験と勘の比重が大きく、情報技術の導入は緒についたばかりである。しかしながら、食による健康、食糧安全保障、気候変動対策などの要因から、農業の重要性は今後ますます高まることが予想され、情報技術による農業の高度化・効率化が期待されている。農業は、植物という生き物が相手であり、工業製品のようなアプローチは通用しないため、農学と情報学をうまく融合させる必要がある。本講演では、農学と情報学の融合によるスマート農業の実現について、講演者の所属する農研機構の取り組みについて紹介する。

【略歴】1981年 東京大学工学部電気工学科卒業
1983年 同大学院修士課程修了
同年 三菱電機に入社
1992年東京大学より博士(工学)取得.
情報ネットワークや情報セキュリティの研究開発ならびに実用化に従事.
2015年より同社情報技術総合研究所・所長(執行役員),役員技監などを歴任.
2021年国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)に入構.
2021年静岡大学創造科学技術大学院インフォマティクス部門 客員教授
現在,農研機構理事(基盤技術担当).
情報処理学会フェロー,工学博士

11:35-12:00 パネル討論

司会

樋口 毅(三菱電機株式会社 名古屋製作所 主管技師長)

樋口 毅

【略歴】1990年東北大学工学部情報工学科卒業,同年三菱電機(株)入社.OS,サーバ仮想化技術,サーバ運用監視技術,組込みプラットフォーム技術開発に従事.2022年より現職.情報処理学会においては,理事(2020-21年度),コンシューマ・デバイス&サービス研究会幹事.

パネリスト

和田 雅昭(公立はこだて未来大学 教授)

和田 雅昭

【略歴】公立はこだて未来大学教授。博士(水産科学)。1993年北海道大学水産学部卒業。同年より株式会社東和電機製作所で機械化による水産業の支援に従事。2005年より公立はこだて未来大学で情報化による水産業の支援に従事。2012年度北海道科学技術賞、2015年度総務大臣賞等を受賞。総務省地域情報化アドバイザー、水産庁スマート水産業現場実装委員等を兼務。著書に「マリンITの出帆」(2015年)、編著書に「スマート水産業入門」(2022年)がある。

パネリスト

長谷川 達人(福井大学 学術研究院工学系部門情報・メディア工学講座 准教授)

長谷川 達人

【略歴】2009年石川工業高等専門学校電子情報工学科卒業.2011年金沢大学工学部情報システム工学科卒業.同年株式会社富士通北陸システムズ入社.2014年東京医療保健大学助手.2015年金沢大学大学院自然科学研究科修了.博士(工学).2017年福井大学大学院工学研究科講師,現在,同大学准教授.コンテキストアウェアネス,深層学習,教育工学に関する研究に従事.

パネリスト

郭 威(東京大学 大学院農学生命科学研究科 准教授)

郭 威

【略歴】2014年東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了。博士(農学)。2015年東京大学大学院農学生命科学研究科特任助教、2019年同研究科助教、2022年同研究科特任准教授、准教授、現在に至る。農業情報学、植物フェノミクスを専門としている。ドローンやロボットを利用したフィールドセンシング技術、画像処理、機械学習を用いたハイスループット・フェノタイピングアルゴリズムの開発及び農業生産、研究現場への応用に関する研究を取り込んでいる。

パネリスト

中川路  哲男(農研機構 理事)

中川路  哲男

【略歴】1981年 東京大学工学部電気工学科卒業
1983年 同大学院修士課程修了
同年 三菱電機に入社
1992年東京大学より博士(工学)取得.
情報ネットワークや情報セキュリティの研究開発ならびに実用化に従事.
2015年より同社情報技術総合研究所・所長(執行役員),役員技監などを歴任.
2021年国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構(農研機構)に入構.
2021年静岡大学創造科学技術大学院インフォマティクス部門 客員教授
現在,農研機構理事(基盤技術担当).
情報処理学会フェロー,工学博士

パネリスト

峰野 博史(静岡大学 学術院情報学領域/グリーン科学技術研究所 教授)

峰野 博史

【略歴】1999年静岡大学大学院理工学研究科計算機工学専攻修了.同年日本電信電話(株)入社.NTTサービスインテグレーション基盤研究所を経て,2002年10月より静岡大学情報学部助手.2018年4月より同教授.九州大学大学院システム情報科学府 博士(工学).知的IoTシステム,マルチモーダル時系列データの機械学習,Agri-CPHS (Cyber Physical Human System) 等の研究開発に従事.情報処理学会 コンシューマ・デバイス&システム(CDS)研究会主査.IEEE,ACM,電子情報通信学会,農業情報学会,Informatics Society等,各会員.