情報処理学会第85回全国大会 会期:2023年3月2日~4日 会場:電気通信大学

情報科学の達人3.0

日時:3月4日 13:20-15:20

会場:特別会場2

【セッション概要】国立情報学研究所,情報処理学会,日本情報オリンピック委員会は,共同で,高校生,高専生のトップ才能に対して,我が国の情報学分野研究力の向上と底上げ につなげるプログラムとして,世界最先端の情報学研究に触れてもらい,研究を始めるJST GSC「情報科学の達人」プログラムを2020年4月より実施している.本企画では,3年間の取り組み、3期生となる今年度の受講生が行ったプログラムを紹介するとともに,受講生によるポスター形式の研究成果発表を行う.

13:20-13:25 オープニング

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授・センター長)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST GSC「情報科学の達人」サブコーディネータ

13:25-13:35 講演 「情報科学の達人」プログラムと第3期生の取り組み

河原林 健一(国立情報学研究所 情報学プリンシプル研究系)

河原林 健一

【略歴】1998年慶応大学理工学部卒,2001年慶応大学理工学研究科後期博士課程修了(理学博士).2003年東北大学情報科学研究科助手,2006年国立情報学研究所助教授,2009年より同教授,2019年より同副所長.現在ビッグデータ数理国際センター長,およびJST ACT-X「数理・情報のフロンティア」の総括.離散数学,アルゴリズム,理論計算機科学からAI,データマイニングの研究に従事.2008年度IBM科学賞,2012年度日本学術振興会賞,日本学士院学術奨励賞.SODA’13 Best paper、2021年Fulkerson Prize.JST GSC「情報科学の達人」コーディネータ

13:35-15:05 ポスター発表

15:05-15:20 講評・クロージング

評価委員

運営委員:河原林健一,岡部寿男,高橋尚子,佐藤真一,筧捷彦,谷聖一

メンター:鳴海 紘也(東京大学)、山口 勇太郎(大阪大学)、河瀬 康志(東京大学)、石畠 正和(NTTコミュニケーション科学基礎研究所) 、吉田 悠一(国立情報学研究所)、平原 秀一(国立情報学研究所) 、杉山 麿人(国立情報学研究所)、浦西 友樹(大阪大学)、室屋 晃子(京都大学)、梶野 洸(日本IBM)、菅原 朔(国立情報学研究所)、穐山 空道(立命館大学)、平木 剛史(筑波大学)、五十川 麻理子(慶應義塾大学)、片岡 裕雄(産業技術総合研究所)

展示
番号
ポスタータイトル・応募者・概要

以下の発表の他、当日は追加発表もあります

#01「タイピング上達用AIの開発」
新海 壮太(福井県立高志高等学校 高校3年生)
クラスタリングを活用し、タイピングゲームの結果に基づいてタイピングの弱点発見、能力向上を効率よく行えるシステムを作りました。研究内容は「タイピングにおいて苦手を発見するための最適手法の考案、実装」です。まずプレイヤーのタイピングテスト結果と事前に取得しておいたタイピングテストのデータセットを用いて、キーごとに2次の特徴量を設定することで機械学習に通し、正解とミスとで分けてから入力速度でクラスタリングを行います。次にその結果からタイプミスや苦手キーの傾向を分析し、さらにプレイヤーと類似した結果を出す人の傾向などを含めたデータをプレイヤーに提供し、未知の弱点を発見してもらいます。このような流れでタイピング技術の向上に努めてもらうのが目的です。鍵となるポイントは主に特徴量の設定方法、クラスタリング手法の選択、クラスタリング結果の解釈の仕方です。
#02「自然言語処理によるデジタル教材の設問のグルーピング手法の確立」
上野 漱太(開成高等学校 高校1年生)
近年、自然言語処理は会話ロボットや自動翻訳などさまざまな分野で使われるほどに発展してきている。中でもDoc2Vecは、文書を複数の実数値ベクトルで表す分散表現を得ることで、定量的に複数文書同士を評価することができる。この技術を教育分野、具体的にはデジタル教材の改善に活かしたいと考えた。そこで、本研究では、多様なデジタル教材があふれる近年、学習者が苦手分野の克服のための教材を見つけることを助けるアルゴリズムの開発を目指した。具体的には、学習者の弱点を強化する問題をレコメンドするために、ユーザーの解答の傾向や問題同士をグルーピングする必要があると考え、それに効果的な自然言語処理の方法を考察した。
#03「水紛争における意思決定とゲーム理論」
水谷 優来(United World College Red Cross Nordic 高校2年生)
ナイル川流域ではスーダン・エジプト間で水資源を巡って対立が続いている。両国は水にあまり恵まれず、ナイル川の少ない流量に頼っているが、人口増加に加え、都市化と工業化の影響により水の需要が高まっている。そこで、水紛争に対する意思決定を解明すべく、ゲーム理論を用いてどのような解 (ナッシュ均衡解含め)が存在するのか研究を行っている。具体的には、ナイル川の水資源開発について、スーダン、エジプト、世界銀行や流域委員会など流域を管理する主体との間で妥協を見出すための駆け引きがされていると仮定し、三者が何らかの形で妥協点を見出すべく非公式に接触した結果、自身および他者のとりうる戦略を知っているものとして研究を行う。そして、上流国、下流国、国際機関のそれぞれにオプションを用意し、それぞれの選択に対する効用をこれまでの対立や各国の立場から仮定し、3人ゲームの形にする。研究途中であるため、結果はまだわかっていない。
#04「ピースのサイズ制限無し3次元ポリキューブ詰め込み問題の定数時間検査アルゴリズム」
松井 智生(筑波大学附属駒場中学校 中学3年生)
3次元ポリキューブ詰め込み問題とは、複数の単位立方体を面を合わせて繋げた立体であるポリキューブを90度単位の回転をさせて、大きさn * n * nの立方体に隙間が生じないように詰め込めるかを判定する問題である。本研究では3次元ポリキューブ詰め込み問題に対する定数時間検査アルゴリズムを与える。ここで検査アルゴリズムとは、詰め込みができる時は高い確率で受理し、詰め込みを可能にするためには少なくともε割合のポリキューブの形を変更しなければならないときは高い確率で拒否するアルゴリズムのことである。また定数時間とはポリキューブの個数に依存しない計算時間であることを意味する。従来は、2次元詰め込み問題およびポリキューブのサイズに制限がある3次元詰め込み問題については定数時間で検査可能なことが知られていた。
#05「fine-grained complexity帰着を用いた編集距離の計算量について」
伊藤 宗信(慶應義塾高等学校 高校3年生)
ある問題に対してどの程度効率的なアルゴリズムが存在するかを表す指標として、クラスPとNPといった分類方法が存在する。この分類方法では、「多項式時間で解けるアルゴリズムが存在するか」というところに注目している。これに加え近年では、さらに細かく分類をする「fine-grained complexity」という考え方が注目されている。
本研究では、このfine-grained complexityの考え方を用いて、2つの異なる長さの文字列の編集距離の計算量について研究を行った。
#06「FPSの戦略最適」
藤田 結生(栄光学園高等学校 高校3年生)
より正確に言うとFPSではなく十分に狭いマップ上で行われる攻守のあるタクティカルシューターの戦略最適です。マップをグラフに変換し、そのグラフ上で動くプレーヤーを考え、最適な待ち位置や行動を計算します。評価には視界を使っています。
#07「ZDD による Equaline 解列挙」
一木 輝(渋谷教育学園幕張高等学校 高校2年生)
Equaline は marudice によって 2019 年に公開されたパズルゲームである。Equaline では整数と演算子が市松模様にラベル付けされたグリッドグラフと目標値が与えられ、その目的はグラフ上の単純パスのラベル列である数式を用いて目標値を構成することである。本研究の目的は、Equaline の問題が与えられたときにその解となる単純パスをすべて列挙することである。「お姉さん問題」によって知られるように、グリッドグラフ上の単純パスの数はグラフのサイズに対して指数的に増加する。ZDD は集合族をコンパクトに表現するデータ構造であり、所与のグラフ中の特定の性質を満たす部分グラフの索引化にも利用されている。本研究では、Equaline の解集合を表現するZDDを効率的に構成する手法を提案する。これは、単純パス集合を表現する ZDD の構築アルゴリズムとして知られる Simpath に対して有向性・部分評価の情報による拡張を考えたものである。
#08「立体数独の性質について」
山下 結菜(東京都立小石川中等教育学校 高校2年生)
数独(ナンプレ)とは、3×3ずつのブロックに区切られた9×9のマス目に、同じ行・列・ブロックに同じ数が入らないように数を書き込むペンシルパズルである。変種として、4×4や16×16、6×6などの大きさが違う数独や、4×4×4や9×9×9のような立体の数独、正三角形のマスが16マスや81マス集まって全体が正三角形になっている数独なども存在する。本研究では4×4×4の立体数独の解盤面(すべてのマスが埋まった状態の盤面)や4×4×4×4の4次元数独の性質を調べた。その結果、立体数独はどのマスにも必ず同じ数が入るマスが存在すること、解盤面は768通りあること、最小ヒント数が4である解盤面と5である解盤面があること、4次元数独は存在しないことがわかった。また、乱数を用いて立体数独の問題を生成するプログラムをC++で作成・実行し、10000問を350msほどで生成することができた。
#09「Benefit and improvement of Text-To-3D approach」
南平 真希(Nagoya International School 高校2年生)
モデリングだけでなく、3Dに関連するコンピュータビジョンの要素が日常生活の中に増えている。DreamFusionは、Text-to-3D技術を応用し、与えられたキャプションから3Dオブジェクトを生成するものである。このような3D技術が検索エンジンと統合されれば、3Dのメリットが最大化されると期待できる。最近の検索エンジンは、画像を入力して検索できる。これが3Dに次元拡張されると、オブジェクトが平面からプレビューを表示できる立体に変わるため、全体像の把握を容易にし、意思決定に役立つと予想される。オンラインショッピングで、服の3Dモデルが人のアバターに表示されれば、ショッピングの新たな需要が高まり、商品の販売の促進に期待できる。また、現在の3D動画をキャプチャして分離・解析すれば、その情報を基にText-to-3D技術を改良できる可能性がある。そして、この技術に不可欠な前処理をCNN (Convolutional Neural Network)により、簡略化できる可能性がある。本研究では、Text-to-3D技術の利点を批判的に議論し、さらにその改善の可能性について検討し、具体的にCNN (Convolutional Neural Network) を用いた簡略化手法について説明する。
#10「Pythonのバイトコードを用いた高表現力な型チェック」
安田 龍之介(麻布中学校 中学3年生)
動的型付け言語であるPythonは、非常に柔軟なプログラミングをすることができる一方、静的型付けによる保守性といった恩恵が受けられない。Pythonに静的な型チェックを行うツールは複数存在するが、Pythonの柔軟さを保ったまま上手く型チェックを行うのは難しい。本研究では、Pythonコードを実行した時に、変数や式の型だけではなく、値が具体的にどのようになるかを推定することによって、静的型チェッカなどにより高い表現力を与えることを目指している。具体的には、Pythonバイトコードを擬似的に実行し、各変数・式が取りうる値がどのようになるかを推定する。オブジェクトの型が何であるかも、そのオブジェクトの値としての情報として扱う。この方針では、Pythonの実際の実行により即した推定をできるので、実際には型エラーが出ないが普通に型推論をするとエラーになるプログラムをパスするようにしたり、普通の型チェッカで検査することが難しい動的なプログラムを検査できるようになることが期待できる。
#11「プレイヤの操作後の盤面が既知である2048に対する有効なアルゴリズムと評価関数」
常泉 智誠(開成高等学校 高校1年生)
「2048」は4×4の盤面の中で同じ整数が書かれたタイルを重ねながら高得点を目指すスライドパズルゲームである。CodinGameというサイトの「2048」のコンテストでは、プレイヤが操作をした後の新しいタイルの出現位置とそれに書かれた整数値が事前に分かるようになっている。このような状況設定における有効なアルゴリズムと評価関数を調べるため、モンテカルロ木探索、TD学習、BeamSearchの3つのアルゴリズムを実装して比較した。その結果、モンテカルロ木探索では、多少乱雑に盤面を動かしてもそれなりに高い得点を達成できることが示された。それに対し、TD学習では、大きい整数が書かれたタイルを順に端に置いていく戦略がより有効であることが示された。また、このような戦略を反映させた評価関数を用いたBeamSearchでかなりの高得点を得ることができた。
#12「長い文章に向けるTTSモデル」
繆 則安(茗渓学園高等学校 高校2年生)
現在、TTSのたくさんのAIモデルではVITSが有名であり、VITSに基づくモデルもたくさんある。VITSはCVAEを使い、音声を人で分けて条件(condition)として訓練しているから、訓練集での人の声しか生成できない。しかも、VITSは文を分析する時、いくつかのtransformer layerを使っている。LSTMやRNNと違い、attentionからのtransformerは記憶がないから、長さの制限を超えると、超えた部分の情報が失う。そのため、VITSを、長い文章に対し、入力の音声の音色に基づき、音声を合成できるように改造したい。
一つ目はtransformer layerである。<CTX>ベクトル(context vector)を導入し、BERT layerに大量のデータを学習させる。Lossとtasksは普通のBERTの訓練がほぼ同じであるが、<CTX>を訓練する必要があるから、一つの文章をいくつかの段落に切り、RNNのように訓練する。
二つ目は音声の特徴の学習である。VITSでは、VAEを使い、すべての人の声がガウス分布に適合していると仮定していて、人の番号をconditionとして訓練している。そのため、VITSが見たことない人の音声が合成できない。この不足を克服するためには、CVAEのCについて変更しなければならないと思う。
#13「数式生成学習モデルで高精度化される車載LIDARからの3D物体検出」
志田 遥飛(鶴岡工業高等専門学校 高等専門学校3年生)
自動運転システムに組み込まれる屋外3DシーンのLIDAR点群を入力とする物体検出器の推論性能は,システムの安全性に直結する.しかし自動運転システムへの組み込みを考慮する場合,推論時間の制約があり,物体検出器の精度と推論時間がトレードオフの関係になる.そのため既存の物体検出器は十分に性能を発揮することができていない.この場合,推論時間に影響がない大規模事前学習での性能向上が手法としてあげられるが,現状本タスクの大規模なデータセットは存在しておらず,事前学習効果による精度向上は難しい.本研究では,数式から事前学習データを生成する数式駆動教師あり学習(FDSL)を拡張することで,屋外3DシーンのLIDAR点群を入力とする物体検出器の大規模事前学習手法を実現する.具体的にはFDSLの特徴である抽象的表現をさらに強調することで,頑健性が向上するような手法の開発を試みる.実験では提案した手法を複数のアーキテクチャに適応,複数のデータセットで評価することで広く有効性を検証する.
#14「Stable diffusionによるインタラクティブな画像生成に向けた検討 」
妻鹿 洸佑(筑波大学附属駒場高等学校 高校1年生)
文字列を入力として画像を生成する機械学習モデルであるstable diffusionが注目を集めており、専門的な知識を持たないユーザでも各々の用途に合わせた画像を利用できる時代が到来しつつある。一方で、実際に画像を生成する際には、ユーザが主観的に求める画像を生成できそうな文字列を探索する必要があり、非直感的な入力(呪文)が求められることもある。そこで本研究では、ユーザが入力した文字列から複数の画像を提示した後、ユーザの選択した画像に近い画像をインタラクティブに再生成し最適化を行うUIを提案する。これにより、ユーザは入力文字列を探索することなく画像の選択に応じて好みの出力を得る。本稿では事前検討として、広告の自動生成を題材とする。具体的には、ある広告のキャッチコピーを入力とした複数の画像生成を行い、生成される画像の幅を広げるための文字列の生成方法などについて検討する。
#15「活性汚泥処理における最適条件を選択する数理モデルの考案について」
板垣 仁菜(早稲田佐賀高等学校 高校2年生)
現在、家庭から出る汚水を綺麗にする下水処理方法は活性汚泥法が主流である。この活性汚泥方法の実用現場では、微生物を使用した処理であるため、水温や流入水質など異なる処理環境で最適条件を現実化することが課題の一つである。維持管理に従事する技術者が少ないうえに、自然条件に左右されるため、一義的なマニュアルの実施が難しく、技術の蓄積と伝承が出来ないことが問題となっているという。現在、我が国においては熟練技術者の大量の退職と、より少ない労働者による維持管理時代を迎えており、AIの活用による維持管理のイノベ―ションを実効化する必要がある技術分野は多く、少子高齢化、人口減少の日本における経済維持の一つの課題である。
そこで、今回は活性汚泥処理法の事例を活用して、技術を自動化する数理モデルの考案に取り組んだため、その内容を発表する。
#16「グルーピング問題におけるエージェントシミュレーションの性能評価」
岩下 幸生(市立札幌開成中等教育学校 高校2年生)
参加者間の選好を考慮した3人組生成のグルーピング問題を解く上でのエージェントシミュレーションの性能を、各参加者の満足度の総和を用いて評価した。参加者は他の全ての参加者に対する選好順を持っており、同じグループに割り当たった他の参加者に対する順位の和を各参加者の満足度とした。そして、場の大きさや参加者が従う規則(上位/下位どの程度の順位の相手には近づく/遠ざかるか)を変更した場合の性能の変化について実験を行った。さらに、整数計画ソルバーを用いて与えられた事例に対する満足度の総和の最大値/最小値を求め、それらとエージェントシミュレーションで出力された値を比較した。その結果、場を小さくし、参加者の動きが活発であるような規則にした方が性能が良くなる傾向にあるということが分かった。また、エージェントシミュレーションで出力された解は整数計画ソルバーで出力した最大値に対して、最大でその0.87倍だった。
#17「SPQR Tree の実装と SPQR Tree を用いたオンライングラフアルゴリズムについて」
小熊  大翔(筑波大学附属駒場中学校 中学3年生)
SPQR Tree はグラフの3連結成分を表現するデータ構造である。その構築は線形時間で行えることが知られているが、実際に動く正しい実装例は数少ない。今回はその実装を紹介しようと思う。また、SPQR Tree はオンライングラフアルゴリズムに応用できることが知られている。例を挙げるとするならば、平面性判定、最小全域木などが当たる。今回は、そのようなオンライングラフアルゴリズムに対するSPQR Tree の適用方法についても触れようと思う。
#18「美術大学の入学試験におけるデッサンの能力の測定を補助するシステム」
窪寺 瑛太郎(桐光学園高等学校 高校3年生)
デッサン力とは、物の位置関係や、光の当たり方など、空間的な情報を正しく構成し描画するための能力であり、絵を描くにあたって重要な能力の一つと考えられている。そのため多くの美術大学では、受験者のデッサン力を測るために、入学試験の項目としてデッサンを課している。一方、デッサンからその作者のデッサン力を推定すること自体難しく、受験生にとって自身自身や周囲の受験者のデッサン力を正しく評価することは困難である。その結果、美術大学予備校に所属しても自身が合格の基準を満たしているかを事前に知ることは難しく、デッサン力を正しく評価できる講師の有無によって合格率が非常に偏るという現象が見られている。そこで本研究では、受験者が他人のデッサンをどの程度正しく評価できているかを評価することで、その受験生のデッサン力を測るシステムを提案する。提案システムでは、受験者は実際にデッサンをする必要がないため、場所にとらわれず短時間で自身のデッサン力を測定可能である。提案システムによって美術大学予備校によって生まれていた合格率の格差を軽減できることが期待できる。
#19「WEB上の技術系記事に対する有用性判断支援システム」
竹内 悠人(灘高等学校 高校1年生)
近年、情報社会と言われるようにネット上に多くの情報が飛び交うようになったが、それと同時に本当に自分が望んだ情報にアクセスすることが難しくなっている。例えばGoogleなどで専門用語を含まないような検索をしてしまうと、本質を突いたサイトを差し置いて自社製品宣伝やアフィリエイトを目的としたサイトや中身が全くないサイトが検索上位に表示されてしまうことが多々ある。
本研究は、Google等のWEBページ推薦アルゴリズムによらず、技術に関する知識を共有するためのサービスから取得した記事を利用して有用性を定義したデータセットを構築し、NLP の機械学習手法である BERT を訓練する。学習後のデータの可視化を通して有用性を特徴づける単語を抽出し、各記事の特徴やスコアを見たユーザーのフィードバックをもとに、より高性能なシステムを提案する。
#20「書籍情報をもとに生成したグラフ構造におけるランダムウォークを用いた意外性の高い書籍推薦手法」
細島 涼雅(茨城県立古河中等教育学校 高校3年生)
近年、電子書籍やインターネット上での書籍の購入サービスの人気の高まりにより、高度な書籍の推薦システムの需要が高まっている。また、意外性の高い推薦を提供することによって、ユーザの興味関心を広げることができると考えられる。しかし、既存の書籍推薦システムでは、意外性を考慮した推薦は難しい。
そこで本研究では、書籍の説明文やあらすじを利用してそこに含まれる単語間の関係などを用いて効果的に意外な関連書籍を推薦するための書籍の類似性評価手法及び推薦手法を提案する。書籍の類似性からより関連性の高いものを結ぶことによってグラフ構造を生成し、このグラフ上でランダムウォークを行い、ある程度遠い分野の書籍を推薦することで意外性の高い、ユーザが認知していなかった書籍を推薦することを目指す。さらに、得られたグラフ情報を視覚的に提示することで、より分かりやすい、インフォーマティブな推薦も目指す。
#21「関数型プログラミングのための参照透明性を保つことのできる高速なリスト」
二又 康輔(久留米工業高等専門学校 高等専門学校3年生)
手続き型プログラミングにおいてはリストに対する要素の変更は定数時間で行えることが多い.一方,関数型プログラミングでは参照透明性を保つためにリストの要素を変更するたびに新たなリストを作り直す必要があり,これにはリストの長さに比例した計算量を要する.また,HaskellのIOArrayやSTArrayなどのようにリストの要素変更を定数時間で行えるデータ構造も存在するが,これらを用いると参照透明性が失われるため,IOモナドやSTモナドといったモナド中で扱われる.ところで,リストに関する操作の多くは最新版のリストに対してのみ行われる傾向がある.そこで,本研究では最新版のリストに関する破壊的な操作を高速に行うことができかつ,参照透明性を保つことのできるデータ構造の実現を目指している.具体的にはリストに対する破壊的な操作の可逆性に着目して,データ構造の実装を進める.
#22「スロバーの離散・連続形状がユーザのストレスに与える影響の考察」
杉山 咲(奈良工業高等専門学校 高等専門学校4年生)
スロバーとは、計算機がバックグラウンドで処理を行っている際に表示される、回転アニメーションのことである。現在のWindowsやmacOSなどでは、グラデーションや複数色を利用した連続的なスロバーが利用されているが、中には時計の文字盤のように離散的な形状を持つスロバーも存在し、その形状がユーザに与えるストレスなどの影響は明らかになっていない。そこで、本研究では連続的なスロバーと離散的なスロバーを実装し、その形状が与える影響について調査した。具体的には、ユーザに画面上の複数のブロックのうち、特定のブロックをなるべく早く選択してもらうタスクを依頼し、その作業中、意図的に2条件のスロバーを提示した。本稿では、ユーザ実験の結果を紹介するとともに、今後の課題について述べる。
#23「機械学習によるトウシューズ推薦システム」
植田 奈々子(Rugby School 高校1年生)
バレエでつま先立ちでの舞踊のために使用されるトウシューズは、実店舗でのフィッティングを元に購入することが多い。しかし、数あるブランドや店舗から足に合うものを見つける事は非常に難しく、購入後に足に合わなかったり深刻な怪我を引き起こしたりすることも多々ある。そこで、本研究ではユーザーの足のデータから足に合うトウシューズを診断する機械学習システムの構築を目指す。具体的には、さまざまな機械学習の手法を用いて予測した結果と実際にユーザーが使用しているトウシューズを比較することによって、フィッティングへの機械学習の適用方法を探る。また、今まで知られてきたトウシューズのフィッティングの知識や、トウシューズ独自の特徴の観点から学習を評価する。
#24「組合せ最適化を用いた公平で面白いテニス大会の設計」
多田 諒典(筑波大学附属駒場高等学校 高校2年生)
本研究では、テニスの大会をより公平で面白くする組合せ最適化問題に取り組む。いくつかの学校が複数日にわたって総当たり戦をして、学校同士の対戦では選手の人数分だけシングルスの試合が行われるという設定を考える。このとき、できるだけ公平で面白い大会になるように試合日程・各学校の対戦相手を決めたい。ここで、「公平さ」を評価するために”carry-over effect”という指標を導入する。ある学校Aが強い学校Bと戦った直後は疲弊しており、その後Aと戦う学校はBのおかげで相対的に有利になるのではないかというような考え方で、そのような組合せの偏りを減らすことでさらに公平になるという考えである。「面白さ」は各試合の結果を予測するのが難しいほど高くなるものと定義する。各選手に複数の指標(スピード、体力など)を数値として与えて各試合を評価する。
#25「ページテーブル上の Global bit 書き換えによるプロセス間データ覗き見の可能性検証」
吉岡 恵吾(渋谷教育学園渋谷高等学校 高校1年生)
本研究では RowHammer 攻撃でこれまで着目されていなかったページテーブル上のフラグを書き換えることで、攻撃者が被攻撃者のデータにアクセス可能になることを示した。RowHammer 攻撃とは、メモリ上の同一のアドレスに繰り返しアクセスすることで、DRAM の特定のセルから電荷が放出され、メモリ上の値が書き換わる現象である。本研究では、ページテーブル上の Global bit の反転により起こる現象を、CPU シミュレータ上で動作する Linux を用いた実験を通して解明した。ページテーブルエントリ上の Global bit が 1 であるとき、そのエントリ上のアドレス変換情報のキャッシュが複数プロセスで共有される。RowHammer 攻撃で Global bit を書き換え、攻撃者と被攻撃者のプロセスでアドレス変換情報を共有させることで、攻撃者が被攻撃者のデータにアクセスすることが可能になった。
#26「音楽ゲームにおけるpix2pixを用いた譜面の自動高難度化システムの検討」
加藤 潤成(渋谷教育学園渋谷高等学校 高校3年生)
幅広いユーザに親しまれているゲームジャンルの一つである音楽ゲームでは、幅広いユーザが楽しく遊べるように、同じ曲に対して難易度の低いものから高いものまで複数の譜面が用意されることが多い。しかし、難易度を考慮して複数の異なる譜面を作成する作業には作成者の経験と主観に依存した困難が伴う。そこで、一つの曲に対して特定の譜面を制作した後で、その譜面の難易度変更を自動で行うシステムを提案する。具体的には、音楽ゲームの例として太鼓の達人を取り上げ、ある画像を異なる画像に変換する教師あり学習であるpix2pixの手法を利用することで、難易度が低い譜面の音符配列を入力した際に難易度が高い譜面を出力する手法を検討した。本発表では現在の進捗及び今後の課題について述べる。
#27「多言語フォント生成モデルの性能評価手法の考案」
何 振宇(灘高等学校 高校3年生)
世界にはさまざまなフォントがある。しかし、フォントの人手による開発は労力やスキルを要する。同じフォントであっても文字ごとにデザインしなければならないため、生成の労力はその言語の文字数に応じて増加する。また言語ごとに話者数が大きく異なることもあり、フォント数に格差がある。そこで本研究では深層学習を用いて特定の言語にあるフォントを別の言語の文字に対して適用することを目指し、独自にデータセットにおけるフォントスタイルおよび文字形状の多様性を定量化し、モデルの性能を評価する手法を考案した。既存のモデルを使って、あるフォントが適用された特定言語の文字画像からフォントスタイル情報を抽出して、それをもとに別の言語の文字にフォントを適用する。フォントスタイルおよび文字形状の多様性が制限されたデータによってモデルを訓練し、テストデータに対しての汎化性能を評価する。
#28「BARTを用いた料理レシピ感想文生成手法」
福谷 帆香(神戸市立工業高等専門学校 高等専門学校5年生)
近年,Cookpadや楽天レシピなどの料理レシピ投稿用コミュニティウェブサイトが普及し,様々な料理のレシピを知り,再現することが容易となっている.しかし,レシピ数が膨大であるため,最も求めているレシピを見つけることは非常に困難である.一方で,レシピ名などのテキスト情報から該当の料理の味を推定し,それを自然言語である「食レポ」のように表現することで,そのレシピが本当に自分の求めている味と近い料理のものかを知ることが可能である.本研究では,Cookpadデータセットを用いて,レシピ名と作ったよフォトレポートの略である「つくれぽ」との対応関係を学習した日本語BARTモデルにより,料理名から該当の料理を作った感想やその味を推定する手法を提案する.
#29「画像分類タスクのためのSpiking Neural Networkにおける神経符号化手法の比較研究」
越智 優真(木更津工業高等専門学校 高等専門学校2年生)
SNN(Spiking Neural Network)とは、第三世代の人工知能とも呼ばれる画期的なNNである。SNNは、すべての情報が生体脳を模倣したバイナリ列で表されるため、専用デバイスを用いることで従来のNNより圧倒的に少ない電力で高速に推論できることが知られている。SNNモデルを学習する上で重要になるポイントは2つある。1つ目は学習法である。本研究で使用するSG法は、生物学的な知見を基にしているSTDP法と比較して、従来のNNと同様に扱うことができる利点がありながら、現在様々なタスクにおいて高い性能を実現している。2つ目は神経符号化である。これは、実数値の入力をバイナリ列に変換する部分であり、多くの手法が提案されている。本研究では、神経符号化手法の評価指標のトレードオフの最も良好なポイントを探る。本研究を通して、目的に応じて最適な神経符号化手法を選択し、SNNの効果を最大限発揮することに期待できる。
#30「スマートフォンにおけるフリックの母音情報のみを利用したキーボード表示のない入力システム」
菅原 玄晶(宮城県仙台二華高等学校 高校2年生)
現在、スマートフォンで日本語入力をする際には、キーボードによるフリック入力がよく使われている。しかし、フリックに用いるキーボードが画面の多くの部分を覆っており、それ以外の情報提示を阻害している。この研究では、フリック入力のキーボードを表示することなくフリック入力を行う手法を提案する。具体的には、ユーザは画面のどこでもフリック入力を行うことができ、その出力はフリックに対応した「あ行」、「い行」などの母音のみの情報となる。このとき、画面には従来の子音に対応するキーは表示されないため、情報提示を大きく阻害されることはない。システムは母音の情報を入力として、前に打たれた文字列と現在の母音の情報を用いて現在打とうとしている文字列を予測・提案する。この研究では、既存のフリック入力キーボードと提案手法に関して、画面の占有率および入力速度を定量的に比較し、検証を行う。
#31「フライングディスクの軌道予測」
蓮見 優太(早稲田大学本庄高等学院 高校3年生)
フライングディスクの軌道予測アルティメットというスポーツに用いられるフライングディスクは人の直感に反する軌道で飛ぶため、初心者がその軌道を予測するのは難しい。本研究では、物体追跡ライブラリであるmmtrackingを用いて動画からフライングディスクの軌道データを収集し、そのデータに対してサポートベクターマシンを適用することで予測モデルを構築した。これを活用することで、新たなスポーツ観戦体験や、初心者の学習支援が実現できると考えている。
#32「ソーシャルメディア上の情報に対する信憑性判断支援システム」
友岡 優太(北九州工業高等専門学校 高等専門学校3年生)
近年、ソーシャルメディアを用いた誤情報・偽情報の拡散は社会に多大な悪影響を与え続ける事態に発展している。従って、情報に対するファクトチェックや誤情報・偽情報の拡散を防ぐための対策を講じることが求められている。しかし、GPT-3などの大規模言語モデルや画像生成モデルであるDALL-E 2が存在する現在においては、文章や画像における誤情報や偽情報自体が巧妙になっており、機械学習などによってファクトチェックを行う試みは難しくなっている。
本研究では、情報に対する信憑性の判断を補助するシステムによってTwitter上に投稿されているツイートの信憑性判断を支援することを目指す。TF-IDF値を用いて文章の重要語を抽出し、画像がリンクされている場合はキャプションの生成を行う。そしてWeb上にある関連情報を検索し提供することを通じてソーシャルメディア利用者自身が情報の信憑性を判断しやすい環境を提供する。
#33「ZDDを用いた効率的で網羅的な情報伝達のための広報車巡回路の列挙」
原田 そら(木更津工業高等専門学校 高等専門学校5年生)
災害時における地域住民への情報伝達は、避難誘導や支援物資の配布など、重要な役割を果たす。そのため通信インフラが災害により被害を受けた場合、人手での情報伝達が試みられる。実際、2019年の台風15号では長期にわたり電力網や通信が寸断し、自治体は広報車を巡回することで情報伝達を行った。
災害時の情報伝達では、緊急性や人的コストに関わる効率性と、公共的な情報を全住民へと伝える網羅性の双方を考慮する必要がある。また、災害による道路状況の変化を考慮し、安全な巡回路を能動的に選ぶ必要がある。
本研究では、効率的かつ網羅的な巡回路を表現するZDDの構築手法を提案する。
ZDDとは集合族の効率的なグラフ表現であり、様々なグラフの部分集合を効率的に扱うために利用されている。本研究では、巡回路の効率性と網羅性をグラフ制約として表現し、それらの制約を満たすグラフ集合を表現するZDDを効率的に構築する手法を提案する。
#34「autofeatライブラリにおける特徴量抽出方法の追加と性能評価」
松葉 大和(武蔵中学校 中学3年生)
AutoMLという技術は、機械学習において、自動で良い予測器を推定する技術である。この技術を用いると、非専門家でも専門的知識を用いずに良い予測器を得ることができる。AutoMLの一つの題材として、本研究では、scikit-learnの線形回帰モデルや分類モデルに対し、自動で特徴量エンジニアリングや特徴量の選択を行うautofeatというPythonライブラリを扱う。autofeatでは、もともとの特徴量に何種類かの線形変換あるいは非線形変換を組み合わせて適用することで、新たな特徴量を抽出している。そこで本研究では、autofeatライブラリに特徴量の抽出の方法を新たに加え、新しく抽出されるようになった特徴量が実際にどのくらい選択されるのかを確認した。そして、新しく抽出されるようになった特徴量を用いた場合のモデルの性能を評価し、従来手法や従来のautofeatライブラリによって抽出された特徴量を用いた場合のモデルの性能と比較した。

#35「エコたわしのデジタルファブリケーションに向けた複数色の編み図自動生成」
有野 真優(関西学院千里国際高等部 高校1年生)
エコたわしとはアクリル糸を使ったかぎ針編みによる手編みのタワシであり、洗剤を使わずに使用できるため環境にやさしく、自分だけのデザインを実現できるため、ものづくり愛好家の間で人気を集めている。通常エコたわしを作る際は、まず大まかな編み図を考えてから、実際に作りつつ編み図の不具合を修正する。しかし、初心者には編み図をデザインすること、修正することは難しい。そこで本稿では、ユーザの入力したイラストから複数色を含む編み図を生成するGUIを提案する。画面は左右に分かれており、右側のキャンパスにマウスでイラストを描くと、左側のスペースにイラストを元にした編み図が生成される。またイラストを修正すると、リアルタイムで編み図が変更されるため、エコたわしを編みながら編み図を修正することができる。