情報処理学会第85回全国大会 会期:2023年3月2日~4日 会場:電気通信大学

Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェア技術の構築

日時:3月2日 9:30-11:30

会場:第1イベント会場

【セッション概要】わが国が提唱するSociety 5.0が目指す社会は、人とモノがつながり、さまざま な知識や情報が共有され、今までにない新たな価値を生み出すデータ駆動社会で ある。その実現のためには、プライバシーやセキュリティー、知的財産などの安 全を確保した上で、自由に「データ」が流通することが必要で、令和3年度の文 部科学省の戦略的創造研究推進事業の戦略目標の一つとして「Society 5.0時代 の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウエアの研究開発」が設けられ、同年よ りJST CREST、さきがけ研究が実施されている。本セッションでは、令和3、4年 度にCREST、さきがけに採択された研究者の発表とアドバイザーを中心としたパ ネルを実施し、その取り組みや技術課題を紹介・議論するとともに、令和5年度 のCREST、さきがけの公募について紹介する。

9:30-9:40 司会 「Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウェアの研究開発」について

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授・センター長)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括.

9:40-9:55 講演(1) IoTのための自動テスト・自動修正基盤の構築

吉田 則裕(立命館大学 情報理工学部 教授)

吉田 則裕

【講演概要】スマート家電等,インターネットに接続されたIoTデバイスがどんどん普及してきています.IoTデバイスを開発するメーカーはバグが存在しないように,十分に検証を行ってからリリースします.しかし,IoTデバイスが複数のユーザーや 他のデバイスを識別しつつ,ユーザーやデバイスに合わせた複雑な動作をするため,バグを発見・修正することは容易ではありません.安全なIoTデバイスを実現するためには,コンピューターが自動的にバグを発見したり,自動的にバグを修正したりしてくれたら便利だと思いませんか?本講演では,このような自動バグ発見・自動修正技術の実現に向けた取り組みを紹介します.

【略歴】2009年大阪大学大学院情報科学研究科博士後期課程修了.博士(情報科学).日本学術振興会特別研究員,奈良先端科学技術大学院大学助教,名古屋大学准教授を経て,2022年より立命館大学教授.2021年よりJST さきがけ 研究者.ソフトウェア工学を専門とし,中でもファジングなどの自動テストやプログラム解析に取り組む.

9:55-10:10 講演(2) 健康行動セキュリティのためのエンパワメントICTの実現に向けて

中村 優吾(九州大学 大学院システム情報科学研究院 助教)

中村 優吾

【講演概要】本研究では、「健康行動セキュリティ」というコンセプトに基づき、(1) 人間の健康的な行動や生活習慣を資産、(2) 人間の認知バイアスや嗜好の偏りを脆弱性、(3) 不健康な行動の選択を誘発する情報提示を脅威と見なし、不健康な生活習慣の継続というリスクを回避しつつ、健康行動の維持・回復できるよう人々をエンパワーするためのICT基盤技術とその方法論の確立を目指している。本講演では、健康行動セキュリティに向けたエンパワメントICTの具体例をケースごとに紹介する。

【略歴】2020年奈良先端科学技術大学院大学情報科学研究科修了.博士(工学).日本学術振興会特別研究員(DC1)2020年より,奈良先端科学技術大学院特任助教.2021年より九州大学大学院システム情報科学研究院助教.2021年10月よりさきがけ研究者として兼務.IoTを用いた行動認識と行動変容支援に関する研究に従事.ACM UbiComp 2016 Best Demo Award, IEEE PerCom 2021 Best Demo Awardなどを受賞.

10:10-10:25 講演(3) HPCユーザのためのTEE利用支援フレームワーク

三輪 忍(電気通信大学 大学院情報理工学研究科)

三輪 忍

【講演概要】本講演では,さきがけ研究領域「社会変革に向けたICT基盤強化」に第2期生として採択された発表者の研究課題「HPCユーザのためのTEE利用支援フレームワーク」を紹介する.Society5.0を支える情報基盤として高い演算性能と安全性を有する大規模計算機システムが必要とされており,次世代のスーパーコンピュータがその役割を担うと期待されている.そのようなシステムではTEEを利用した並列計算が行われると考えられるが,現在のTEEは①通常環境に比べてアプリケーション性能が大幅に低下する,②プログラミングコストが大きい,③高速かつ安全なTEE間通信の方法が確立されていない,という問題がある.これらの問題を解決するため,通常環境用のアプリケーションコードからTEEを利用した高速かつ安全な並列計算を行うコードを自動生成するコード変換フレームワークの開発を本研究課題では実施する.

【略歴】2007年京都大学大学院情報理工学研究科にて博士(情報学)を取得.東京農工大学特任助教,東京大学助教を経て,2015年より電気通信大学准教授として勤務.2017年にLawrence Livermore National Laboratory, Visiting Scientists and Professionals,2022年より理化学研究所客員研究員を兼務.コンピュータアーキテクチャと高性能計算の研究・教育に従事.IPSJ, IEICE, ACM, IEEE各会員.

10:25-10:35 講演(4) 形式検証とシステムソフトウェアの協働によるゼロトラストIoT

竹房 あつ子(国立情報学研究所 アーキテクチャ科学研究系 教授)

竹房 あつ子

【講演概要】Society 5.0では,クラウド,エッジとIoTデバイス群からなるIoTシステムとAI技術を活用して,様々な社会的課題を解決したり,新たな価値を創造することが期待されている.しかし,サイバー攻撃の高度化,多様化により,社会インフラサービス停止といった甚大な被害が発生するようになり,IoTシステムにおいても「ゼロトラスト」を前提としたセキュリティ対策が急務となっている.さらに,IoTシステムの安全性を説明可能な形で保証し,社会需要の促進を図ることも重要である.
本講演では,JST CREST S5基盤ソフト領域「形式検証とシステムソフトウェアの協働によるゼロトラストIoT」プロジェクトで進めている研究の概要を紹介する.本研究では,システムソフトウェアと形式検証の融合により,ゼロトラストIoT (ZT-IoT)システムの実現を目指している.

【略歴】2000年お茶の水女子大学博士(理学)取得.日本学術振興会特別研究員,お茶の水女子大学大学院助手,産業技術総合研究所研究員,主任研究員を経て2016年国立情報学研究所アーキテクチャ科学研究系准教授着任.2021年より同教授.
並列分散処理,グリッド,クラウド,エッジ,IoTに関する研究に従事.2021年よりJST CREST S5基盤ソフト領域「形式検証とシステムソフトウェアの協働によるゼロトラストIoT」研究代表.本会シニア会員.ACM,IEEE,電子情報通信学会各会員.

10:35-10:45 講演(5) プライバシセントリック情報処理基盤

廣津 登志夫(法政大学 情報科学部 教授)

廣津 登志夫

【講演概要】Society5.0の超スマート社会では、処理対象の情報の多くが個人に紐づく機密性の高いデータになることが想定される。しかし、現在のソフトウェアアーキテクチャには、複数のコンポーネントからなるサービス全体に対して、そこで扱われる情報の流れを制御・管理しプライバシを制御することを目的とした、主体となる処理概念や実行制御機構が欠けている。本研究では、一定のプライバシレベルに適合するデータとそれに対する処理環境を、ネットワークを越えて閉じ込める『セキュアネットワークコンテナ』の概念を導入し、その実現にむけて仮名化を中心としたデータ保護機構や仮想化・隔離実行環境を用いたデータ移送の制御・監視機構の開発を進めている。本講演ではその研究の概要を紹介する。

【略歴】1995年 慶應義塾大学大学院博士課程修了、博士(工学).1995〜2004年 日本電信電話株式会社に勤務.2004年 豊橋技術科学大学 情報工学系 助教授.2009年 法政大学 情報科学部 教授.2016〜2019年度 法政大学 情報科学部長.2015〜2016年度 本学会 システムソフトウェアとオペレーティング・システム研究会主査.2020〜2021年度 本学会 コンピュータサイエンス領域 財務委員.ACM, IEEE 会員.

10:45-10:55 講演(6) サステナブルな分散型秘密計算基盤

アッタラパドゥン ナッタポン(産業技術総合研究所 サイバーフィジカルセキュリティ研究センター 研究チーム長)

アッタラパドゥン ナッタポン

【講演概要】秘密計算は、データを秘匿したまま処理が可能な暗号技術であり、個人・企業の機密情報の利活用を促進すると期待されています。本研究は、「秘密計算プロバイダへの信頼の必要性」及び「プロバイダが不在の状況の運用の困難性」の課題を解決し、分散環境下の効率的な秘密計算の基礎理論確立、及び、ユーザインセンティブ設計が組み込まれ持続可能な運用が可能となる基盤開発を行い、サステナブルな分散型秘密計算基盤を目指します。

【略歴】2007年東京大学大学院情報理工学系研究科博士課程修了、博士(情報理工学)。2008年産業技術総合研究所に入所、現職に至る。専門は暗号理論。タイ出身。

10:55-11:20 パネル

パネル

岡部 寿男(京都大学 学術情報メディアセンター 教授・センター長)

岡部 寿男

【略歴】1988年京都大学大学院工学研究科修士課程修了,京都大学博士(工学).2002年より現職.インターネット技術,並列・分散システムとアルゴリズム,ネットワークセキュリティなどの研究に従事.2018・2019年度本会副会長.JST CREST「S5基盤ソフト」研究総括.

パネル

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報工学科 教授・副学長)

東野 輝夫

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授/副学長。大阪大学・特任教授・兼務。1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1999年大阪大学教授、2002年同情報科学研究科教授。2021年京都橘大学工学部教授。モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事。文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者。情報処理学会元副会長。JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括。

パネル

河野 健二(慶應義塾大学 理工学部 教授)

河野 健二

【略歴】1993年東京大学理学部情報科学科卒業. 1995年東京大学大学院理学系研究科情報科学専攻修士課程修了. 1997年同専攻博士課程を中退し,同専攻助手. 博士(理学). 電気通信大学電気通信学部専任講師等を経て 2005年慶應義塾大学理工学部助教授,2015年同教授,現在に至る.

パネル

西垣 正勝(静岡大学 創造科学技術大学院 教授)

西垣 正勝

【略歴】1990年静岡大学工学部卒,1995年同博士課程了.1996年静岡大学情報学部助手,2010年より同創造科学技術大学院教授.博士(工学).情報セキュリティ全般,特にヒューマニクスセキュリティ,バイオメトリックセキュリティ等に関する研究に従事.2020年本会調査研究運営委員長.

パネル

山口 利恵(東京大学 大学院情報理工学系研究科 特任准教授)

山口 利恵

【略歴】2003 年 津田塾大学理学研究科数学専攻修士課程修了,2006 年 東京大学大学院情報理工学系研究科博士後期課程修了 博士(情報理工学),2006 年 4 月 独立行政法人 産業技術総合研究所 研究員,
2007 年 11 月〜2011 年 3 月 内閣官房情報セキュリティセンター員 兼務,2013 年 6 月より本講座 特任准教授.情報セキュリティ,プライバシー保護の研究に従事.

パネル

佐藤 一郎(国立情報学研究所・情報社会相関研究系 教授)

佐藤 一郎

【略歴】1996年慶應義塾大学大学院博士課程修了、博士(工学)、お茶の水女子大学大学院助手、助教授を経て、国立情報学研究所ソフトウェア研究系助教授、同研究所アーキテクチャ科学研究系教授、現在、情報社会相関研究系教授。情報処理学会論文賞受賞他

11:20-11:30 司会 令和5年度のCREST、さきがけの公募について

東野 輝夫(京都橘大学 工学部情報工学科 教授・副学長)

東野 輝夫

【講演概要】令和3年度の文部科学省の戦略的創造研究推進事業の戦略目標の一つとして「Society 5.0時代の安心・安全・信頼を支える基盤ソフトウエアの研究開発」が設けられ、同年よりJST CREST、さきがけ研究が実施されている。本講演では、令和3,4年度のCREST、さきがけの採択状況の概要を説明するとともに、令和5年度のCREST、さきがけの公募の概要や研究のねらいなどについて紹介する。

【略歴】京都橘大学工学部情報工学科・教授/副学長。大阪大学・特任教授・兼務。1984年大阪大学大学院基礎工学研究科博士後期課程修了。工学博士。1999年大阪大学教授、2002年同情報科学研究科教授。2021年京都橘大学工学部教授。モバイルコンピューティングやサイバー・フィジカル・システムに関する研究に従事。文部科学省「Society 5.0実現化研究拠点支援事業」研究開発課題責任者。情報処理学会元副会長。JST さきがけ「ICT基盤強化」研究総括。