一般講演

5-001

可変漏れ磁束特性を備えた順突極強め界磁PMモータの基礎検討

青山真大・◎中島一清（スズキ）・野口季彦（静岡大学）

本稿では可変漏れ磁束による界磁調整と+d軸電機子磁束による強め界磁効果を組み合わせたパッシブな順突極強め界磁PMモータについて提案する。従来の可変漏れ磁束特性を利用した逆突極形に対して、可変界磁レンジの拡大とリラクタンストルクを積極的に活用できることを特長とする。提案モータの磁気回路の考え方について述べ、電磁界解析によりその駆動特性を明らかにするとともに逆突極形PMモータと性能比較した結果を報告する。

5-002

ステータティース間にブリッジを設けた可変漏れ磁束モータにおけるブリッジ位置の検討

◎芝 紀代乃・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

埋込磁石同期モータは永久磁石の磁力が一定であるため低負荷時や高速時において効率が低下する問題があった。可変漏れ磁束モータはロータ形状の工夫のみで負荷電流に応じて受動的に永久磁石による電機子鎖交磁束を制御する。しかし一般にq軸磁路上に大きなフラックスバリアを有するためリラクタンストルクが減少するという課題がある。そこで，ロータではなくステータに磁束のバイパス路を設けることで，リラクタンストルクを有効に利用できる可変漏れ磁束モータの設計が可能と考えられる。本論文では，ステータティース間にブリッジを設けたモデルについてブリッジの位置を変更して解析を行い，その特性について検討を行っている。

5-003

3つの磁石材料におけるアキシャルギャップモータの試作機による特性比較

◎綱田 錬・竹本真紹・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）・渡辺麻子・上野友之・山田浩司（住友電気工業）

モータを組み込むシステムにおいて，付加価値向上のため扁平形状を有するモータが要求されることがある。そのような場合，アキシャルギャップモータ(AGM)が適しているが，これまでAGMには最大の残留磁束密度を持つネオジム焼結磁石が使用されてきた。しかし磁石の電気伝導率が高く，高速領域では磁石内で多大な渦電流損失が生じ，効率が良くなかった。その代替として残留磁束密度は低いものの渦電流が生じないフェライト磁石を用いたAGMも提案されてきたが，重負荷に対応する際に大電流が必要となり，銅損増加により効率が低下してしまう課題があった。 そこで本研究グループでは，残留磁束密度が2つの磁石の中間的特性で，磁石内で渦電流が生じないネオジムボンド磁石を用いたAGMを提案しており，高速重負荷領域での高効率化を達成した。本稿では，3つの磁石を用いたAGMの特性の違いを明らかにするため，同様のサイズの3つの試作機での実験を行い，トルク及び効率性能に関しての比較を行ったので報告する。

5-004

高トルク密度車載用扁平モータの開発

◎神山博夢・野口季彦（静岡大学）・服部晃尚・山田洋次・横山誠也（アスモ）

近年, アキシャルギャップ形PMモータの研究が活発に行われている。特に扁平形の場合, ラジアルギャップ形に比べ, アキシャルギャップ形はトルク発生面が多く, 高トルク密度化による小型化を期待できる。車載用補機モータは軽量化による燃費改善と省スペース化による車両のコンパクト化, デザイン性向上に貢献する。そこで, 本稿ではダブルステータアキシャルギャップ形PMモータのトルク密度向上に関する検討により小型化を行った。アキシャルギャップモータとステータのダブル化を構想し, 電気回路から磁気回路へと新規に設計することにより, 要求仕様を満たしたまま, 体積▲44%でベンチマークモデルと同等の特性を得ることを確認した。

5-005

希土類ボンド磁石を用いた自動車駆動用IPMSMの基礎検討

◎濱田 優・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

近年，環境問題やエネルギー資源の枯渇という問題からHEVやEVが注目されている。これらの自動車駆動用モータは希土類焼結磁石を用いたIPMSMが主流となっている。希土類焼結磁石を用いることで，高出力，高効率が可能である反面，磁石に添加するDyが高コストであり，使用量の削減が求められている。Dyを用いていない磁石の中に希土類ボンド磁石がある。希土類ボンド磁石とは，磁石粉末と樹脂を結合させた磁石である。そのため，希土類焼結磁石に比べて，磁石のエネルギー積は小さくなるものの，磁石形状の複雑化が可能である。本論文では，希土類ボンド磁石を用いたIPMSMの自動車駆動用途への適用可能性について検討する。

5-006

ホールと窪みを設けたロータ構造による自動車駆動用2層IPMSMのトルクリプル低減

◎清水悠生・森本茂雄・真田雅之・井上征則（大阪府立大学）

近年，環境問題などの懸念から，モータを動力源としたハイブリッド車や電気自動車，燃料自動車などのエコカーが注目を浴びている。これらのエコカーの駆動用モータには，高出力や高効率であるといった利点からIPMSMが広く用いられる。一般に，IPMSMのロータ構造は運転特性に大きく影響するため，用途に合わせた様々なロータ構造が検討されている。 IPMSMの設計の際には，騒音や振動の問題からトルクリプルの低減を考慮する必要がある。本論文では，自動車駆動用2層IPMSMに関してロータ内にホールを設け，さらにロータ表面に窪みを設けたIPMSMの運転特性を解析し，ホールと窪みがトルクリプルに与える影響を検討する。

5-007

EV／HEV駆動モータ用ステータの開発

◎鄧 家寧（スズキ）

電気駆動自動車の発展に伴い、駆動モータへの要求が厳しくなっている背景において、EV/HEV駆動モータ用のステータとして、ステータの小型化、生産性を確保しつつ，性能が非常に優れるセグメントコイル式の重ね巻の短節巻のステータを開発したので、本稿で報告する。

5-008

斜め磁場配向磁石をV字配置した埋込磁石同期モータの減磁特性

◎上村弘樹（大阪工業大学）・西山典禎（パナソニック）・本田幸夫（大阪工業大学）

斜め磁場配向磁石をV字配置したIPMSMの減磁特性近年、自動車用途、極限環境対応ロボットなどは、永久磁石の減磁限界を超える高温環境下での動作を要求される場合も多い。 そこで、板厚方向に対して斜め磁場配向の永久磁石をV字配置した集中巻IPMSMの高温耐減磁特性について報告する。 斜め磁場配向磁石は、磁石磁場配向と磁石に作用する磁場に角度がつき、耐減磁性向上が期待できる。V字配置のIPMSMに斜め配向磁石を採用すると、平板配置に比べ磁石の磁束量を大きくでき、減磁特性が向上できる可能性がある。 V字角130deg.配向角15deg.では、平板、平行配向に対し耐減磁が2倍以上となることを磁界解析で明らかにした。 今後、実機による実験検証を行う予定である。

5-009

焼結ネオジム磁石を用いたIPMモータにおける磁石形状と着磁方向に対する特性変化に関する検討

山崎克巳・◎近藤涼太・成島広樹（千葉工業大学）

本稿では，焼結ネオジム磁石を用いたIPMモータにおける磁石形状と着磁方向に対する諸特性を電磁界解析によって算出し，性能向上の可能性について明らかにすることを試みる。

5-010

圧粉鉄心材料の加工方法の違いに着目した電気的磁極反転形可変界磁PMモータの実機検証

◎青山真大・中島一清（スズキ）・野口季彦（静岡大学）

本稿では回転速度の増加とともに自動的に弱め界磁を行う可変界磁PMモータについて述べる。提案モータは、トロイダル巻ステータを用いたマルチギャップ構造で、ラジアルギャップ面に固定界磁のPMロータ、アキシャルギャップ二面に自励式巻線界磁ロータを配置した構造である。三次元磁路を形成するため、軟磁性複合材をステータとアキシャルギャップロータに採用している。軟磁性複合材の加工方法の違いによる性能差を確認するため、金型加工したコアと、切削加工したコアで2種類の試作機を試作した。実機検証により、可変速トルク特性と可変界磁範囲について駆動特性を明らかにした結果を報告する。

5-011

永久磁石同期機における電機子巻線循環電流が損失特性に与える影響に関する検討

山崎克巳・◎于 海洋（千葉工業大学）・大口英樹・村岡政義（富士電機）

本稿では，電機子巻線に並列素線が用いられた永久磁石同期機に関して，各素線の実際の接続を忠実に考慮した電磁界解析を行い，損失特性を実機試験結果と比較検討することにより，循環電流が損失特性に及ぼす影響について明らかにすることを試みる。

5-012

電磁石補助フェライト磁石モータの試作

◎元起和紀・桐畑良平・深見 正・島 和男・小山正人（金沢工業大学）・森 剛・中野正嗣（三菱電機）

我々の研究グループでは，これまでに，回転軸からフェライト磁石と電磁石の両方によってトルクが得られるダブルギャップ構造の電磁石補助フェライト磁石モータ（EMaFM）を提案し，有限要素解析（FEA）によるシミュレーション結果を報告した。本稿では，このEMaFMの実験機を試作したので，その結果を示す。FEAと実験の結果，界磁電流によって逆起電力とトルクをそれぞれ幅広く制御できることを確認した。

5-013

デュアルハルバッハ界磁の磁束分布定式化に向けた基礎検討

◎森村暢夫・森下明平（工学院大学）

我々はデュアルハルバッハ配列を用いた回転機やリニアモータの研究をおこなっている。これらの機器を設計する際，現在は3D-FEMによる電磁界解析を用いてトルク・推力や逆起電力を求めている。しかし，モデルの規模によっては3D-FEAでは長時間を要することもある。そこで，設計を簡素化するためにデュアルハルバッハ界磁の磁束分布を定式化する検討をおこなっている。 今回，シングルハルバッハ配列の磁界解析をもとに，デュアルハルバッハ界磁中の磁石列に垂直な方向の磁束分布を定式化した。自然対数の底を用いて磁束密度分布の定式をおこなった結果，2D-FEAによる解析値と一致をみたので報告する。

5-014

二輪車用発電機の高効率化に関する検討

◎紅林裕貴・野口季彦（静岡大学）・刑部鉄也・高木俊尚（スズキ）

近年二輪車では発電機をはじめとする補機の高効率化による総合的な燃費向上が注目されている。本稿では，電磁界解析ソフト（JMAG-Designer）を使用し二輪車用発電機の高効率化について検討した。オープンレクティファイアと発電機を組み合わせ，所定の動作点で発電損失を低減することを目標とした。既存発電機に対してステータの圧延鋼板（SPCC）廃止と電磁鋼板の変更，ステータ形状変更によって損失低減を図った。電磁界解析の結果，新規設計発電機においてモード運転中の比較的使用頻度の高い回転数3000 r/minでの動作状態における損失を無負荷状態で61.7 %（－39.6 W），レクティファイア動作時で15.1 %（－25.7 W）低減することができた。

5-015

高トルク密度モータの試作と評価

◎野中 剛・豊田昭仁・石井隆明・前田修平（安川電機）

小型モータの定格出力向上の着目点として，モータの高トルク密度（定格トルク／モータ質量）化に取り組んだ。スロットレスモータへ新構造の加圧成形コイルを適用した事例を紹介する。全節巻きでスキューがないため巻線係数は1に近い。加圧成形により外形状が規制されたコイルが全周に隙間なく配置されるため，占積率は94%に及ぶ。占積率が高い分コイルは圧縮され磁気ギャップは小さくなっている。試作したモータを既存のモータと比較した結果,十分に大きなトルク密度を確認した。

5-016

マグネットギアとPMモータのトルク密度比較

◎酒巻裕介・下村昭二（芝浦工業大学）

本検討で，磁気ギア（駆動モータ含む）と表面磁石形モータ（SPM）および永久磁石形バーニアモータ（PMVM）のトルク密度（容積あたりのトルク）をFEM（JMAG）解析で得たトルクをもとに比較を行った。比較に用いた磁気ギア，SPM，PMVMはいずれもアウターロータ形である。磁気ギアの高速側と低速側の最大トルクは2.4Nmと24.8Nm，定格速度は3000rpmと290rpmである。SPMとPMVMでは，外径は磁気ギアと同一，積厚は定格トルクが磁気ギア低速側最大トルクに一致するように決定し，定格速度は磁気ギア低速側定格速度と同一である。結果として、トルク密度比は磁気ギア、SPM、PMVMの順に1.00:0.47:0.77であった。

5-017

かご形電磁界共振結合モータの基礎研究

○堺 和人・二瓶知生・瀧嶋健太（東洋大学）

電気飛行機、太陽電池飛行機、燃料電池飛行機を実用化するには、推進装置であるモータの超軽量化がキーテクノロジーになる。移動体においては、軽量化は省エネルギーに大きく影響する因子である。本稿では、電磁界共振結合により無鉄心で出力が得られるモータにかご形導体を回転子に適用した時の成立性と基本特性を電磁界解析により検討したのでその概要を述べる。本解析結果から電磁界共振結合モータは回転子がコイルだけでなく、導体バーで構成したかご形でも成立することが解析結果から確認された。また、周波数特性解析結果からトルクは周波数にほぼ比例して増加することが確認された。

5-018

電磁界共振結合モータに関する基礎研究

◎菅沢佑太・堺 和人（東洋大学）

近年、電気飛行機や太陽電池飛行機を実用化するにはモータの超軽量化が必要不可欠である。そこで、ワイヤレス電力伝送技術の一つである。磁気回路の代わりに電磁界共振技術で固定子と回転子間で電力のやり取りをすることで鉄心が不要となるモータに関する研究を行っている。本稿では電磁共振回転電機の原理と基本構成、及び解析による基本的な特性について述べる。本検討により電磁界共振結合方式を用いて固定子と回転子間でエネルギー変換が行われ、回転時にトルクを発生できることを確認し、電磁共振結合の基本的な動作と駆動特性を把握することができた。

5-019

超軽量の電磁共振結合モータの原理モデルによる基礎研究

◎瀧嶋健太・堺 和人（東洋大学）

電気飛行機を実用化するには、推進装置であるモータの超軽量化がキーテクノロジーになる。超軽量化は広い分野で新しい価値の物を生み出すことが期待できる。超軽量化の技術としてワイヤレス電力伝送の電磁共振結合技術をベースにして新しい電気機器の基礎研究を行っている。本稿では、新方式の電磁界共振結合回転電機の原理モデルによる実現性の検証のための解析結果の概要について述べる。具体的には4つの巻線方法の原理モデルを検討し、巻線抵抗を変えたモデルでの解析も検討している。結果として巻線方法および巻線抵抗は、出力にかなりの影響があること、共振トルクは周波数とロータ電流にほぼ比例していることがわかった。

5-020

エネルギー有効利用のモータ・発電同時動作マシン

◎堀田航史・鈴木聖樹・堺 和人（東洋大学）

モータの高効率化は、構造の最適化によって定格運転点のみにおいて進められてきた。しかし、多くのモータは、低速・中速・高速領域など広い駆動領域で運転されるため、全運転領域での高効率化が求められている。本研究室では、極数変換や多数のインバータを用いたエレクトロニクスモータの研究が行われている。本稿では、効率向上を目的として、部分負荷時にモータと発電動作を同時に1つのモータで運転させ、発電側にバッテリーを接続するシステム(Motor and Generator :M&G)を提案し、特性を検討している。本検討により、モータと発電動作を同時に行うマシンのモータ出力と発電出力の特性を確認した。

5-021

ダイレクトリンク式波力発電システムにおける高効率化のための発電機トルクパターンの検討

◎片桐暁文・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，化石燃料の枯渇などから自然エネルギーを用いた発電への関心が高まっている。自然エネルギーを用いた発電では電力の安定供給が課題であるが，波力発電は時間帯に関係なく発電できるという利点がある。 本研究では小型で高効率とされるダイレクトリンク式波力発電システムの高効率化を目的としている。本検討では筆者らがこれまでに提案した発電機をモータとして動作させる時間を設けた指令トルクパターンと従来法である発電機としてのみ動作する指令トルクパターンを様々な条件の波に適用した場合の諸特性の比較を行った。その結果，提案法を用いることで従来法よりも発電機が得る機械入力が増加し，変換効率が改善することが分かった。

5-022

塩害を受けた電機子コイルの塩出しによると絶縁回復方法の考察

◎伊藤雅人・澤 孝一朗・上野貴博（日本工業大学）・森田 登（電動機・ブラシ技術研究所）

直流電動機は,金属圧延・製鉄プロセスラインなど様々な分野で活躍している。圧延用大形直流電動機は,高度経済成長期に集中して製作され,現在寿命時期に差し掛かっている。老朽更新はコストが大きく,延命化の技術が期待されている。平成24年度までは40年以上の経年劣化を模擬する方法として,熱劣化に加え機械的劣化の要素も取り入れ,チタニア・アルミナ粉末添加ワニスの絶縁延命効果検証を行い,絶縁劣化コイルの延命に顕著な成果が得られた。 一方，電気学会技術報告第1104号「大形直流機延命化技術について」によれば,実機では熱劣化は10%程度であってコイルの繰り返し曲げによる機械的劣化が支配的とされているため,加振装置を製作し繰り返し曲げを行い機械的劣化を模擬した。

5-023

摺動通電試験における二硫化モリブデンの効果

◎大塚智晴・渡辺克忠・澤 孝一郎・上野貴博（日本工業大学）

機器の摺動とは,小型のモータから電気鉄道,人工衛星にも関係する幅広い分野に関する題材である. 給電をするにあたり,摺動部分では良好な潤滑性と接触抵抗の低い潤滑剤の選択をする必要性がある.本研究は二硫化モリブデンを用いた摺動通電を行い,摩擦係数と接触抵抗値の同時測定を行なった.銅ディスク対銅ピン(Cu-Cu)試験片で低速度の摺動実験の測定を行い,純銅同士の摺動特性を求めた.さらに,固体潤滑剤としてパウダー状の二硫化モリブデン（MoS2）を摺動接触部分に介在させ,摩擦係数と接触抵抗値の同時測定をし,固体潤滑剤を介在させた時と介在させなかった時の比較・検討をした.

5-024

銀黒鉛質ブラシを用いたスリップリングシステムの電流通電によるブラシ摩耗特性への影響

◎福田直紀・澤 孝一郎・安保雄太・稲田拓洋・上野貴博（日本工業大学）

電機用ブラシは、主として直流機の整流機構や交流機の励磁機構に使用され、回転機械において重要な役割を担う。日本の電動力は直流機に始まり、これに用いられるブラシは、整流時に発生する短絡電流の観点から高抵抗である黒鉛質が長年の主流であった。しかし1980年代にインバータが普及し、直流機が交流機に置き換わると、スリップリング用ブラシでは短絡電流を無視できることから、低抵抗ブラシが望まれるようになった。そこでバルク抵抗の低減に貢献する銀系材料に注目が集まり、銀黒鉛質ブラシは風車発電機や自動車用オルタネータなど、活躍の幅を広めつつあるが、その特性は現在においても不透明な部分が多い。 本研究では、銀黒鉛質ブラシの銀含有率とブラシ電流変化におけるブラシ摩耗特性に重点を置き、そのメカニズムを考察する。

5-025

直流試験における電流の測定条件が回転機の演算子インピーダンス算出結果に及ぼす影響

○田中 晃・平原英明・山本 修・荒 隆裕（職業能力開発総合大学校）

直流試験法は，小容量の直流電源を使用した静止試験により，回転機の運転特性を算出できる特徴がある。本報告では，商用電源よりも高い周波数領域における演算子インピーダンスの算出精度の改善を目的として，直流試験における減衰電流の測定条件（A/D変換の分解能，サンプリングレート）が，演算子インピーダンスの算出結果に及ぼす影響について検討した。高周波において算出精度が劣化する現象をシミュ―レーションで再現できることを確認するとともに，外部抵抗を巻線と直列に接続することで，高周波インピーダンスの算出精度を向上できる可能性を示した。

5-026

電動機の固定子電流解析によるベルト劣化診断技術の開発

◎金丸 誠・大久保拓哉・宮内俊彦・小倉健太郎（三菱電機）

機械設備は常に健全な継続運転を要求されるが，ベルトはゴムと繊維で作られる消耗部品のため，長時間の使用でヒビ割れ・摩耗・亀裂・破断等の劣化を生じる。現状，ベルトのメンテナンスは熟練エンジニアによる目視点検，聴感点検技術に頼るしかない。そのため，オンラインでリアルタイムのベルト機構の状態監視技術が求められている。今回，稼働中の電動機の電流情報のみを基に電動機の動力伝達を担うベルトの劣化診断技術に取り組んだ。自然劣化したベルトを有する実機械設備を用いて測定を実施した結果，ベルト亀裂箇所で生じる振動を固定子電流パワースペクトル解析により検知できる見込みを得た。

5-027

鋼板材料の鉄損特性の違いが2層構造IPMSMの効率に及ぼす影響

◎鹿志村美緒・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，環境保護への意識の高まりから効率の優れた埋込磁石同期モータが注目されている。高効率を実現するためにIPMSMの設計時には磁気特性の優れた低鉄損材料を用いることが望ましい。これまでに筆者らは飽和磁束密度が同等で高鉄損の鋼板材料を用いて2種類のロータ構造の性能劣化に及ぼす影響の比較を行った。しかし解析における鉄損はインバータのキャリア高調波による高周波鉄損の増加を考慮していないため，実際にモータ駆動を行う際の鉄損より小さい。本報告では先行研究において得られた予測について検証するため，高鉄損材料を適用したモータの実機試験を行い，先行研究における解析と同様の傾向が得られるかについて検討している。

5-028

多軸応力が永久磁石同期機の鉄損特性に及ぼす影響に関する基礎検討

山崎克巳・◎向山弘文（千葉工業大学）・Laurent DANIEL（Group of Electrical Engineering in Paris （GeePs））

本稿では，まず電磁鋼板の素材実験において，多軸の応力を加え，磁束と応力の向きが直交する場合を含む様々な条件下で鉄損測定を行い，渦電流損とヒステリシス損の多軸応力に対する依存性を確認する。次に，本来は多軸応力に依存する鉄損特性を，磁束と同じ方向に応力が加わった場合に置き換えた等価応力の定義式の妥当性について確認する。最後に，等価応力を埋込磁石同期機の電磁界解析に応用し，多軸応力が回転子の鉄損に与える影響について検討する

5-029

モータコア材の占積率がトルク特性と鉄損特性に与える影響の検討

◎遠藤徹也・小田原峻也・藤崎敬介（豊田工業大学）

より高効率なモータを製作するうえで，鉄損特性は重要な要素となり，またモータの出力を決めるトルク特性も重要な要素となる。この鉄損特性とトルク特性に影響を及ぼす重要なパラメータのひとつに，モータコア材料の占積率が挙げられる。コア材の占積率は，モータコアの製作方法により変動し，これに伴い鉄損特性・トルク特性も変動することが考えられる。そこで今回，アモルファス材（AMO）をコア材料とした埋め込み磁石同期モータ（IPMSM）において，占積率を変化させた際の鉄損特性とトルク特性を二次元磁界解析により検証した。

5-030

高温環境におけるインバータ励磁下のモータの鉄損特性に関する一検討

◎八尾 惇・足立彩衣・藤崎敬介（豊田工業大学）

本研究では、室温と150 ℃におけるインバータ励磁下と正弦波の誘導電動機の高温下の鉄損特性について議論する。誘導電動機では、励磁方法により、温度変化に伴う鉄損減少の比率が異なることがわかった。これは、インバータ励磁下に含まれる高調波成分に対する磁束密度の分布が異なることに起因すると考えられる。したがって、本研究の誘導電動機の結果より、高温モータドライブシステムの高効率化を検討する際には、詳細な鉄損特性を取得することが重要であることが明らかになった。

5-031

正弦波励磁によるモータコア磁気特性の三次元磁気ヒステリシス解析

◎小田原峻也・狐崎直文・藤﨑敬介（豊田工業大学）・中川倫博・北野伸起・浅野能成（高効率モーター用磁性材料技術研究組合）

よりよいモータ開発のためには，実測による実機検証と解析による理論検討の対照から正確に磁気特性を知る必要がある。また，両結果が妥当であるかを適切に判断するためには，解析が実現象を精度よく表現できているかの検討が重要となる。ここでは，モータコア上の磁界強度と磁束密度を実測し，磁気ヒステリシスを考慮した三次元磁界解析により実測結果を再現するとともに，解析における「モデル三次元性」と「磁気ヒステリシス」の必要性を述べる。

5-032

高速モータの回転子保持リングの損失比較

◎大村元紹・松尾圭祐・内山 翔・沖津隆志・松橋大器（明電舎）

送風機や圧縮機のような高速流体機械にはエネルギー変換効率を高めるべく，高速回転が必要とされている。著者らは，これらの高速流体機械への適用を目指し高速モータの開発を行っている。本高速モータは、表面磁石形の回転子構造を採用しており，遠心力による磁石飛散を防止する為に高強度の非磁性リングで磁石を保持する構造としている。本論文では，高速モータの回転子保持リングとして，チタンリング及びCFRP（炭素繊維強化プラスチック）リングをそれぞれ適用した場合の回転子損失，温度上昇を解析及び実測により比較し，CFRPリングの渦電流損は非常に小さく，回転子の温度上昇低減の観点で優位であることを確認した。

5-033

GPを用いた電磁機器の多目的最適化における形状簡素化フィルタの検討

◎稲葉敦志・浮田浩輔・北川 亘・竹下隆晴（名古屋工業大学）

コンピュータを用いた電磁界解析により，IPMSMの回転子を対象に最適設計を行う。最適化手法として，生物の進化を模擬し木構造の遺伝子を変化させ最適解を探索する遺伝的プログラミングを用いる。しかし，工学的に実現性の低い形状が導かれることがあり，それを防ぐため，急勾配な鋭い凹凸が少ない簡素な多角形であるほど高い評価を示す関数とそれを用いたフィルタを検討する。重み係数法による単一目的最適化と，多目的最適化の両手法においてフィルタを実装し，結果を考察する。滑らかな形状を得ることができたが，多目的最適化においては特性に与える影響が少ない，小さなフラックスバリアが発生し，今後の課題が残る結果となった。

5-034

構造・電磁界の連携解析による集中巻IPMSMの検討

丸山 裕・○近藤敦美（東芝）・川瀬弘明（東芝産業機器システム）

近年適用が進む集中巻IPMSM（埋込磁石型同期電動機）は、高効率化に加え省サイズ化、製造工程の大幅削減によるコストダウンが可能だが、一方で固定子ティース端と回転子の磁石間で働く磁束の歪みによってトルク脈動や振動・騒音が増大しやすい。本研究では、構造・電磁界の連携解析により、ティース端の変形が電磁界に与える影響を調査した。ティース端の変形によりエアギャップ距離が不均一となり、径方向、周方向ともにピークが増大、また振動・騒音源となる径方向磁束密度について、周波数成分が分散する結果を得た。

5-035

三次元有限要素法による小形高出力モータの銅損と鉄損による発熱を考慮した連成解析

河瀬順洋・山口 忠・佐竹慶紀・◎村上朋紀（岐阜大学）

高速回転するモータを高精度に諸特性解析するためには，銅損や鉄損による発熱を考慮して周辺温度によるコイル抵抗の変化を考慮して磁界解析を行う必要がある。そこで我々は，渦電流損とヒステリシス損を発熱源とした三次元熱伝導解析と磁界解析を連成し，電気的損失による温度変化が磁界解析の諸特性に及ぼす影響を考慮した三次元磁界解析手法を用いて小形高出力モータの磁界解析と連成解析を行った。そして，コイルの温度変化が諸特性に及ぼす影響を明らかにした

5-036

三角柱辺要素を用いた三次元並列有限要素法による回転機の磁界解析の応用事例

河瀬順洋・山口 忠・長田俊一・◎笠井幹也（岐阜大学）

我々はこれまでに三角柱辺要素を用いた三次元有限要素法による磁界解析を高速に行うための手法として、オーバーラップ要素を用いた領域分割法に基づく並列計算手法の開発を進めてきた。 本稿では、電気学会調査専門委員会で提案されているIPMモータのベンチマークモデル（Gモデル）を解析対象としてコギングトルク解析と無負荷誘起電圧解析を行い、三角柱辺要素を用いた三次元並列有限要素法による回転機の磁界解析法について有用性を検証する。

5-037

軸方向端部を考慮したモータモデルの計算誤差推定手法の検討

◎廣谷 迪・伊藤一将・山口信一・中野正嗣（三菱電機）

モデルベース開発の需要の高まりから，制御シミュレーション用モータモデルの高精度化，データベース構築の省力化が求められている。筆者らはラジアルギャップ形永久磁石モータを対象とし，回転軸方向端部の影響を考慮しつつコア積厚に対するデータベース構築を省力化する手法の検討を進めている。本手法は2次元モデルと3次元モデルの差である端部データベースを用いて端部の影響の切り分けを行うため、モデル構築時にコア積厚を変更した場合の計算誤差を推定できない課題があり，信頼性向上が必要であった。そこで磁気回路法を利用した推定手法を提案し，表面磁石形モータの無負荷時を対象とした検証を行った。

5-038

PMモータ用ネオジム磁石の3次元熱減磁検討；磁石内部磁場測定（1）

○山本日登志・松本信子（KRI）・小林久理眞・漆畑貴美子（静岡理工科大学）

PM（永久磁石）モータ設計の際、入力する磁石特性において、磁石特性は分布やバラツキが無い等のいくつかの仮定があり、これにより解析シミュレーションと実機モータ特性、特に熱減磁特性にしばしば乖離が見られる。 一般的に磁石熱減磁評価にはトータル磁束評価や表面磁束分布評価が用いられているが、これらはあくまで磁石全体あるいは磁石表面の磁束密度情報であり、必ずしも磁石内部の磁化状態、減磁状態を反映しているとは言い難い。 そこで著者らは磁石に微小な孔加工する技術を新規開発、その磁石の3次元内部磁場測定法を提案し、磁石内部磁場と従来の磁石表面磁場分布との関連性、さらに3次元熱減磁特性を明らかにすることを目標としている

5-039

三相かご形誘導電動機の横流に及ぼすポストヒーティングの影響に関する一考察

◎村松智章・廣塚 功・中村雅憲・渡邉徳宏（中部大学）・鶴見祐輔・米谷晴之・亀山正樹（三菱電機）

消費電力が産業全体の約75%であり，日本全体で55%を占めている三相かご形誘導電動機（以下，IMと略記）の高効率化が重要な課題である。そこで，当研究室ではIMの高効率化に寄与するため，詳細かつ多岐にわたる研究を行ってきている。その中でもIMの回転子における横流は効率低下などを招くがいまだ不明瞭な点が存在する。本稿では，横流を模擬した回転子を試作し，回転子のポストヒーティングによる滑りs=0~2における特性について実験的に検討した。その結果，ポストヒーティングにより，特に制動機領域におけるトルクが著しく減少し，横流の影響を低減していること，短絡環状の加工により，横流を模擬できる可能性があることなどを実験的に示した。

5-040

三次元有限要素法による横流を考慮した誘導電動機の損失解析

山崎克巳・◎櫻井裕也（千葉工業大学）

本稿ではフルモデルの三次元解析を用いて，誘導電動機の損失解析を行い，負荷に対する横流の変化について検討する。また，解析結果を実験結果と比較し，横流が損失特性に与える影響について確認する。

5-041

簡易三次元モデル化手法を用いたインバータ駆動かご形誘導電動機の損失解析

田代拓也・○髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

誘導電動機の機器特性を正確に把握するためには，スキューやエンドリング，鉄心端部を適切に考慮した三次元解析が必要である．しかし，三次元解析は膨大な計算時間を要するため，計算コストを抑えたまま精度良くスキューおよび端部構造をモデル化する方法が盛んに研究されている．著者らは，簡便かつ高精度なスキュー考慮方法として簡易三次元モデル化手法を提案し，その有効性を明らかにしてきた．本稿では，スキューおよびエンドリングの影響を直接考慮した簡易三次元モデル化手法により，インバータ駆動かご形誘導電動機の損失解析を行った結果について報告する．

5-042

積層構造を考慮した三次元磁界解析による誘導機の鉄芯端部の磁束分布の検討

◎内尾祥貴・高 炎輝・堂園 浩・村松和弘（佐賀大学）

近年，CO2削減の観点から，誘導機の更なる高効率化が要求されている．我々は，ギャップを有するリアクトル鉄芯において，積層構造を均質化手法により考慮した三次元磁界解析により，磁束が鉄芯表面に集中し，鉄芯角部に切り欠きを設けてこの集中を緩和することにより，鉄損が低減できることを明らかにしている．今回，本解析法を誘導機に適用し，鉄芯端部への磁束の集中と切り欠きの効果を検討したので報告する．なお，今回は，積層構造が磁束分布に及ぼす影響，及び切り欠きの効果を検討するため，静磁界解析で検討した．

5-043

鉄心材料の違いがインバータ駆動可変速誘導電動機の損失特性に及ぼす影響に関する検討

山崎克巳・◎田中広輝（千葉工業大学）・大戸基道（安川モートル）

本稿では，鉄心材料の違いがインバータで駆動される可変速誘導電動機の諸特性に及ぼす影響について，実験・電磁界解析の両面から明らかにすることを試みる。

5-044

集中巻三相かご形誘導電動機のギャップ中の磁束密度における偶数調波低減に関する一考察

◎渡邉徳宏・中村雅憲・廣塚 功（中部大学）

現在，三相かご形誘導電動機(以下，三相IMと略記)は電動機の中でも比較的安価なことから注目されているが，更なる低価格化が求められている。そこで筆者らは低価格かつ高効率な集中巻三相IMの開発を目的として，さまざまな角度から検討している。その検討課題の一つが，ギャップ中の磁束密度分布波形が正弦的であるかである。4極6スロットの集中巻IMで解析を行った際，偶数調波が発生した。そのため本稿では，集中巻IMのギャップ中の磁束密度に対する偶数調波低減のため，空きスロットを設けた場合を解析し検討を行った。その結果，本解析例では集中巻IMに空きスロットを設けることで偶数調波を低減でき，トルクを増大できたと考えられる。

5-045

集中巻誘導機の実用化と高性能化の検討

◎鈴木聖樹・堺 和人（東洋大学）

近年、誘導機(Induction motor :IM)の高効率化と銅損の低減を目的とした集中巻IMの研究が進められている。集中巻はティースに一相分の巻線を施すため高調波成分による回転磁界の歪が生じ、トルクリプルが増加する。本研究室では、一つのティースに三相分の巻線を不均等に施し、トルク脈動を低減する全周分布不等(Full slot unequal distribution turn :FSUET) 巻と固定子コイル毎にインバータを施し、コイル電流の密な制御を行うエレクトロニクスモータ(Electoronics motor : EM)の研究を行っている。本稿では、集中巻IMの実用化とトルクリプルの低減を主題としてその解決技術を提案し、特性を検討している。本検討により集中巻IMにFSUET巻を適用するとEM集中巻構成と同等のトルクリプルの低減効果が得られることを明らかにした。

5-046

3インバータ駆動の集中巻誘導機と高性能化

◎高橋直志・鈴木聖樹・堺 和人（東洋大学）

近年、誘導機(Induction motor : IM)の構造の容易性・堅牢性と集中巻の製造性とコイルエンドの短縮による銅損の低減の点で集中巻IMが注目されている。本研究では、分数溝固定子である9スロット－3相構成の集中巻IMと位相をシフトさせた3個のインバータ回路からなるモータシステムを考案した。電流位相の可変によって高トルク・低トルクリプルである3インバータ駆動特性の検討とインバータ故障時を想定した駆動の検証を行った。本検討により、3インバータ構成の集中巻IMの駆動特性と位相シフトによるトルクリプルの低減と高トルク化が得られることを明らかとし、位相調整による二次電流特性とインバータ故障時のトルク減少特性についても明らかにした。

5-047

急峻電圧パルス下における誘導モータの電圧分担率測定

○神谷昭範・牧 晃司（日立製作所）・高橋秀一・関根昭裕・開發慶一郎（日立産機システム）

本報告では，急峻電圧パルス下における誘導モータの電圧分担率測定結果について報告する。SiCインバータ急峻電圧に相当すると仮定した電圧立ち上り時間20nsでの電圧分担率特性を測定した結果，電圧分担率は，85〜89%まで増加した。また，この時の電圧分担率の増加原因はコイルの対地静電容量からの漏れ電流の影響であることを示した。

5-048

カーブフィッティングによる三相誘導電動機のT形等価回路定数の同定

○熊谷真也・山中多摩子・古賀誉大（アンシス・ジャパン）・阿部貴志・樋口 剛（長崎大学）

三相誘導電動機の等価回路は一般的にはT型の等価回路であるが，測定等の問題から L型の等価回路を使用して定数の同定を行うことが一般的に行われている。 しかし，一次漏れインダクタンス，二次漏れインダクタンスを分離できない等の問題により得られる特性カーブの精度に問題がある。 そこで，三相誘導電動機本来のT型等価回路の構成を使用し，トルクと一次電流の特性値から等価回路定数をカーブフィッティングによって同定する手法を提案する。

5-049

水車発電機の風損低減技術の開発〜第一報：実機1／3スケールモデルを用いたステータ部風損評価〜

◎横江晴佳・加幡安雄・谷山賀浩・猪亦麻子・久保伸二・植松潤一・深谷侑輝・牧野駿介・日野雄太（東芝 エネルギーシステムソリューション社）

水車発電機の損失は、電気的な損失と機械的な損失に大別され、うち機械損では、機内を冷却する冷却ガスが循環することによる風損が支配的で、全損失に対しても20〜30%を占めることが一般的である。そのため、風損を低減することは、水車発電機の効率向上に寄与することが期待され、これまでも通風経路の形状改善をはじめとした損失低減施策が検討されてきた。当社では風損低減施策の効果検証やパラメータ評価を行うことを目的に、実機の1/3 スケール通風試験装置を製作、実機では検証の困難なステータ単体、ロータ単体での試験による要素評価も含め、機内通風特性の評価を開始した。本稿では、ステータ部の評価結果について報告する。

5-050

水車発電機回転子磁極巻線のレアショート検知の精度検証

◎野田 徹・波賀野幸一・林 義一郎（電源開発）

水車発電機回転子磁極巻線の異常の1つにレアショート(層間短絡)がある。経年劣化によりレアショートが進行することにより，回転子磁極の磁束が不均衡となり発電機電圧が歪み，振動が発生する。本稿では水車発電機回転子巻線のレアショート異常を検知するためにFRA計測による伝達関数の適否およびその精度を検証した。レアショート異常検知において，従来法(分担電圧測定)は，短絡ターン数が3〜4であるのに対して，FRA計測は1ターンが短絡しても，その異常を検知できることを明らかにした。

5-051

相帯内の位置を考慮した発電機固定子転位コイルの循環電流解析

○廣瀬孝明・藤田真史・中村美紀・石塚博明・大久保将史（東芝）

火力、水力向け発電機のような大形の回転機では、固定子巻線の導体は素線分割され、素線が端部で一体化されて接続される構造である。また固定子巻線は1極1相あたりのスロット数（毎極毎相スロット数）が多く、各相のコイル群が相帯をなし、2層の分布巻かつ短節巻にされていることが多い。そのためコイル端部において相帯の中央部と端部では隣接するコイルの電流位相が異なるため、素線間に鎖交する磁束はコイルの位置によって変わり、循環電流もコイル位置で変わるものと考えられる。本稿では、三次元解析により端部コイルの素線間に鎖交する磁束を詳細に考慮した循環電流の評価結果について報告する。

5-052

磁気異方性を考慮したタービン発電機の無負荷飽和特性解析に関する基礎的検討

◎峰久諒子・藤原耕二・髙橋康人（同志社大学）・高橋則雄・藤田真史・十川和真・長倉 謙（東芝）

タービン発電機の固定子には方向性電磁鋼板が使用される場合があり，強い磁気異方性が機器特性に影響を及ぼす可能性がある．磁気異方性がタービン発電機の機器特性に及ぼす影響の定量的評価の第一段階として，まずは比較的磁気異方性が弱い無方向性電磁鋼板50A470を固定子鉄心に適用する．実機固定子は，磁気異方性を考慮するために周方向が圧延方向（RD）となるように所定の角度毎に電磁鋼板を打ち抜き，突合せギャップ部が交互になるように積層されている．本稿では，各部の寸法は同一であるが，固定子鉄心の磁気異方性の取扱い方が異なる3種類のモデルを用いて，無負荷飽和特性，磁束密度分布について比較し検討した．

5-053

大容量タービン発電機の大規模3次元電磁界解析

○高橋則雄・藤田真史・佐藤孝洋・十川和真・長倉 謙・中村英之・大高 徹（東芝）

大容量タービン発電機では、再生可能エネルギー増加に伴い、系統連系に対応し、運転範囲拡大の要求が高まっており、過渡運転時における電磁的挙動のより詳細な評価が必要となっている。今回、フレームまでを解析範囲とした大規模電磁界解析モデルを構築し、運転時おける端部鉄心の磁束密度の解析を行い、その分析、評価について報告する。

5-054

有限要素法による大容量塊状磁極形同期電動機のインピーダンス解析

◎小杉優介・渡邊 剛（東芝三菱電機産業システム）

大容量同期電動機は始動時間が数十秒に及ぶことがあり，設計において始動特性を十分考慮することが重要である。始動特性検討のためには有限要素法が有効だが，3次元解析では時間・収束性に問題があり，設計業務に使うのは難しい。また，2次元解析ではコイルエンドや磁極端部による影響を考慮できず，高精度な設計に用いることは難しい。そこで本稿ではダルトン・カメロン法による初期過渡インピーダンスを評価対象として，3次元解析と2次元解析の両方を実施し比較することで，コイルエンドや磁極端部の影響を含む2次元解析モデルの補正を検討した。結果として補正した2次元解析の初期過渡インピーダンスは3次元解析とおおむね一致した。

5-055

表面損失現象解明のためのグルーブ付き塊状磁極同期機の試作

◎森岡俊弥・島 和男・深見 正（金沢工業大学）

塊状磁極同期機では，表面損失による過熱対策として，磁極表面にグルーブを施す場合がある。しかし，グルーブによる表面損失の低減原理解明が不十分と見受けられる。原理解明のための第一歩として, グルーブ付き突極形塊状磁極機を試作した。本機を発電機運転して，表面損失に関連する諸特性を測定した。その結果，電機子電圧，電流，力率を揃えた条件下で見れば，グルーブによって表面損失が低減した。負荷角が低下し，界磁電流が増加した。今後は，有限要素解析などを用いて，グルーブによる負荷角の低下や磁気飽和に着目して現象を解明していきたい。

5-056

磁気飽和を考慮した巻線界磁形同期機のモデル化に関する考察

◎竹内活徳・松下真琴（東芝）・小玉純康・中村利孝・石田 尚・渡邊 剛（東芝三菱電機産業システム）・島 和男・深見 正（金沢工業大学）

巻線界磁形同期機（SM）は発電機や電動機として広く用いられている。一般にSMは，Parkの等価回路によってモデル化できる。しかしながら，近年では高出力化や小形化が進んでおり，磁気装荷を高めた設計をすることがある。このようなケースでは，各定数を一定値として考えることはできない。そこで，電磁界解析によって磁気飽和を表す関数を計算し，それを用いてSMをモデル化する手法について検討した。磁気飽和の大きな過負荷状態や，制動巻線が影響する過渡状態において，計算精度を検証したので報告する。

5-057

同期発電機の自己励磁について

○古関庄一郎（古関PE事務所）

同期発電機の自己励磁現象について検討した。教科書には進み負荷のときに無励磁で電圧が確立すると説明されているが，実際にはそのようになりそうにない。そうであれば教科書の改訂が必要であり，取り急ぎ意見照会した。少なくとも「無負荷飽和曲線」との交点で動作するという説明については用語の修正が必要である。自己励磁現象が生じるケースについて検討したが，検証が必要である。

5-058

圧粉鉄心を用いたフラックススイッチングモータにおける効率改善のための基礎検討

◎山田真寛・真田雅之・森本茂雄・井上征則（大阪府立大学）

近年，モータの鉄心材料として圧粉鉄心が注目されている。圧粉鉄心は電磁鋼板と比べて渦電流損が小さい一方，ヒステリシス損が大きいという特徴を有している。そのため，圧粉鉄心を用いたモータの効率向上にはヒステリシス損の低減が必要と考えられる。筆者らはこれまでに，圧粉鉄心を適用した集中巻埋込磁石同期モータについて，鉄心内の磁束密度を下げることで鉄損が減少することを示したが，根本的にヒステリシス損を低減できたわけではない。本報告では，鉄心内の磁束の振る舞いが異なる永久磁石型フラックススイッチングモータについて圧粉鉄心を用いた際のモータ特性および損失への影響を，電磁鋼板を用いる場合と比較検討している。

5-059

スイッチトリラクタンスモータのステータ極歯形状に関する予備的検討

◎高橋 徹・新宅勇一・高安亮紀・藤野貴康（筑波大学）

本研究は，スイッチトリラクタンスモータのステータ極歯およびコイルの形状が，モータ内に生じる磁束密度分布に及ぼす影響を電磁場解析により調査し，得られた結果から負トルクならびにトルク脈動の抑制に向けた指針を得ることを目的としている。現在までに，コイルの配置角度を変えることで，ロータ極歯と最も近接するステータ極歯の箇所に集中する磁束密度の大きさが変化することを確認している。ステータ極歯およびコイルの形状を種々変更して解析を実施することで，それらがトルクに及ぼす影響を明らかにする予定である。

5-060

コイルエンド効果を考慮したSRMの外径・軸長比の簡易検討法

◎清田恭平（富山大学）・千葉 明（東京工業大学）

著者らは既に，磁化特性を用いたハイブリッド自動車用スイッチドリラクタンスモータの，低速領域の出力トルクを最大化可能な固定子外径・軸長比の最適化を提案している。しかし，従来の手法では二次元有限法解析を使用して検討していた。このため，コイルエンドによる漏れインダクタンスの影響を考慮していない。本稿では三次元有限要素法解析を用いることにより，漏れインダクタンスを考慮した場合の最適な固定子外径・軸長比を明らかにする。また，二次元有限要素法解析との比較により，特に回転子外径が固定子外径と比べて相対的に小さい場合においてもコイルエンドによる漏れインダクタンスの影響が大きいことを明らかにする。

5-061

自動車駆動用高出力誘導機・スウィッチトリラクタンスモータの性能比較

○竹内啓祐・千葉 明（東京工業大学）

ハイブリッド自動車(HEV)，電気自動車(EV)用のモータとしては永久磁石埋め込み式同期電動機(IPMSM)が主流であるが，誘導電動機(IM)を用いるケースもある．そしてスウィッチトリラクタンスモータ(SRM)の発展も近年著しい．これらのモータの定量的な比較は学術的に大変意義があり，多くの比較論文が投稿されている．しかしEVの普及に伴い，高出力自動車用モータの需要は高まっているが，それらの比較論文で，最高出力が100 kWを超えるモータどうしを比較しているものは稀である．よって本論文は自動車走行における主要動作点における最高出力200 kW超のIM，SRMの効率比較等を行った．

5-062

同期リラクタンスモータのステータ形状変更による機器特性の改善

◎小林眞莉香・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）・槙野智之・樋口真伍（ニチユ三菱フォークリフト）

近年，モータの省エネルギー化に対するニーズが高まる中，高効率なモータとして注目されているのが，リラクタンストルクを用いたリラクタンストルク応用電動機である．なかでも，同期リラクタンスモータ（SynRM）は，回転子に永久磁石を使用しない事から埋込磁石同期モータ（IPMSM）と比べて，省資源，低コストモータとして用途の拡大が期待されている．しかし，マグネットトルクが無い分，IPMSMと比較すると低出力であり，IPMSMと同等の出力を出すためには大きな電機子電流が必要となる．本稿では，特に銅損が支配的になると予想される低速回転時において，SynRMの大きな損失源となっている銅損の低下を目標とし，スロット形状の変更による機器特性の改善に関する検討を行う．また，トルク特性向上に向けて，ティース幅，バックヨーク長の最適形状について検討する．

5-063

マルチフラックスバリア形シンクロナスリラクタンスモータの非対称コアによるトルクリップル低減

◎玉村周平・前谷達男（WOLONGモーター制御技術）・森本茂雄（大阪府立大学）

同期リラクタンスモータのトルクリップルの低減方法として直線形状のフラックスバリアに対して非対称化による方法が提案されている。本論文は、この非対称コアを，これまで多く提案されている円弧形状のフラックスバリアに適用し，フラックスバリアとティースの位置関係によってトルクリップルが変化することを示し，設計の最適化を行った。非対称化することで効率に影響無く，トルクリップル低減が可能であり，フラックスバリアなどの基本設計の違いによって最適な設計が変わることを解明した。

5-064

Chua型モデルに基づく磁気ヒステリシスを考慮した非線形磁気回路法の基礎検討

◎宮田海志・山浦伶尉・関口広太・岡本吉史（法政大学）

磁性体を用いた電気機器が多く利用される現代社会において，その鉄損を評価することは極めて重要である．現在では有限要素法を用いた鉄損評価法が多数提案されている．本稿では，ニュートン法を用いたChua型モデルに基づく非線形磁気回路法による鉄損推定法を検討したので報告する．

5-065

ベルトコンベア搭載用電磁力平衡式計量器の小型・高精度化に向けた磁気回路設計

◎渡邉直也・藤原耕二・髙橋康人（同志社大学）・村井大我・内藤和文・照沼孝造・池島 俊（新光電子）

電磁力平衡式計量器は，永久磁石とヨークからなる磁気回路部分と，磁場中に配置したコイルに対して働く電磁力を取り出すてこ部で構成されている．試料の質量と電磁力が釣り合うように電流を印加し，電流値から質量を高精度に算出する．本稿では，ベルトコンベアに搭載して高速に計算処理を行うことを想定した計量器について，その磁気回路設計を検討する．空芯コイルの導入による電磁力の増加を前提に，組立時のばらつきや長期使用によるコイルの位置ずれに対する安定性の向上，およびさらなる小型化を目指して磁気回路の最適設計を行った．

5-066

車載用電流センサの磁気回路設計に関する基礎検討

◎三和大輝・高橋康人・藤原耕二（同志社大学）・槙野智之・樋口真伍（ニチユ三菱フォークリフト）

本稿では，有限要素法を用いた電磁界解析より，今後普及が期待される次世代自動車の必須デバイスとなる電流センサの磁気回路の設計に関する基礎的検討を行う．センサの校正を行うためには計測値の直線性が重要になる．本項では，均質化法を用いて鉄芯の積層構造の考慮を行い，コアの磁束密度分布などから最適な積層方向の検討を行う．そして，最適な積層構造において，導体が位置ずれ（偏心）した場合，センサ部の磁束密度の直線性や大きさに与える影響について検討を行った．

5-067

LLG方程式から得られたプレイモデルを用いた磁気回路解析の高飽和領域への適用に関する検討

◎田中秀明・中村健二・一ノ倉 理（東北大学）

近年，電気機器の高効率化を目的として，鉄心材料の磁気ヒステリシス特性を考慮可能な解析手法に関する検討が国内外で進められている。先に筆者らは，LLG方程式を取り入れた磁気回路モデルを提案した。本手法は，直流ヒステリシスの計算にLLG方程式を用いるため，必要最小限の実測データから種々の最大磁束密度のヒステリシスループを高精度に算定できる。しかしながら，LLG方程式は収束計算が必要であるため，計算時間が長大化する。また，高飽和領域の算定精度も高くないという課題があった。本稿では，計算時間と計算精度の課題を解決した，高飽和領域までヒステリシスループを精度良く模擬可能で，かつ高速計算可能な磁気回路モデルを構築したので報告する。

5-068

田形コアベンチマークモデルによる等方性ベクトルプレイモデルを用いたヒステリシス磁界解析の精度検証

◎蓑輪直紀・髙橋康人・藤原耕二（同志社大学）

近年，様々な磁気ヒステリシス特性のモデル化手法が提案されており，各種手法を用いた磁界解析の実用化に向けた研究が盛んに行われている．それぞれの手法が持つ特徴を明らかにするために，各種手法の比較検討を行うためのベンチマークモデルとして，形状が単純な閉磁路で回転磁界の形成が容易である田形コアモデルの検討が進められてきた．本稿では，田形コアモデルを対象に，等方性ベクトルプレイモデルを適用したヒステリシス磁界解析を行い，その結果をベンチマークモデル実器の測定結果およびヒステリシスを考慮していない従来手法による解析結果と比較することで，その精度検証を行った．

5-069

低減自由度二次四面体辺要素を用いた渦電流解析

○阿波根 明・亀有昭久（サイエンス ソリューションズ）・藤原耕二・髙橋康人（同志社大学）

従来の一次辺要素よりも解の精度を向上させるため，高次要素が提案されている．しかし，高次要素は自由度が一次要素よりも多く，計算時間が増加するという課題があった．その課題を解決する方法として，六面体の低減自由度二次辺要素を提案し，静解析に適用した結果，解析精度は維持した上で計算時間の削減を図ることができた．今回，低減自由度の考え方を四面体要素に応用し，渦電流問題に適用し良好な結果が得られた．

5-070

高周波領域における寸法共鳴の効果を取り入れた有限要素解析の手法

○清水香壱・古屋篤史・上原裕二・藤崎 淳・安宅 正・田中智大（富士通）・大島弘敬（富士通研究所）

我々は，Mn-Znフェライトの高周波磁気特性に関する粒界効果のモデリングに関する技術を有限要素法の磁場解析に取り込むことで，有限要素解析によって寸法共鳴を考慮した磁場解析技術を確立した。本稿では，寸法共鳴を再現するための有限要素法による磁場解析の手法を紹介する。

5-071

オーバーラップ要素を考慮した領域分割に基づく二次元並列有限要素法の基礎検討

◎柿田晋平・原田郁生・岡本吉史（法政大学）・圓谷友紀（福岡大学）

近年の計算機性能・HPC技術の向上に伴い，並列計算はより身近なものとなった．それに伴って，解析モデルの微細構造化が進み，電磁界問題は大規模化の一途を辿っている．我々は電磁界解析のさらなる高速化，並びに大規模化に対応するため，分散並列計算技術を用いた並列有限要素法を開発し，検証用モデルを用いた基礎検討を行ったので，その概要を示す．

5-072

辺有限要素解析から得られる線形方程式における高次のフィルインを導入したブロックIC前処理に関する検討

◎圓谷友紀（福岡大学）・岡本吉史（法政大学）・孟 志奇（福岡大学）

有限要素法による大規模電磁界解析の実用化を鑑みた場合，線形方程式の求解において，収束特性を改善できる前処理の導入が望ましい．これに対し筆者らは，対角ブロック内のみにフィルインを許容したブロック不完全コレスキー分解（IC）前処理に着目し，その性能を検討してきた［1］．フィルインの深さを示すレベル番号はユーザが決めるパラメータであり，その最適値は問題に依存する．そこで本論文では，扁平な要素を多く含む悪条件な問題においてフィルインの高次化が収束特性に及ぼす影響を評価し，実用的な観点から最適なフィルインのレベルについて考察したので報告する．

5-073

3Dプリンタによるトポロジー最適化結果の三次元成形と形状スムーシングに関する検討

◎神田雄太郎・増田 弘・岡本吉史（法政大学）・若尾真治（早稲田大学）

トポロジー最適化手法は，指定した設計領域内部の鉄芯をトポロジーとみなして最適化を行うため，人知の及ばない機器形状を設計できる可能性がある．三次元最適化結果を検証する場合，モニター上の二次元的な表示よりも，設計者が実際に最適化結果を手にとり確認する方が，より多くの情報を実感でき，実設計工程への貢献が高い．そこで本稿では，磁芯の三次元トポロジー最適化結果を，3-Dプリンタで三次元成形する際の手順を示す．さらに，最適化結果における物体表面の凸凹をスムーシングする手法を提案したので，その概略を示す．

5-074

有限要素解析による誘導加熱後のカーボン製円盤の保温特性計算に関する検討

◎東岡祐示・田中祥吾・米津大吾（関西大学）・大久保 博・西尾博文・東城哲郎（東洋炭素）・上関俊也（オーシン）

本報告では，IH調理器に使用する鍋はカーボン製円盤とし，カーボン製円盤の保温特性(表面の降温変化)について熱伝導場有限要素解析により求め，実験結果と比較した．熱伝導場有限要素解析においては，熱伝達係数を温度の一次関数として与えたところ，カーボン製円盤を加熱後の保温特性(降温変化)について精度よく計算できることが明らかとなった．

5-075

有限要素解析によるIH調理器に使用するカーボン製円盤の厚さ最適化に関する検討

◎田中祥吾・東岡祐示・米津大吾（関西大学）・大久保 博・西尾博文・東城哲郎（東洋炭素）・上関俊也（オーシン）

本報告では、有限要素解析により導電率の異なる3種類のカーボン製円盤の厚さと発熱量の関係を調べ、最適な鍋の厚さを求める指標を提案する。最適な鍋の厚さの指標は最適な鍋の厚さは鍋の厚さを表皮深さの2乗で割った値であり、この数値が50170となる厚さが最適であることが明らかとなった。

5-076

誘導加熱撹拌翼への電磁界共振型非接触給電方式の適用とその検証

◎石田浩基・中尾一成（福井工業大学）・中尾総一（関西電力）

本研究は誘導加熱された撹拌翼にて中・高粘度溶液を同時に撹拌・加熱を行う事ができる撹拌システムの非接触給電に関する研究である。本システムは縦型撹拌翼とそれを誘導加熱するIHコイル、金属製容器、液中絶縁用の低電圧化トランスおよび非接触給電用コイル対から構成され、上部からの給電が可能な方式である。本給電方式における加熱実験や解析により、構成部位の発熱量や給電量を求め、まずエネルギーバランスがとれている事を検証し、さらに給電効率ηtrans 、加熱効率ηheatの周波数特性を把握し、その有用性について考察した。 結果、ηtrans>90.3[%]、ηheat>71.2[%]を達成し、本給電方式の有効性を確認する事ができた。今後、非接触給電コイル対の最適化や構成部位の低損失化にて、高効率化を図っていく予定である。

5-077

ステラファン型共振器の電磁波解析におけるファンの回転角が誘電損失へ与える影響の検討

◎並木聡史・小澤隆史・岡本吉史（法政大学）

誘電加熱装置には，一様加熱を促進するため，ターンテーブルやステラファンが共振器内部に装荷されている．電磁波解析によって，誘電体内部で発生する誘電損失を高精度に算定するために，ターンテーブルやステラファンのような回転運動の考慮が必須となる．本論文では，ステラファン型共振器の電磁波解析において，ファンの回転ピッチが誘電損失の計算精度へ与える影響を明らかにしたので，計算結果を要約する．

5-078

ヘビサイド関数を用いた二次元軸対称電磁界における誘導加熱装置のトポロジー最適化

◎増田 弘・神田雄太郎・岡本吉史（法政大学）・廣野数樹・星野玲央奈・若尾真治（早稲田大学）・圓谷友紀（福岡大学）

トポロジー最適化は，電気機器内部の磁路構造を抜本的に改善できる可能性を持つ．その一方，グレイスケールのように非現実的な領域も生成されるが，材料を二値化しやすい特性を持つヘビサイド関数を用いることで，グレイスケールの少ない明示的なトポロジーが得られやすい．本稿では，二次元軸対称場における誘導加熱装置問題に本法を適用し，鉄芯体積の制約条件を考慮しながら，一次側・二次側鉄芯を同時に最適化したので，その結果を報告する．

5-079

数百kHz帯域における非接触充電装置の特性予測に関する検討

◎仲西祐平・淵脇宏樹・野口恭平・米津大吾（関西大学）

本報告では，数百kHz帯域における電磁誘導方式の非接触充電装置における解析方法を検討した。製作した送・受電コイル(パンケーキ型空芯コイル)間の空隙を100mmとした場合の送・受電コイルの自己・相互インダクタンス，抵抗を有限要素解析より算出し，送電・受電側コイルの電流・電力・電力伝送効率をルンゲ・クッタ法により求めた結果と測定結果を比較した。その結果，数百kHz帯域で使用する非接触充電装置の電力伝送効率を有限要素解析とルンゲ・クッタ法を組み合わせた計算方法により精度よく予測できることを示した。

5-080

「京」を用いた非接触給電システムの磁界解析におけるアルミベースのメッシュ分割が損失に及ぼす影響

河瀬順洋・山口 忠・塚田彰太・◎村下将也（岐阜大学）・太田智浩・山本竹志（パナソニック）

我々はこれまでに三次元有限要素法を用いて非接触給電システムの遠方磁界を計算した。シールドで発生する渦電流損を，表皮効果を考慮し精度よく解析するためには，シールドとその周辺のメッシュ分割を十分に細かくする必要がある。そのため，要素数が膨大になり，計算時間が非常に長くなる。 本稿では，シールドを有する非接触給電システムを「京」コンピュータによる並列三次元有限要素法を用いて電磁界解析を行い，シールドのメッシュ分割の細かさが，遠方磁界およびシールド中に発生する渦電流損に与える影響を定量的に明らかにする。

5-081

鉄心の非線形性と渦電流を考慮した磁性粉入りソレノイドコイルの三次元有限要素解析

河瀬順洋・山口 忠・◎塚田彰太（岐阜大学）・伊藤一洋（東光）

鉄心を挿入したコイルは，高周波で使用すると鉄心中に多大な渦電流損が発生する。この損失を低減するために，磁性粉でできた鉄心を用いる場合がある。我々は過去に磁性粉を充填したソレノイドコイルの解析を行い，磁性粉の粒子径等が磁気特性に及ぼす影響を明らかにした。しかし，その時は透磁率を一定として線形解析を行ったため，磁気飽和の影響を考慮できていなかった。 本研究では，磁性粉を充填したソレノイドコイルに対して渦電流を考慮した非線形解析を行い，直流重畳電流が磁性粉の磁気特性に及ぼす影響を定量的に明らかにする。

5-082

磁界・構造併用解析を用いたバルブ型可飽和リアクトルの騒音低減法の検討

◎草野大輔・高 炎輝・村松和弘・堂園 浩（佐賀大学）

電力系統の無効電力補償用などに用いられる可飽和リアクトルとして、脚に断面が小さい磁気バルブを設けるバルブ型可飽和リアクトルが提案されており、これは小さい制御電流でインダクタンスを高速に可変でき、さらにバルブ形状の調節により高調波を抑制できる利点を持つが、バルブによる脚の磁束の偏りにより騒音が大きくなる問題点があった。これまで我々は、無方向性電磁鋼板を用いた積層鉄芯において、脚の磁束の偏りを緩和する改良型バルブ形状を提案し、磁界解析により騒音が低減できることを示した。今回、方向性電磁鋼板を用いた積層鉄芯において、改良型バルブによる騒音の低減効果を磁界・構造併用解析により検討したので報告する。

5-083

モデル変圧器鉄心の振動モードと励磁振動形状

○岡部誠司・石垣雄亮（JFEスチール）

変圧器の騒音発生源の一つである鉄心振動の挙動を解析するため、モデル変圧器鉄心の振動モードと励磁時の振動形状を調査した。打撃試験の結果では、鉄心の周波数応答関数は積層した鋼板の面外方向(表面に対して鉛直)の方が面内方向より約20dB大きく、鋼板の曲げを生じる多数の振動モードが存在した。励磁で生じる磁歪振動と鉄心の固有振動の周期が一致する場合としない場合とでは、励磁振動の形状が大きく異なっており、鉄心の振動モードが励磁振動に大きく影響することが確認された。

5-084

変圧器の低騒音化構造の解析検討

○松田泰洋・西水 亮・山岸 明（日立製作所）

変圧器の騒音は、鉄心の磁歪による振動に起因する励磁騒音と巻線の電磁力による振動に起因する通電騒音がある。従来は励磁騒音が大きく、騒音低減の対象としていたが、けい素鋼板の磁気歪の低減や鉄心の改良により励磁騒音が低減され、近年では通電騒音の低減も求められている。鉄心の磁歪による振動や巻線の振動は、変圧器タンクの底面を振動させ、固体伝播によってタンク側面を振動させる。そしてタンク外表面の振動が放射音となる。本報告は、励磁騒音と通電騒音の両方を低減する目的で、タンク底面から側面への固体伝播の抑制を狙った構造を解析により検討し、騒音レベルを現行構造より5dB低減できる見込みを得た。

5-085

逆解析によるヒータブロックの発熱量同定精度検証

◎碇 勇気・中尾一成（福井工業大学）

電気機器は通電時に必ず損失を発生している。ほとんどが熱損失であり、温度上昇に伴う安全性や性能の劣化を引き起こしている。ゆえに、正確な損失の同定とその熱設計が必要である。 本研究では、損失同定が困難な高周波通電時における変圧器の銅損・鉄損を熱損失として扱い、損失量と損失分布を特定しうる伝熱の逆解析手法を提案した。 具体的には、発熱量既知のヒータブロックを風洞内の一様流下に設置し、実験から求められた温度から発熱量と発熱分布を同定できる逆解析ソフトにてその精度検証を試みた。その結果、実験と逆解析の発熱量を比較し、発熱箇所の一致と誤差7%以内での発熱量同定が実証できた。 今後、逆解析手法を用いて、実機の変圧器による銅損・鉄損同定の有効性を検証する。

5-086

直流高電圧ガス絶縁開閉装置(HVDC-GIS)の極性反転に基づく電気絶縁性能の検討

◎中根龍一・酒井崇行・古屋鋪 樹・高林享平（愛知工業大学）・加藤克巳（新居浜工業高等専門学校）・大久保 仁（愛知工業大学）

現在，主要電力機器である直流ガス絶縁開閉装置(DC-GIS)における直流電界分布および電荷挙動の現象究明が重要である．本論文では有限要素法を用いてGIS内における絶縁スペーサの電界分布および電荷密度分布を解析した．その結果，絶縁スペーサの形状がSF₆ガス中における電界値および直流定常状態時の絶縁スペーサ表面上の電荷密度分布に影響することを定量的に明らかにした．また，その電荷量が極性反転時における電界値を決定することを明らかにした．したがって，絶縁スペーサの最適形状を議論する際には形状変化における電界特性を理解することが重要である．

5-087

UHF波を用いた変圧器の部分放電検出に関する一考察

○四蔵達之・富岡 章・華表宏隆・恩地俊行（富士電機）

UHF波を用いた部分放電検出技術が注目されており，放電源をアンテナとみなした変圧器内の電波伝搬特性解析例が報告されている。これまでの報告では，FDTD法などの電磁界解析手法を用いた減衰特性が示されているが，本報では，電波をレイ（光線）とみなして解析するレイトレース法を適用することで，新たに遅延時間特性について検討したので報告する。

5-088

非接触トランスにおける三相単相の効率比較

◎椎原悠太・井川裕介・岡部和磨・窪田健人・永田竜馬・古野正博・柴戸洋次郎・松本洋和・根葉保彦（福岡大学）

従来の非接触トランスは単相で構成されている。一方、著者らは三相非接触給電トランスの提案をしている。本論文では、フェライトヨークを装着した三相非接触トランスと単相非接触トランスの効率を実機を用いて比較した。その結果、出力電圧が低い時に三相非接触トランスの方が高効率になることを確認した。

5-089

AGV用三相-単相平面形非接触給電システムの送電実験

◎岡部和磨・椎原悠太・井川裕介・永田竜馬・窪田健人・柴戸洋次郎・松本洋和・根葉保彦（福岡大学）

非接触給電システムを無人搬送車（AGV）への電力供給に適用した場合，バッテリーの充電や交換を行う必要がなくなり作業性の向上が期待出来ると考えられる。本論文では先に提案したAGV 用三相-単相平面形非接触給電システムについて，2 次コイルの位置に関係なく一定の電力を送電出来ることを確認した。

5-090

AGV用単相非接触給電システムの1次電流最適制御

◎永田竜馬・窪田健人・古野正博・椎原悠太・井川裕介・岡部和磨・松本洋和・柴戸洋次郎・根葉保彦（福岡大学）

無人搬送車(AGV)は工場等での部品等の運搬に広く用いられている。AGVは通常バッテリーの電力で駆動するが、非接触給電を用いることでバッテリーレスで駆動させることができる。著者らはAGV用単相非接触給電システムの開発を行ってきた。本論文では1次電流最適制御を提案し、これを用いてAGVの駆動実験を行った。その結果、提案する制御法はAGVの走行性能を損なうことなく送電効率を改善できることを確認した。

5-091

AGV用三相非接触給電システムの実験とコイル構造の検討

◎井川裕介・窪田健人・古野正博・永田竜馬・椎原悠太・岡部和磨・柴戸洋次郎・松本洋和・根葉保彦（福岡大学）

三相非接触給電システムは筆者らによって提案されている送電システムである。本論文では、無人搬送車(AGV)用三相非接触給電トランスについて実験を行い、また、送電特性を改善するために、構造についての検討を行った。その結果、AGV用三相非接触給電トランスについて実験を行って平均的にAGV運転に必要な電力を送電できることを確認した。また、送電特性を改善するために、シミュレーションを使ってトランス構造についての検討を行い、1層–2層構造が有効であることを確認した。

5-092

エステル油の熱分解生成物の分析

◎水野康太・栗山遼太・西浦竜一（三菱電機）

油中ガス分析による内部異常診断技術は油入変圧器を停止させることなく診断する技術として広く活用されており、鉱油入変圧器においては、機器の管理基準ガイドラインが国内外で提案されている。一方、環境調和性の観点から生分解性に優れたエステル系絶縁油の適用が進んでいる状況で、異常診断が未確立のエステル油入変圧器についても異常診断のニーズが高くなっている。今回、エステル油の熱分解反応を検討し、エステル油の特徴的な熱分解生成物を用いてエステル油入変圧器の異常診断技術を検討した。

5-093

パームヤシ油空気密閉式変圧器の長期課電検証

◎清水 翼・二口 恵・廣澤秀雄・和田元生・長谷川裕章（北陸電機）・彦坂知行・高坂正明（富士電機）

この論文は、酸価安定性・低粘度・高絶縁破壊電圧に優れたパームヤシ脂肪酸エステル(PFAE)油が、空気密閉式トップランナー変圧器に適用可能かを検討した。具体的には、絶縁油及び油劣化防止方式の異なる4台の検証器を用いて、返還負荷法にて長期課電を実施し、下記(1)〜(3)の項目を検証した。それらの結果から、PFAE油空気密閉式変圧器が適用できる。 (1) 各負荷率終了時に油中ガス分析 (2) 巻線上部の絶縁紙平均重合度 (3) PFAE油の酸価及び絶縁破壊電圧

5-094

油中繊維による流動帯電評価診断方法の開発（その2）

○佐藤 学・小西義則・長谷川真之（ユカインダストリーズ）・守口聡一・杉本敏文・吉田昌展（中部電力）

油入変圧器における流動帯電現象は固体絶縁物と絶縁油の劣化状態に相関があると考えられる。しかし，稼働中の変圧器から固体絶縁物を採取することは通常困難であり，固体絶縁物の流動帯電への影響評価は容易ではない。著者らはこれまで絶縁油中に浮遊しているセルロース繊維（油中繊維）を用いた絶縁紙の経年劣化度診断手法(1)について検討を行ってきた。本研究ではこの技術を応用し，油中繊維を固体絶縁物として用い，変圧器から採取した絶縁油と油中繊維における静電気発生傾向から，稼働中変圧器の流動帯電を評価する手法の検討を進めている。本報告では絶縁油および絶縁紙の劣化による電荷発生への影響について検討した結果を報告する。

5-095

アモルファス変圧器の大容量化に関する基礎検討(1)－解析による全体損失低減効果の算定－

○栗田直幸・西水 亮・小林千絵・宮本直哉・石上 孝・山田 悠・佐々木康二・佐竹誉大・福山哲也（日立製作所）

アモルファス変圧器の大容量化の基礎検討として試作モデルを設計し，その電力効率を有限要素法電磁界解析で求めた。アモルファス鉄心の自重応力を緩和する支持構造と，シールド材による漂遊損対策により，50%負荷率時の電力効率は現行の珪素鋼板鉄心変圧器よりも35%低減できる見通しを得た。

5-096

アモルファス変圧器の大容量化に関する基礎検討(2)－鉄心の応力低減支持構造と保護構造－

◎山田 悠・石上 孝・栗田直幸・小林千絵・西水 亮・佐々木康二・佐竹誉大・福山哲也（日立製作所）

アモルファス変圧器の大容量化に向け、数値計算によって鉄心支持構造および鉄心保護構造を設計し、試作器において成立性を確認した。 鉄心支持構造については、2段の梁によって鉄心を内外2周に分割して吊り下げる構造の採用により、自重による鉄心の内部応力を大幅に緩和でき、応力による鉄損の増加を抑制できることを明らかにした。鉄心保護構造は、短絡電流による機械力から鉄心を保護する枠を有する。また，保護構造を他の構造から独立させることにより、1次巻線の水平方向にかかる力の影響を他の構造に伝えない構造を開発した。本研究の成果により、アモルファス鉄心を損傷なく、性能を確保して組み込む技術を確立できた。

5-097

アモルファス変圧器の大容量化に関する基礎検討(3)

◎小林千絵・栗田直幸・浜館良夫・西水 亮・石上 孝・山田 悠（日立製作所）

アモルファス変圧器の大容量化に関する基礎検討として，鉄心および巻線を試作した。両者の損失評価結果から算定される変圧器の負荷率50%時の総損失は，同容量のSSTより35%低減されることを確認した。

5-098

絶縁型DC-DCコンバータ用500kVAアモルファス高周波変圧器の巻線構成に起因する特性比較

○畠山智行・栗田直幸・木村 守（日立製作所）

洋上ウインドファーム向け系統連系システムでは，商用周波変圧器を搭載する洋上プラットフォーム（PF）の建設・運搬コストが課題である。そこで，商用周波変圧器を削減してPFを小形・省略化する，絶縁型DC-DCコンバータを用いた直流集送電システムが検討されている。コンバータを構成する高周波変圧器（HFT）は高周波で駆動するほど小形になるが，近接効果に伴う巻線損失の増大が高周波化の障壁となっている。これを解決するため，銅条で構成した一次・二次巻線を交互に重ね，一体として巻回すことで，近接効果を抑制し巻線損失を低減する方法が報告されている。本報告では，実規模レベルの500kVAにてHFTを試作し，その損失を評価した結果，従来比31%減となったことを報告する。

5-099

平成28年熊本地震による電力用変圧器の巻線健全性確認への周波数応答解析（FRA）の適用

◎矢岳大治・大羽博文・栗山 聡（九州電力）・宮嵜 悟・水谷嘉伸（電力中央研究所）

平成28年4月14日に発生した熊本地震により，電力用変圧器内部の巻線の位置ずれが懸念され，復旧前に内部の健全性を確認する必要があった。健全性確認には，開放点検が最も直接的な手法であるが，目視点検できない部位もある。一方近年，周波数応答解析（FRA）が変圧器巻線の異常診断手法として注目されており，開放点検での健全性確認を補う手法として有用と考えられる。変圧器内部の健全性確認目的で FRAを適用し，その有用性を確認した。

5-100

変圧器の周波数応答解析へのEMTP適用の検討

○中嶋 高・平出眞也・腰塚 正（東京電機大学）・池田久利・谷口安彦・萩森栄一（東京大学）

経年変圧器では電気的／機械的ストレスにより、巻線変形などの異常が発生している可能性がある。この異常を外部診断する手法として周波数応答解析(FRA)が知られている。FRAでは、変圧器に周波数が変化する低電圧正弦波を印加し、製作時点と経年後でインピーダンス波形に差異が無いか比較することで診断される。異常が認められた場合、波形に差異がある周波数帯域から異常箇所を定性的に推定することは変圧器ユーザでも可能であるが、異常状況の定量的考察は変圧器製造者でないと難しい。そこで変圧器ユーザが変圧器内の回路定数を把握することで定量的考察が可能となることを目指し、変圧器の周波数応答解析へのEMTP適用を検討したので結果を報告する。

5-101

高ガス圧SF6ガス絶縁変圧器の自冷性能検討

◎野口直樹・吉田 聡・高野 啓・千切健史・山田 慎（東芝）

当社の高ガス圧(0.43MPa-g at20℃)SF6ガス絶縁変圧器(以下GIT)に適用可能な冷却器は、自冷性能を持たないとされているユニットクーラのみである。このため、ガスブロワおよび空冷ファンが停止した、自冷状態での変圧器の運転は不可能と考えられてきた。本報では、同変圧器に自冷運転を許容することを目的とし、空冷ファンおよびガスブロワが停止した状態における冷却性能について実器相当のモデルを用いた温度上昇試験を実施した。結果、三相300MVAのGITで励磁率90%かつ負荷率30%以下であれば、空冷ファンおよびガスブロワが停止した自冷状態で連続運転可能であり、鉄心温度を低減した設計とすれば、励磁率100%,負荷率30%にて連続運転可能となることを確認した。

5-102

三相三脚鉄心変圧器の変圧器通過故障遮断時における過渡回復電圧の検討

◎平出眞也・中嶋 高・腰塚 正（東京電機大学）・池田久利・谷口安彦・萩森英一（東京大学）

変圧器の短絡インダクタンスは高周波領域で低下し、変圧器通過故障遮断時の過渡回復電圧（TRV）は短絡インダクタンス低下の影響を受ける。これにより、TRV第一波の振幅率は規格に比べて小さくなり、振動の中心が一定ではない波形が測定される。本論文では、三相三脚鉄心変圧器の変圧器通過故障遮時における各遮断条件でのTRV波形を測定し、周波数応答解析による検討を行ったので、結果を報告する。

5-103

機械的振動測定による変圧器の異常診断および劣化診断の基礎的検討

○小西義則・加藤雅道・長谷川真之（ユカインダストリーズ）・荻原 慧・北川 寛・松本 聡（芝浦工業大学）

稼働中の変圧器の振動を測定し、変圧器の異常や劣化を診断する手法を検討している。従来法は電源周波数の整数倍の周波数振動成分を解析するが、センサ設置位置により大きく振動特性が変化することが課題であった。我々は電源周波数の整数倍以外の周波数振動成分がタンク壁面で捉えることができることを見出し、それが天板と鉄心と巻線が支持金具で結合した構造体の機械系固有振動であることを確認している。前報では高経年変圧器のある1つのタンク側面について測定した結果を報告した。今回、その側面を挟む両脇の面の振動も調査した結果、いずれのタンク側面でも機械系固有振動を確認できた。機械系振動の固有振動数を指標とすれば、センサの位置に依らず変圧器中身の振動を捉えることができ、診断が容易になる可能性がある。

5-104

電鉄用変電所における配電用油入変圧器の部分放電の傾向

◎湯本哲史・中野寛之・斎藤直樹・和田政幸・甘利 智・関島志郎（東日本旅客鉄道）

安定した鉄道の運行や、駅の運営にとって、変圧器などの電気設備は極めて重要である。これらの設備に係る事故の未然防止のため、油入変圧器の保守管理においては、内部の異常診断として油中ガス分析が用いられている。 JR東日本のある電鉄用変電所の配電用油入変圧器において油中ガス分析を行った結果、規定値を超える可燃性ガスが検出された。電気的な性能に異常は無く、現在も運転を継続しているが、変圧器内部における継続的な部分放電の可能性が懸念される。 部分放電については、放電電流、電磁波などの物理現象を伴うことから、様々な検出方式が提案されている。今回、可燃性ガスが検出された変圧器に対し、年間を通じた部分放電測定により経過の観察を行ったので、その概要及び結果について報告する。

5-105

ブッシング内部の放電位置標定に関する検討

◎和田純一・前川俊浩（東京電力ホールディングス）・池田次郎（東京電力パワーグリッド）・芝田拓樹・上野大佑・日野悦弘・木村準二郎（三菱電機）

変圧器の経年劣化に伴う不具合事象として，ブッシングを起因とする事故・障害が国内外で散見されているが，劣化によるブッシングの性能低下に関する知見は乏しい状況にある。現状の異常診断としては，変圧器本体の油中ガス分析を準用しているが，絶縁性能低下により生じる部分放電を検出する新たな診断技術の構築が必要とされている。 油浸紙コンデンサブッシング内部の放電現象は，その発生源から電磁波が生じることから，その電磁波を測定することで，外部診断の適用が見込まれている。そこで，本論文では，ブッシング内部にて部分放電が生じるモデルを対象に，アンテナ複数本を活用して各種条件における放電位置の標定，評価を行う。

5-106

154kVおよび275kV変圧器用ポリマーブッシングの開発

田中直樹・佐藤健次・◎辻 和宏（日本ガイシ）

高レベル地震の際に変圧器用の磁器製ブッシングが少なからず被害にあっている。耐震性向上を目的としてポリマーブッシングの適用が本格化する趨勢にある。ポリマー化された変圧器用ブッシングには、優れた耐震性の他、レトロフィット（既設互換性）、エコフレンドリー（オイルレス仕様、少温室効果ガス仕様）に加え、ポリマー部損傷時の迅速交換性が求められる。現在、我々は耐震性が優れているポリマーがい管にGIS等で実績のあるレジン含浸紙（以下RIP）コンデンサブッシング(2)と自然ガスを組み合わせた低環境負荷、メンテナンス性に優れた変圧器用ポリマーブッシングを開発しているので現況を紹介する。

5-107

275kV変圧器・開閉装置用ポリマーがい管の等価霧中試験

加川博明・多藝彰規（東京電力パワーグリッド）・上田正人・岩根裕典・小西邦明（関西電力）・○楫野宏樹・吉田高志・井波 潔・木佐貫 治・笹森健次（三菱電機）

昨今，ポリマーがい管の適用が拡大されており，電気協同研究「ポリマーがい管の設計基準・試験法の標準化」第72巻4号がまとめられた。一方，既に変圧器用ポリマーガスブッシングが開発されており，今回，275 kV変圧器及び開閉装置に使用するポリマーがい管を対象に，電協研でポリマーがい管の形式試験として提案された試験方法に基づき等価霧中試験を実施した。275 kV用ポリマーがい管を用いて， SDD 3条件におけるポリマーがい管の等価霧中試験を実施した。今回の結果より，電協研にて推奨されたがい管漏れ距離を有する供試ポリマーがい管は，電協研で記載されている等価霧中試験の合否判定基準を満たしており，所要の汚損耐電圧性能を有することを確認した。

5-108

繰り返し過負荷に対する柱上変圧器の絶縁紙劣化挙動

有永 心・○野中 寛（三重大学）・岩月秀樹・國井康幸（中部電力）

急峻な負荷が繰り返し発生した場合の柱上変圧器の劣化について知見を得るため，パルス状の繰り返し過負荷を模擬して283 °Cと216 °Cの間を∓20 °C/minで50回降昇温させたときの絶縁紙の熱重量減少を記録した。時間とともに重量減少は漸減したが，より詳細に見ると試料温度が250 °Cを下回ると重量減少が停止し，上回ると重量減少が再び始まる繰り返しであった。250 °C以上の高温負荷を受けた絶縁紙は炭化が進むため，絶縁抵抗値が低下する可能性や，物理的にもろくなることによるコイルの座屈が懸念される。以上より絶縁紙が250 °Cを超える累積時間とその温度の把握が重要であると考えられた。

5-109

永久電流LTS/REBCO NMR磁石に向けたREBCOコイルの開発

◎山岸風摩・上野健志・梶田健太朗・高尾智明（上智大学）・大木康太郎・山口高史・永石竜起（住友電気工業）・朴 任中・柳澤吉紀・前田秀明（理化学研究所）

永久電流400 MHz (9.39 T) LTS/REBCO NMRの開発に向けた基礎研究として、(1) REBCO線材同士の超伝導接続体の磁場中通電特性評価と、(2) REBCO PCSの開発を行った。NMR磁石の運転時，接続部は外部磁場にさらされるため、磁場中特性の把握が重要であるが、全く明らかになっていない。77 Kにおいて接続体にab面に垂直/平行磁場を印加したところ、臨界電流の磁場依存性は素線と類似の振る舞いを示すことが明らかになった。今後、4.2 Kにおける評価を進める。また、臨界温度の高いREBCO PCSでは、ヒーター熱量の抑制が課題だが、4.2 Kにおいて5 Wで動作するスイッチを開発した。今後、LTS/REBCO NMRとしての運転に向け、永久電流REBCOコイル単体による接続抵抗評価を進める。

5-110

永久電流モードHTSコイルの共巻き法によるクエンチ検出と保護の検討

◎小島あかね・松尾竜太・有山隆紘・松田直大・渕田佳稀・高尾智明・塚本修巳（上智大学）

永久電流モードで運転されるHTSコイルについて，共巻コイルを用いたクエンチ検出法とクエンチ保護にについて検討を行ったので報告する。永久電流モードで運転されるコイルではコイル端子は超電導的に短絡されているため，コイル端子にはコイル線に生じたクエンチにつながる抵抗性電圧は現れない。このような場合，クエンチ検出は一般的に用いられるブリッジバランス法ではできない．一方，超電導線に常電導線を添わせてコイルを構成した共巻法ではクエンチを検出できる。 本報告では共巻法によるクエンチ検出の原理を示し，さらにクエンチによる損傷からコイルを保護するための条件について検討したので報告をする。

5-111

複数の超電導線接続箇所を有する無絶縁REBCOコイルの熱的安定性評価

◎柿本雄太・勝俣一輝・鄭 斉一・矢代聡佳・王 韜・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）・長屋重夫・渡部智則（中部電力）

高温超電導線材を用いた無絶縁コイル(NIコイル)は，局所的線材劣化発生時に電流が転移部を避けて隣接ターンに流れることでホットスポット発生を抑制することができるという特性を持っている。大規模なNIコイルの場合，作製コストが高くなるので複数の線材を巻線内で接続する必要がある。NIコイルは局所的欠陥を回避する機能があると言われている。そこで，今回は複数のREBCO線材を接続したパンケーキコイルの振る舞いについて，PEECモデルを用いた電流分布解析とFEMに基づく熱解析を行ったので，その結果を報告する。

5-112

無絶縁REBCOパンケーキコイルにおける層間接触電気抵抗の調整に関する検討

◎市川哲理・勝俣一輝・矢代聡佳・鄭 斉一・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）・渡部智則・長屋重夫（中部電力）

無絶縁コイル（以下「NIコイル」）は，二律背反の関係にある高電流密度化と高熱的安定性を両立できる巻線方式として期待されている。今回は内径60mmの小口径コイルを対象に，金属テープを共巻きしたNIコイルを作製し，NIコイルの層間接触電気抵抗を接触面の数（金属テープの枚数）によって調整する方法について検討した。試作NIコイルにおいて遮断実験を行い，それぞれの層間接触電気抵抗を求めると，その大きさは共巻きするテープの枚数が多くなるほど大きくなった。以上より，共巻きする金属テープの枚数を変えることで接触面の数を増やし，層間接触電気抵抗を調整できることが確認された。

5-113

無絶縁Rコイルにおける 線材特性のバラツキの影響評価

◎鄭 斉一・勝俣一輝・矢代聡佳・石山敦士（早稲田大学）・野口 聡（北海道大学）

By applying no-insulation winding technique, REBCO coils wound with ‘defect’ tapes barely show discernible electromagnetic behaviors from their defect-free counterparts in experiments. This makes it possible to build a REBCO pancake coil using commercial REBCO tapes, and reduce the cost. In this study, an analysis based on PEEC model coupled with thermal simulation is conducted, for a 60-turn REBCO pancake coil, whose Ic in the middle of the tape is set to be 25% of its original value, as a ‘defect’. According to the result, it is confirmed that the ‘defect’ coil can almost generate desired magnetic field, and the reason is also clarified.

5-114

MRI用高温超電導コイルにおける残留磁化が遮蔽電流磁場変動に与える影響

◎宮崎 純・三浦英明・宮城大輔・津田 理（東北大学）・横山彰一（三菱電機）

MRI用超電導マグネットでは，高解像度な画像を得るために磁場の時間的安定性が要求される。しかし，高温超電導線材はテープ構造を有しているため，コイル励磁時には線材内に大きな遮蔽電流が誘起され，遮蔽電流の減衰が磁場安定性に悪影響を及ぼす。また，通電後は，残留磁化として遮蔽電流が線材内に存在するため，この状態から再励磁する場合は，残留磁化がコイル通電時の磁場安定性に影響を及ぼすことが考えられる。そこで，本研究では，コイルの残留磁化が通電時の磁場安定性に与える影響について検討した。オーバーシュート波形を適用し、残留磁化の大きさとオーバーシュート量を変化させ検討を行った結果、オーバーシュート量が小さいほど残留磁化による磁場安定性への影響が大きく、残留磁化を大きくすることにより磁場安定性が改善されることがわかった。

5-115

9.4T級ヒト全身用MRI用コイルにおける遮蔽電流による不整磁場の解析

◎伊東慶太・中園浩平・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）・野口 聡（北海道大学）・宮崎寛史・戸坂泰造・野村俊自・来栖 努（東芝 エネルギーシステムソリューション社）・浦山慎一・福山秀直（京都大学）

我々は高磁場MRI用高温超電導磁石の開発を目指してきた。高温超電導コイルでは遮蔽電流による不整磁場（以下、遮蔽電流磁場）がコイルの発生磁場の空間的均一性や時間的安定性を乱してしまう。そのため、遮蔽電流磁場を数値計算で予測し、抑制・補正する手法が必要となる。本研究では設計段階で遮蔽電流磁場を抑えるため、設計したコイルシステムに対し遮蔽電流磁場の影響を計算・評価し、その情報をもとに再設計を行うプロセスの確立を目指している。今回は設計したコイルシステムについて遮蔽電流磁場の影響を評価したので報告する。

5-116

REBCO線材における細線化による遮蔽電流に起因する不整磁場の低減

◎武藤優真・中園浩平・小曽根裕一・石山敦士（早稲田大学）・植田浩史（岡山大学）

我々は10T級ヒト全身用MRIの開発を目指して高温超電導コイルの研究を行っている。 REBCOコイル線材はテープ形状をしているため遮蔽電流による不整磁場(以下，遮蔽電流磁場)が発生し磁場均一度の時間的・空間的安定性を乱すことが問題となっている。 これまでREBCO線材に細線化(スクライビング)処理を施すことで遮蔽電流磁場が低減することが確かめられている。しかしスクライビング処理により線材強度の低下や歩留まり率の低下といった問題が生じる。 そこでスクライビング処理をした後，銅メッキを施した線材の遮蔽電流磁場の解析評価を行ったので報告する。

5-117

高強度Bi-2223コイルの部分劣化に起因した熱暴走

◎持田寛希・梶田健太朗・高尾智明（上智大学）・末富 佑（千葉大学）・柳澤吉紀・前田秀明（理化学研究所）

高い許容引張応力を持つ高強度Bi-2223線材を用いることで，コンパクトな高磁場コイル設計が可能である。この種のコイルでは強い電磁力によって，この線材の特徴である折れや座屈による特性劣化が生じて熱暴走に至る可能性がある。本報では，折れによる局所劣化を持つ高強度Bi-2223コイルの77 Kでの熱暴走の振る舞いを観察し，既報のREBCOコイルと比較した。類似の局所劣化REBCOコイルでは劣化部位からの発熱量 5.4 W, 負荷率92 % (90 A)の時点で熱暴走したのに対し、Bi-2223コイルは発熱量17.6 W, 負荷率144 % (160 A)まで熱暴走に至らなかった。Bi-2223線材では，臨界温度が高く，n値が低いため熱暴走の急速なフィードバックが生じにくいので，熱暴走に至りにくいと考えられる。

5-118

局所的劣化を模擬したY系高温超電導線材のクエンチ特性

◎井出桃愛・宮城大輔・津田 理（東北大学）・横山彰一（三菱電機）

液体ヘリウムレス化や省エネ化を可能とする高温超電導線材の応用が期待されている。高温超電導線材は,熱拡散速度が遅いため,常電導部の検出が難しいことが知られている。擾乱により線材が常電導転移し,局所的に温度上昇すると,コイル損傷やシステム停止を招く恐れがあるが,保護対策を確立するには常電導転移現象の発生要因を明確にする必要がある。本研究では，高温超電導線材の局所的な臨界電流低下に着目し,局所的劣化が線材の電圧電流特性やクエンチ特性に及ぼす影響について検討した。安定化層の有無や冷却条件を変化させて実験を行ったところ,局所的なIc劣化が擾乱となる場合,線材やコイルの保護には,冷却条件の改善が特に重要になることが分かった。

5-119

伝導冷却エポキシ含浸コイル内HTS線の熱伝達特性

◎渕田佳稀・小島あかね・松田直大・松尾竜太・有山隆紘・塚本修巳・高尾智明（上智大学）

本研究では高温超伝導コイル中の線材の熱伝達特性を調査するために、ビスマス線材でエポキシ含浸した線材パックを作製し、冷凍機で伝導冷却し実験を行った。ヒータにより熱を与え、コイルの巻き層数や冷却温度が変化した場合の層間の熱伝達および層と冷却面間の熱伝達を調べるために、冷却面を二面にしたときと三面としたときの二種類について実験を行った。測定後、実験を模擬した等価回路を作製してCOMSOLを用いて解析を行い、実験結果と比較し熱伝達特性の検討を行った。

5-120

伝導冷却型HTSコイルに向けた高熱伝導プラスチックの低温特性評価

◎高野太郎・田中雄基・菅 祥大・高尾智明（上智大学）・山中淳彦（名古屋大学）

伝導冷却型HTSコイルの熱的安定性の向上のために、コイルの線材と冷却部の間に電気絶縁性、高伝熱性を有したプラスチック材料を放熱材として挟み込むことでコイルの冷却性能の向上を目指した。本研究ではプラスチック材料の低温特性評価のため、熱伝導率測定試験、熱歪み測定試験を行った。さらにコイルを模擬した試験を行うために、プラスチック材料を短尺HTSの上下から面接触させ、面圧を印加したサンプルを用いてヒータ入熱によるクエンチ試験を行った。以上の測定からこの材料は、高い伝熱性と負膨張特性を有しているため、一般的に用いられるGFRPと比較して高い熱的安定性を示した。そのため、コイル構造材料として有用であると考えられる。

5-121

スターリング冷凍機で冷却した大型バルク体のパルス着磁特性

○横山和哉・趙 元鼎・クラワンシャエランダ・香月 淳・三浦敦朗（足利工業大学）・岡 徹雄（新潟大学）

著者らは超伝導バルク磁石の産業応用を目指して，スターリング冷凍機を用いた卓上型バルク磁石装置を開発した。同冷凍機は小型・省電力というメリットがあるが，広く用いられているGM冷凍機等に比べて，冷却性能が低いデメリットがある。そのため，当初はφ45mmの小型試料を用いて実験を行ったが，本文ではφ60mmの大型試料を用いて冷却及び着磁試験を行った。冷却試験の結果，室温から約6.5時間で55.6 Kに到達した。小型試料に比べ約4 K高い結果となった。大型試料の総磁束量は，小型試料の約2倍となっており，試料を大型化したメリットが十分表れている。また，最大磁束密度は3.0 Tを達成した。

5-122

超伝導バルク体と永久磁石を用いた浮上走行装置の製作

◎三浦敦朗・香月 淳・クラワンシャエランダ・趙 元鼎・山形慎吾・横山和哉（足利工業大学）・岡 徹雄（新潟大学）

超伝導特性の一つであるピン止め効果は、無制御で安定浮上が可能であり、フライホイールの軸受けや免震装置等への応用が検討されている。本研究は、これまでに大型のネオジム磁石で製作した磁気回路とφ60[mm]のREBCOバルク体を用いた人間磁気浮上装置を製作した。本文では、人間浮上装置を発展させた磁気浮上走行装置を製作する。φ60[mm]のGdBCOバルク体とネオジム永久磁石を用いて磁気浮上走行装置を製作した。ネオジム磁石で構成される磁石レールの磁束密度は約340[mT]であり，ボードの浮上は確認できた。現在、人が乗って走行できるように装置を改良している。

5-123

細孔加工した超伝導バルク体の反復パルス着磁

◎香月 淳・クラワンシャエランダ・趙 元鼎・三浦敦朗・横山和哉（足利工業大学）・岡 徹雄（新潟大学）

超伝導バルク体のパルス着磁による強磁場発生について研究おり、これまでにバルク体に細孔を加工することで意図的に特性の低い部分を作り、そこから磁束を侵入させる手法を提案した。本文は、その試料に反復パルス磁化法を適用した時の捕捉磁場特性を評価した。その結果、磁場印加回数と共に捕捉磁場が増加することを確認した。

5-124

バルク超伝導体の複数回パルス着磁における逆磁場印加での磁場捕捉挙動

○岡 徹雄・原 健介・武田 晃・小川 純・福井 聡・佐藤孝雄（新潟大学）・横山和哉（足利工業大学）

超伝導バルク磁石の優れた磁場捕捉性能を発揮する手段として、複数回にわたって磁場を捕捉させるパルス着磁法がある。本研究は捕捉磁場性能の向上を目的とし、すでに捕捉された磁場とは逆極性の磁場を反復して印加することで、誘導される超伝導電流の方向を意図的に反転させ、磁場捕捉性能向上への効果を調査した。1回目よりも2回目の方が磁場侵入が促進され、バルク磁石の中央部分での捕捉磁場が増加した。磁場侵入挙動は局所的な磁場捕捉性能の分布に依存すると考えられるから、バルク磁石の局所的な発熱の制御につながる可能性を示唆することがわかる。この磁場侵入を調整することが捕捉磁場の向上につながると考えられる。

5-125

新しい補強法を用いたQMG^Ⓡリングの10T着磁

◎森田 充（新日鐵住金）

優れた特性を有するQMG（単結晶状の123相中に211相が微細分散したバルク状酸化物超電導材料）は、1988年に初めて開発された。最近では、特に低温・強磁場での着磁により数Tの磁場が捕捉可能となり、各種のバルクマグネット応用例が報告されている。強磁場を着磁する場合、大きなフープ力により試料がひずみ破壊にいたる可能性がある。今回、新しく開発した補強方法を用いリング状QMGを試作した。種々の温度・印加磁場条件で着磁し、ひずみ変化量と捕捉磁束密度とを測定することにより、新しい補強方法の有効性を明らかにしたので報告する。

5-126

HTSバルクの磁場遮蔽効果を利用した磁気浮上方式の案内力特性

◎藤田裕貴・安川翔大・根岸直広・高尾智明（上智大学）・上條弘貴（鉄道総合技術研究所）

永久磁石、HTSバルク、強磁性体レールを上から並べたモデルを基本モデルとした吸引浮上システムの研究を行っている。永久磁石とHTSバルクを一つのユニットとするとき、ユニットが垂直方向に変位すると、バルクの磁場遮蔽効果により磁場経路が調整され、特別な制御をせず、安定浮上が可能になる。しかし、ユニットが水平方向に変位すると、中央位置に戻ろうとする案内力がすぐに発生しないことがCOMSOL Multiphysics® の解析で分かった。そこで、ユニットをレールの両側にも取り付けることで、安定浮上を維持したまま、ユニットが水平方向に変位しても、それを補正するような案内力の発生に成功した。

5-127

風力用超電導同期発電機の電機設計及び特性解析

◎尹 基旭・岩熊成卓・田村亮人（九州大学）・長谷吉二・笹森雄一郎（富士電機）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）

本研究では、電機子巻線を含めた全超電導風力用発電機の開発して、常電動機に比べて、はるかに小型・軽量、高効率化することを目指している。界磁巻線、電機子巻線にY系超電導線材を使用した洋上風力用15MW級のY系の全超電導同期発電機の設計検討を行った。ギャップ磁束密度を2〜4T、温度を40〜50Kとパラメータを変化させて設計・解析を行い、パラメータを変えたことによる発電機の特性や線材コストなどに与える影響を比較検討した。Y系超電導線材の臨界電流値には磁場依存、磁場印加角度依存性があるため、これらの特性を考慮した設計を行った。

5-128

波力エネルギー用 2 MW 円筒型 HTSリニア発電機の設計検討

◎荊 海蓮・牧 直樹・井田徹哉・和泉 充（東京海洋大学）

To harness ocean wave energy, we propose a novel wave energy converter (WEC) with a tubular high-temperature superconducting linear generator (HTS-LG). In this paper, we show the structures of the WEC and the HTS-LG, and describe the electrical design method of HTS-LGs. Design results of a 2 MW HTS-LG are presented, which are compared with those of conventional counterparts designed for the WEC.

5-129

超電導限流器を含む電力システムの限流協調

◎前野有哉・小島寛樹・早川直樹（名古屋大学）

超電導限流器（SFCL）が導入された電力システムにおいては，SFCL間およびSFCL周囲の電力システムとの限流協調が必要である．今回，SFCLが導入された電力システムにおけるSFCLの限流効果と電力システムの過渡安定度向上効果の観点から，限流協調について検討した．導入した2つのSFCLのパラメータは，固有短絡電流Iproに対するSFCLの臨界電流Ic/Iproを0.1~0.6の範囲で独立に設定した．これより，本解析における限流協調を考慮したSFCLの動作パラメータを明らかとし，限流協調と過渡安定度向上効果の協調を得ることが可能となった．

5-130

超電導限流器の絶縁設計における液体窒素の動的絶縁破壊電界の体積効果

石田一樹・◎民部昌孝・小島寛樹（名古屋大学）・礒嶋茂樹（住友電気工業）・桑田 稔（日新電機）・早川直樹（名古屋大学）

抵抗型超電導限流器の絶縁設計においては，限流動作時の突発的な気泡擾乱状態を考慮する必要がある．これまでに筆者らは，液体窒素に電界／熱複合ストレスを与えることで限流動作時の絶縁環境を模擬し，液体窒素の動的絶縁破壊特性として評価してきた．今回，電極直径およびギャップ長を変更し，動的絶縁破壊電界が体積効果に依存することを明らかにした．また，ギャップ長を増加させることで動的絶縁破壊電界が静的絶縁破壊電界に漸近することを明らかにした．両者の特性を考慮することで，抵抗型超電導限流器の高信頼度かつ合理的な絶縁設計が可能となると考えられる．

5-131

超伝導変圧器と超伝導ケーブルの限流協調に関する検討（2）

◎中村文弥・徳地貴行・岩熊成卓・吉田幸市（九州大学）・富岡 章・今野雅行（富士電機）・足立和久（昭和電線）

超伝導を電力機器に応用することにより、送電時の損失を低減し、電力系統における高効率な送電に大きく貢献すると期待される。またREBCO超伝導巻線の特性を活かし、落雷時に発生する突発的な事故電流を抑制する機能（限流機能）を、変圧器自体に付加することも可能となる。我々はこれまでにこの限流機能付き超伝導変圧器の研究を行ってきた。 本研究では、将来、超伝導変圧器を実系統に投入する際には、ケーブルにも限流機能を持たせ、超伝導変圧器と超伝導ケーブルを組合せて、限流協調を行う方法が合理的であると考え、この検討を行った。今回はケーブルに流れる液体窒素の長手方向の温度分布を考慮している。

5-132

66kV級40m高温超電導ケーブルの短絡事故時における冷媒挙動解析と模擬試験結果の比較

◎堀田大智・安井徹郎・竹田夏子・横尾祐輔・我妻 洸・石山敦士（早稲田大学）・森村俊也・増田孝人（住友電気工業）・三村智男（東京電力ホールディングス）

高温超電導ケーブルは，従来のケーブルに比べ高密度かつ低損失な電力輸送が行えると考えられるため，将来の電力輸送システムの拡充という課題に対する解決策として期待されている。しかし，高温超電導ケーブル実用化のためには短絡事故電流通過時における安全性の評価が必要である。我々は，66kV系統における短絡事故時の影響評価を行ってきた(1,2)。日本国内の66kV系統では最大で31.5kA－2.0s の短絡電流が想定されている。本研究では，40mの高温超電導モデルケーブルを解析対象とし，31.5kA－2.0sと等価エネルギーとなる電流条件16kA－8.4sで実施した短絡事故模擬試験(3)と，解析結果の比較を行ったので報告する。

5-133

MgB2線材を用いたR&W方式大容量導体とSMESコイル設計

◎水野伸哉・谷貝 剛・大久保 徹・高尾智明（上智大学）・平野直樹（中部電力）・槙田康博・新冨孝和（高エネルギー加速器研究機構）・恩地太紀（鉄道総合技術研究所）・駒込敏弘・濱島高太郎（前川製作所）

発電部門の低炭素化を目的に、我々は太陽光発電出力のうち長周期成分を燃料電池と水電解装置、短周期成分に超電導磁気エネルギー貯蔵装置（SMES）を用いて補償することで、一定の電圧に制御するシステムを構築する。近年、大量の液体水素(LH2)への需要が高まりを受け、SMES用線材として、資源が豊富、かつ低コスト化が見込まれ、LH2温度で超電導特性を示すMgB2線の採用し大容量導体、コイル化技術開発に着手した。電力貯蔵用ダブルパンケーキコイル製作手法として、主に熱処理後にコイル巻き線を行うリアクト＆ワインド（R&W）方式に関して、複合曲げ歪を評価し、その許容範囲で大容量導体およびSMESコイルの設計について詳細な検討を行ったので報告する。

5-134

JT-60SA中心ソレノイドにおける共振現象の電圧分布への影響

◎那須京介・中村一也・鈴木一輝・藤山 奨（上智大学）・村上陽之・夏目恭平・木津 要（量子科学技術研究開発機構）

JT-60SA用中心ソレノイド (CS) は4つのモジュールから成り、1モジュールは8層パンケーキコイル6個と4層パンケーキコイル1個の計52層のパンケーキコイルで構成される。1モジュールあたり10 kVの端子間電圧が印加されるため、理想的に分圧した場合には一つの層間に0.38 kVの電圧が掛かる。しかし、共振現象による不均一な電圧分布によって最大層間電圧は理論値よりも大きくなる可能性がある。 本研究ではCSモデルコイルを用いて解析モデルを作成し、CS(24層まで)において共振時における電圧分布不均一性について評価した。 解析の結果、CSの電源での主要な周波数領域では導体間の絶縁の耐電圧を超えることはないことが示された。

5-135

市販REBCO線材の4.2Kにおける臨界電流特性

◎内田 聖・則本知哉・高尾智明（上智大学）・土屋清澄・寺島昭男・増澤美佳・多和田正文（高エネルギー加速器研究機構）・菊池章弘（物質・材料研究機構）・藤田真司（フジクラ）

LHC加速器（衝突エネルギー14 TeV）における物理実験の進捗とともに、さらなる高エネルギー領域での物理探索の欲求が高まり、100 TeV領域での物理実験を可能とする超大型加速器Future Circular Collider (FCC) の検討がCERNを中心として進められている。この加速器では16〜20 Tのマグネットが必要とされ、現在その基礎設計検討が始まりつつある。16 T以上の強磁場マグネットの一つの候補として、REBCO導体を用いたマグネットが考えられる。我々は、そのマグネット開発の第一歩として、市販REBCO線材の4.2 K高磁場下での臨界電流特性(1)について調査を開始した。本報告ではこれまでに得られた結果の一部について報告する。

5-136

鞍型ピックアップコイル法による、スクライビングを施したEuBCO+BHO超電導テープ線材に生じる交流損失特性の測定、評価

◎上野達人・伊藤哲也・岩熊成卓（九州大学）・和泉輝郎・町 敬人・衣斐 顕（産業技術総合研究所）

超伝導線材を電力機器に応用する際、超伝導巻線部に生じる交流損失は機器に生じる熱負荷の大半を占める。そのため、超伝導機器に生じる交流損失を見積もり、冷凍機を含めた全システムを設計することが重要である。交流損失を見積もるためには超伝導体の電磁特性の評価が必要になるが、実際に測定を行うと、多大な時間、設備、費用がかかる。そこで、我々はこれまでに温度スケーリング則により、任意の温度における交流損失特性を予測することが可能であることを示してきた。今回、交流損失低減のためスクライビングを施したEuBCO+BHO線材に対して、外部磁場の印加角度を変化させた場合の交流損失に対して温度スケーリング則の適応可否を検討した。

5-137

酸化物超伝導並列導体の電流分流特性の解析

◎佐川慎太郎・岩熊成卓・本田正太郎・吉田幸市・佐藤誠樹（九州大学）・和泉輝郎（産業技術総合研究所）・富岡 章・今野雅行（富士電機）

酸化物超伝導線材を電力機器の巻線や大型超伝導マグネットに適用するためには大電流容量化が必要である。現在の酸化物超伝導線材はテープ形状であり、大電流容量化するには重ね合わせて並列導体を構成しなければならない。しかし、単に積層しただけでは素線間のインダクタンスバランスがとれず、偏流が発生してしまうので、適切な位置で素線の位置を入れ替える転位を施すことにより、電流を均等化し、交流損失の低減を図る必要がある。本研究では転位並列導体について、電流リード部の接触抵抗とn値モデルに基づく通電時の磁束フロー抵抗を考慮して、コイル径や並列導体の構成本数等が変化した場合の素線間電流分流について考察した。

5-138

液体水素浸漬冷却におけるMgB₂ 超電導多芯線の臨界電流測定

◎藤田勝千・飼沼 徹・白井康之・塩津正博（京都大学）・小林弘明・成尾芳博・稲谷芳文・野中 聡（JAXA）

本研究グループでは液体水素冷却超電導機器の開発を目指して研究している。液体水素は、蒸発潜熱と比熱が大きく、粘性が小さく、高温超電導体の冷却において飽和温度が十分低いため、超電導機器の冷媒に適していると言える。本研究グループは次世代超電導体のMgB ₂に注目し、液体水素浸漬冷却によるMgB₂多芯線の臨界電流を測定し、温度依存性と磁場依存性を調べる実験を行ったため報告する。

5-139

大電流化に向けたMgB₂撚線の臨界電流特性

◎神保茉那・安藤憲之介・水落 空・上林昌弘・高尾智明・谷貝 剛（上智大学）・新冨孝和・槇田康博（高エネルギー加速器研究機構）・濱島高太郎（東北大学）・駒込敏弘（前川製作所）

我々はMgB₂を用いた超電導電力貯蔵装置（SMES : Superconducting Magnetic Energy Storage）の大容量化を検討している。MW級の入出力を行うSMESコイルに対応させるためには、単線で数百A級であるMgB₂線材は撚り線加工による多芯化が必要である。基礎的な知見を得るため本研究では3本撚線を作成し、臨界電流特性と素線ごとの接続抵抗を調査した。3本撚線の各素線をそれぞれwire ①、②、③としたとき、一番接続抵抗が小さい通電電流が328 Aのときwire ②が最初に電圧が立ち上がった。次に接続抵抗の低いwire ③は360 Aのときに立ち上がり、一番接続抵抗が大きいwire ①は398 Aまでの通電では電圧は立ち上がらなかった。以上より、素線ごとの接続抵抗の違いが偏流を引き起こすと考えられる。

5-140

撚りピッチに依存する撚線の臨界電流特性

◎上林昌弘・安藤憲之介・水落 空・神保茉那・高尾智明・谷貝 剛（上智大学）・新冨孝和・槇田康博（高エネルギー加速器研究機構）・濱島高太郎（東北大学）・木須隆暢（九州大学）

MgB2線の応用例の一つとして、私たちの提案する先進超伝導電力変換システム(ASPCS)が1 MW出力するためには，SMESの貯蔵エネルギーは50 MJを想定し、その定格電流は2.2 kAである。本研究では、異なる撚りピッチを持つ3本撚線を作成し、ほぐした素線のIC測定を行うことでフィラメントに加わる歪と臨界電流特性の関係を調査した。撚りピッチが短いほど劣化は大きく，電流特性はフィラメントに加わる歪に依存していると考えられる。また、LP = 13.5 mm の撚り解し素線の断面を観察した結果、一部のフィラメントでNbバリアの破損が確認された。これによりMgB2の生成率が減少し、臨界電流特性が劣化したと考えられる。

5-141

デュアルハルバッハ配列コアレスリニア同期モータにおけるd軸電流の作用に関する検討

◎丸山 裕（東芝）・森下明平（工学院大学）

一対のハルバッハ配列永久磁石を対向させて、二つの配列間に強磁場を生成するデュアルハルバッハ配列が提案されている．これを利用したコアレスリニア同期モータはベクトル制御で駆動するのが一般的となっている．当該モータではq軸電流を制御することで，推力を発生させて駆動を行う．このため，q軸電流の効果については様々な検討がなされているが，d軸電流の効果に関する検討は見られない．そこで本稿では，d軸電流の効果を電磁解析によって調査した．その結果，d軸電流は可動子に対する支持力として作用することが明らかとなった．これに関して，支持力の特性を中心に報告する．

5-142

ソレノイドにおける渦電流を用いた可動子当接速度の低減手法に関する検討

◎石川将司・小川 徹・伊藤一将・有田秀哲・大穀晃裕（三菱電機）

近年，自動車は燃費改善のために車体全体の軽量化が進んでおり，遮音性が低下してきている。そのため，従来問題となっていなかった流量制御用のソレノイドの動作音が顕在化してきており，低騒音化要求が高まっている。発生音を抑制するためには，可動子のピンへの当接速度の低減が必要である。 本報告では，可動子当接前に渦電流を積極的に発生させる構造を考案し，提案構造における当接速度の低減効果の有無を，磁界解析を用いて確認した。

5-143

リニア波力発電機の電流制限と変位制限下での出力電力最大化のためのフィードバックゲイン最適化

◎松岡秀樹・古関隆章（東京大学）

本研究ではポイントアブゾーバ式と呼ばれる機械構造を有し、発電機に永久磁石型リニア機を採用した波力発電機の制御に着目し数値解析を行なった。先行研究において、発電機に電流制限と変位制限が存在する場合には出力電力最大化制御の解析解を用いて制御しても、必ずしも所望の発電電力が得られない場合があることを指摘した。そこで本研究では、このような電流制限と変位制限を考慮した場合に実際に出力電力を最大化するフィードバックゲインを数値計算によって求め、より広範な特性を持つ入力波に対して大きな発電電力を得られることを示した。

5-144

LIM型渦電流レールブレーキ電機子における外形寸法制約下での極数変更による特性変化

◎依田裕史・坂本泰明（鉄道総合技術研究所）

渦電流レールブレーキの直流電磁石を3相交流電機子とすることで，リニア誘導モーターの発電制動として動作させ自身の励磁電力を発電することが可能なLIM型渦電流レールブレーキの開発が行われている。本稿では，リング巻構造電機子の設計検討の一環として，外形寸法制約下での幾何的条件により生ずる極数による特性の差異を，単純化モデルおよび3次元電磁界解析により考察した。

5-145

三次元磁気回路構造による高推力化の検証

◎林 俊平・德山貴士・宮崎 烈（神戸製鋼所）

産業機械において直動運動は一般的に回転電動機からボールネジやクランクシャフトなどの動力伝達機構を介することで得られる。これに対して直動電動機を用いれば動力伝達機構が不要になるため保守性・信頼性に優れたシステムが実現する。しかし電動機を用いたダイレクトドライブ構造は減速機構をもたないため推力向上には電動機全体の大型化が避けられず、更なる推力密度の向上が望まれる。本稿ではこれまでに提案した磁石配置によって直動電動機の推力が向上することを検証した。最小単位の磁気回路を構成する原理検証機を製作し、FEM解析結果と実測結果の比較を行った。実測の結果、解析結果と同程度の最大磁気吸引力を再現した。このことから、提案する磁石配置を適用することで直動電動機の推力向上が期待される。

5-146

交流アンペール力によるアルミフレーム立ち上げ試験

◎須田一輝・大路貴久・飴井賢治・清田恭平・作井正昭（富山大学）

アルミニウム（Al）生産品の基本形状として板材，管材（パイプ），環材（リング）等があり，筆者らはこれらの非磁性金属製品に対して交流アンペール力を利用した磁気支持力の付与を実現してきた。本稿では，Alフレームの傾斜搬送時の接触面を出来る限り減らす試みとして，Alフレームを二次導体に見立てて交流アンペール力を付与する新たな構造体を提案する。Alフレームの立ち上げ試験を実施し交流アンペール力の効果を確認したので報告する。

5-147

低支持剛性磁気浮上装置による質量検出

○桂川岳之・大路貴久・飴井賢治・清田恭平・作井正昭（富山大学）

永久磁石反発による磁気浮上は，磁石材質，寸法，構造，磁石間距離によって支持剛性が一意に決定され，一般に支持剛性が比較的小さい。筆者らは複数のリング状永久磁石の配置を工夫し浮上磁石の支持剛性を極めて小さくした磁気浮上装置を提案しており，低磁気支持という特長を活かした微小質量測定器の開発を目指している。本稿では，まず浮上磁石の水平運動のみを能動制御し非接触浮上状態を得たので報告する。なお，補償器はPIDとしてゲイン調整し浮上状態を確立した。さらに非接触浮上状態の浮上磁石に対し鉛直方向に錘を載せ浮上状態を評価した。

5-148

永久磁石型ベアリングレスバーニアモータの提案

◎南 香夏子・関根隆弘・土方規実雄・田中康寛（東京都市大学）

従来のベアリングレスモータはギヤなどの減速機を用いることができないため高トルク用途に不向きである。そこで本研究では、低速高トルク駆動に適したバーニアモータのベアリングレス化をすることで、完全非接触かつ低速高トルク駆動が可能なベアリングレスバーニアモータの開発を行っている。先行研究において、リラクタンス型ベアリングレスバーニアモータの解析が行われ、市販のダイレクトドライブモータと同体格で、同等のトルク密度を維持しつつ磁気浮上が可能であることが確認されている。本研究ではさらなる高トルク密度を実現することを目的として永久磁石を用いたベアリングレスバーニアモータを提案する。

5-149

ワイドギャップ用途向け渦電流式変位センサの開発

◎三田智博・土方規実雄・田中康寛（東京都市大学）

ベアリングレスモータや磁気軸受の変位制御において、ワイドギャップの計測が可能な渦電流式変位センサが必要とされている。しかし、一般的に市販されている渦電流式変位センサは円形コイルを用いた構造のため、ワイドギャップを計測するためにはその半径、すなわちセンサのサイズを大きくしなければならず、機械構造設計において非常に取り回しが悪くなる問題があった。そこで、本研究では、センサコイルの形状を工夫しセンサターゲットとの対向面積を増加させることによりワイドギャップの計測が可能な渦電流式変位センサの開発を行う。本稿では初期検討として鉄心にコイルを巻き変位計測が可能であることを確認した。

5-150

ラジアル受動磁気軸受とスラスト能動磁気軸受を一体化した1軸能動制御型ベアリングレスモータの基礎検討

◎小林達也・竹本真紹・小笠原悟司・折川幸司（北海道大学）

1軸能動制御型のBelMは，回転子主軸の磁気支持制御を行うにあたり，軸方向zの1軸のみを能動的に位置制御し，半径方向x，yおよび傾き方向θx，θyの計4軸を受動的に位置制御する。 従来の1軸能動制御型BelMは，4軸を受動制御するラジアル受動MBと1軸を能動制御するスラスト能動MBが磁気的に分かれた構造になっている。さらに，この1軸のスラスト能動MBが電動機と磁気的に一体化しているため，モータ全体の構造が比較的複雑になると同時に，スラスト能動MBの機能を組み込むことから電動機に設計上の制約が増え，モータ性能の向上に特化した電動機設計が難しいという課題がある。 そこで，4軸のラジアル受動MBと1軸のスラスト能動MBを磁気的に一体化した構造を新たに提案する。提案構造は，電動機とこれらのMBを磁気的に分離することで構造の簡単化が図れる。本稿では，この提案構造の軸支持力特性について，3D-FEM解析を用いて検討したので報告する。

5-151

1軸制御シングルドライブベアリングレスモータの固定子構造の改善によるトルク向上

志村 樹・◎杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，著者らが提案した1軸制御シングルドライブベアリングレスモータについて，上段の固定子鉄心のみに圧粉磁心を用いる新たな固定子構造を提案し，三次元有限要素法による解析によってトルクおよび支持力を比較する。また，トルクおよび支持力の発生に伴う銅損を比較する。

5-152

1軸制御シングルドライブベアリングレスモータのギャップ長短縮によるスタートアップ電流の低減

◯大野涼香・杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，1能動軸制御シングルドライブベアリングレスモータの回転子磁石と固定子鉄心間のエアギャップ長を変更し，有限要素法による電磁界解析ソフトウェアのJMAGを用いた3次元解析により磁気支持性能及びスタートアップ電流の比較を行った。

5-153

新構成反発受動型磁気軸受を備えた薄型シングルドライブベアリングレスモータの提案

◎横山正太朗・杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

本稿では，先行研究に対して，トルク及びトルク密度を向上する新しい構造のコンセプトを示す。また，3D-FEM解析を用いて磁気支持性能を明らかにする。

5-154

A Novel Measurement Method of Current-Force Factor in Single-Drive Bearingless Motors

◎Chinh Hoang Duy・志村 樹・杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

This paper presents a novel measurement method of the current-force factor in the single-drive bearingless motor. At first, the active axial force is directly measured in both negative and positive regions. A new method is an indirect measurement of the current-force factor through variation of the induced voltages. In the experiment, it is confirmed that the proposed method is effective to measure the current-force factor.

5-155

V型巻線を備えたシングルドライブベアリングレスモータのトルク測定

◎石井拓馬・杉元紘也・千葉 明（東京工業大学）

折り曲げ角を増加させた1軸制御シングルドライブベアリングレスモータ試作機のトルク測定を行い，解析結果と測定結果を比較する。

5-156

相関ルールを用いた遅延伝播経路の推定

富井規雄・◎河野亜美（千葉工業大学）

都市近郊の鉄道路線に対して、頻繁に発生し、かつ、広範囲に伝播する遅延の原因となっている遅延（一次遅延）を検出するアルゴリズムを提案する。手法としては、データマイニングの手法の一種である相関ルールを用いる。相関ルールを用いた場合に問題となる因果関係の推定、有用なルールのみを出力する方法等について述べる。出力された有用なルール群により発見された遅延の伝播状況を有向グラフにより可視化し、目的とする遅延に関しては遅延の伝播経路の列挙も行う。提案手法を用いた実データによる実験結果についても報告する。

5-157

列車種別変更や部分運休があり得る場合のMimic Panel状態モデルによる運転整理最適化

◎藤井道士・山田真之・高木 亮（工学院大学）

事故などによる列車遅延への対処のため行われる運転整理は自動化する研究が進んでいる。筆者らの研究グループでは，遺伝的アルゴリズム（GA）などと組合せることで運転整理問題の求解のために利用可能な見通しのよいモデルであるMimic Panel状態モデル（MPSM）を提案している。本論文では，このMPSMとGAの組合せによる最適化手法を，列車種別変更や部分運休があり得る複雑な対象路線に適用し最適化を試行した結果を報告する。

5-158

Mimic Panel状態モデルを適用した運転整理最適化手法における問題点と解決策

◎山田真之・高木 亮（工学院大学）

鉄道事業者は事前に計画されている列車ダイヤに従ってサービスを提供しているが，運行乱れが発生してしまった場合，運転整理と呼ばれる運転状況を正常なものに戻させる非常に重要な業務を行う。近年では，この運転整理の自動化を目指した研究が盛んに行われている。運転整理の自動化には何らかの鉄道システムのモデル化が必要であるが，筆者らの研究グループは，見通しのよいモデル化が可能なMimic Panel状態モデルを提案しており，列車時刻についても考慮が必要な問題への適用方法についても議論を行った。本稿では，この改善手法を取り入れた上で遺伝的アルゴリズムを組み合わせた運転整理求解ツールの試作を行い，それによる最適化を試行したので，報告する。

5-159

運転整理のための先行列車運転曲線補正の有効性評価

◎小熊 信・鈴木辰徳（東芝）

近年、無線列車制御の技術開発が加速している。加えて、鉄道の運行ダイヤや運転曲線をオフラインで計算する輸送計画ICTソリューションも進化しており、実際に運行している在線列車の状況をクラウド上で運行監視し、各列車の在線位置が検知できる場合には、乗務員や指令員に在線位置を提供する運転支援機能も備わっている。そこで筆者らは、前述の無線列車制御と、輸送計画ICTソリューションを組み合わせることで実現する新たな遅延低減手法を立案する。本稿では、遅延列車が発生した場合に、後続列車への遅延伝ぱを抑制する運転整理を、乗務員や指令員に対して支援するための、先行列車の運転曲線を補正する手法の有効性を評価する。

5-160

長編成列車の短編成列車群への置換えによる合流・分岐駅での直通サービス増加

◎清水嵩弘・高木 亮（工学院大学）

筆者らは多様な旅客のニーズにより高度に適合した多様なサービスを供給しうる鉄道システムとして「超高度化鉄道システム(UCRT)」を提案している。UCRTには列車頻度の抜本的向上が欠かせないが，平面交差支障のある合流・分岐駅を含む鉄道ネットワークにおける知見は十分でない。本論文では筆者らの提案技術を応用し，合流・分岐駅での時隔に関する計算結果を平面交差支障が存在する合流・分岐駅における運転時隔に関する検討を行い，それを基に短編成列車群を活用した直通サービスを多数含む運行計画を作成し，定量的評価を試みた結果について報告する。

5-161

予測制御に対応した列車運行・旅客行動シミュレータの評価

◎寺澤孝彦・國松武俊・武内陽子（鉄道総合技術研究所）

先行列車との時隔を短縮する新しい列車制御手法として，先行列車が次駅停車中のとき，先行列車の発車時刻を予測し，それに合わせて手前から減速する予測制御方式が提唱されている。筆者らは，予測制御を実際の通勤路線に導入した場合の，列車遅延縮小，旅客の旅行時間短縮等の効果を試算するために，予測制御に対応した列車運行・旅客行動シミュレータを開発し，ケーススタディを行った。本稿では小規模遅延時の遅延回復が，予測制御の有無によりどの程度異なるかを，シミュレーションにより比較評価した。その結果，今回の試算では路線全体での効果は限定的であったが，一駅間では数秒の時隔短縮効果が見られたので報告する。

5-162

疑似車上分岐と地上分岐の超高頻度列車運行能力の比較

◎石原拓実・清水嵩弘・高木 亮（工学院大学）

分岐における列車の進路は一般に地上設置の分岐装置が定める。一方，先行研究で列車自身が進路を定める車上分岐方式にできれば，分岐において時隔を短縮できることが分かっている。しかし，鉄車輪・鉄レールを用いる通常の鉄道における車上分岐手法の開発は進んでいないため，地上分岐で車上分岐のような列車の動きが実現できる疑似車上分岐技法を提案した。本論文では，疑似車上分岐と地上分岐の能力比較を行い，疑似車上分岐が有用なケースについてのより詳細な考察結果を報告する。

5-163

重回帰分析を適用した分岐器の転換不能防止装置の提案

◎北尾憲一・五十嵐義信（鉄道総合技術研究所）

ロック狂いは分岐器の転換鎖錠装置におけるトラブルの一つであるが，その発生は列車運行に大きな影響を与える。このロック狂いを発生させる要因の一つとして，分岐器と鎖錠かんをつなぐ信号用品の部材温度変化による熱膨張の影響が指摘されている。本稿では，この点に着目して，ミストの噴霧および部材温度の気象要素からの推定値を組み合わせた転換不能防止手法および装置について提案する。また，ミスト噴霧による部材温度低下の効果を確認した結果について報告する。

5-164

電子踏切制御装置（SQ形）の開発

○久保田恭嗣・山下拓郎（東海旅客鉄道）・青柳直征（日本信号）

JR東海では新型電子踏切SQ形を開発し、平成29年度から順次導入する。新型電子踏切SQ形は、長寿命化と標準化をコンセプトに開発を行ってきた。長寿命化にはは老朽取替が必要となる期間の延伸、および部品枯渇などによる新製品への移行期間延伸の両方を考慮した。取替周期延伸の対策として弱点箇所の調査および強化を行い、製品ライフサイクルの延伸としてライフサイクルの短い部品（CPU）の置き換えを行った。一方の標準化では、制御が単純な小規模な踏切から制御が複雑な駅隣接の踏切まで、さまざまな踏切に対応する標準化を行い、開発工数を減らすことでコストダウンを実現した。

5-165

鉄道用レールの雷サージ伝搬特性を表現し得る数値解析モデルの検討

◎堀 晃徳・山中章文（同志社大学）・田中弘毅（西日本旅客鉄道）・長岡直人（同志社大学）

本稿では，サージ伝搬特性を高精度に表現し得る数値解析モデルを検証した。FDTD法で得られた大地帰路モード電圧・電流波形を，直線近似数値ラプラス変換を用いて周波数領域に変換し，特性アドミタンスと波形変歪の単位関数応答を得た。単位関数応答を指数関数近似する際に，片対数グラフにより初期値を高精度に定めることで，安定した非線形最小2乗近似を行える。これらの近似パラメータを用いると，EMTPに内蔵されているSemlyen，JMarti線路モデルが利用でき，線間波成分に対しても同様に適用可能である。雷サージ解析には周波数依存線路モデルを用いるべきであることが，提案周波数依存線路モデルと定係数モデルを用いたEMTPとFDTD解析結果の比較により明らかとなった。

5-166

信号システムに起因する輸送障害早期復旧に向けた研究

○佐沢智晴

信号システムに起因する輸送障害の中で影響が大きいのは軌道回路故障である。本研究では、発生頻度や列車遅延に大きく影響を与える軌道回路故障の中でも、電子軌道回路で発生した軌道回路故障に着目し、更なる早期復旧実現に向けた手法について研究を行う。その手法として、装置側と現場側を切り離し、監視用の電源を送信することによる電圧、電流の変化を捉えた故障箇所特定の手順について提案する。

5-167

無線回線設計支援システムの精度に関する一検討

○鈴木義尚・木村尚史・領木慎一・服部鉄範（東日本旅客鉄道）

鉄道において無線回線設計を行う場合に設計者が状況に応じて容易にシミュレーションができるシステムが望まれていた。そこで，列車無線等，鉄道無線向けの電波伝搬評価を設計者自らが容易に行うことができる無線回線設計支援システムを開発した。このシステムは基地局や空中線データや地形データ等を考慮したうえで無線伝搬のシミュレーションを行うことが可能である。本システムの無線伝搬の推定計算においてはいくつかの計算手法が使用可能であるが，それぞれの計算手法における精度の検証と他手法による精度向上の可能性についての一検討を行った。

5-168

鉄道通信ケーブルの周波数依存特性に関する検討

◎川村智輝・竹内恵一・小澤圭広・岩本功貴（鉄道総合技術研究所）

近年，情報通信技術の発達により，LSI等の半導体部品を使用した通信機器が多数利用されている。半導体部品は，過電圧に対して脆弱であることから，雷サージや地絡等の過電圧に対する通信機器の耐力は低下傾向にある。このため，過電圧が原因の通信機器の故障は近年増加しており，通信機器の過電圧への対策がより重要になってきている。鉄道通信設備においても，半導体部品を使用した機器の導入が進んでおり，雷サージや地絡による鉄道通信設備の障害や焼損等の増加が懸念される。 そこで本稿では，鉄道通信ケーブルを対象として，その周波数依存特性を実測するとともに，地絡波形の周波数領域を対象とした等価回路モデルについての検討を行った。

5-169

信号設備へのニッケル水素電池を使用した蓄電池システム適用の研究

○石川義恭・石垣直之・田口正剛・小松瑞穂・下堀智史（東日本旅客鉄道）・深海康二・大庭利久・櫻井貴之（FDK）

本研究では、ハイブリッド自動車等で活用されているニッケル水素電池が信号保安設備のバックアップ電源として適用可能か検討し、状態監視機能を付加することでバックアップ電源のCBMへ向けての研究をFDK株式会社と共同で行った。

5-170

信号設備におけるバッテリー管理手法の研究

○小林敏晃（東日本旅客鉄道）

当社では非常用電源として踏切保安装置に鉛蓄電池（以下、バッテリーという）を設備しており、定期的な保全検査を実施している。しかし、停電などでバッテリーから電力の供給をおこなった際、バッテリーの劣化（容量低下）のため想定より早い時間で電圧が低下し、鳴動持続など踏切故障となってしまった事象があった。すなわち、現状の保全検査や設計だけではバッテリーの劣化を把握することができていないといえる。 現行の保全検査や設計を加味したうえでバッテリーの主な劣化要因を分析したところ、格子腐食を発端にした活物質脱落が主要因であると推定した。そこで劣化に至る過程で起こる事象（格子腐食、格子伸び、密着不良、活物質脱落）のうち、いずれかを劣化判断として用いることができれば、劣化状態の把握が可能になると考えた。結果、密着不良に起因する抵抗値の変化を測定項目とし、より具体的な劣化判断手法を検討した。 本研究では、バッテリー劣化判断手法として測定周波数の異なる2台の測定器を組み合わせた測定方法、インピーダンス差分法による抵抗値測定を提案する。提案したインピーダンス差分法の効果を検証するため、バッテリー（新品、中古品）を用いた検証をおこなったところ、バッテリーの劣化判断手法として有効であることが確認できた。

5-171

DC/DCコンバータにおけるアルミ電解コンデンサの劣化影響に関する考察

◎藤田浩由・野村拓也・北尾憲一・丹羽順一・新井英樹（鉄道総合技術研究所）

電子連動装置の更新にあたっては，他の信号設備と比較して人的・経済的負担が大きく，その負荷の平準化を図る目的から耐用寿命延伸の技術的評価が求められている。それゆえ，使用環境を考慮した電子連動装置の寿命評価手法を確立し，劣化傾向および更新時期を明確にする意義は大きい。そこで著者らは，上記の課題に対し，電子連動装置を構成する電子部品の摩耗期における故障率予測手法を開発すると共に，電源部（DC/DCコンバータ）に着目した加速劣化試験を実施している。本稿では，電源部に搭載されているアルミ電解コンデンサについて，その劣化が装置に与える影響を整理すると共に，開発した故障率予測手法を適用した場合の寿命評価を行った結果について報告する。

5-172

電気転てつ機のスマートメンテナンス化に関する研究

○夏井直樹（東日本電気エンジニアリング）

電気転てつ機は列車の進路確保のために重要な設備である。当社では、電気転てつ機の安全・安定稼動のために定期検査を実施しているが、全て人が現地で検査しており手間がかかっている。また現在の検査方法では、良否判断が困難な項目があるといった課題もある。従って本研究では、NS形電気転てつ機の検査の省力化のため、機能維持のあり方について理論的に分析し、検査項目・方法の見直しを行った。結果、密着力の状態監視が重要と判明。密着力測定については、スイッチアジャスタのひずみを精度よく測定する手法を検討し、ひずみ測定と近似式を用いた算出により密着力の状態監視が実現可能であることを解明した。この知見により個別検査の省力化が可能であることを提言する。

5-173

ATOS圏における最適な連動制御の研究

◎高橋俊介（東日本旅客鉄道）

ATOSでは駅装置と呼ばれる電子連動装置が連動駅（駅構内に分岐器がある駅）単位に配置されており、ATOS全体で200台近くの数量となっている。また、電子連動装置1台あたりのコストが高く、数量が多いことよりATOS全体が高コスト化しており、機器の更新を考慮すると今後も継続して高いコストがかかり続けることになる。 そこで本研究では、コストダウンを目的として現在のATOS圏における最適な電子連動装置の構成を導きだす。 電子連動装置の構成を検討する上で進路制御系と連動系に分けて考えた結果、複数駅の連動系を統合する「統合連動制御方式」を採用した。 本方式は運用形態や設備能力にも問題がなく、コストダウンも図れることが確認できた。

5-174

軌道回路を用いた鉄道信号システムへのOFDM伝送方式の導入に関する一検討

◎岩本菜摘・望月 寛・中村英夫（日本大学）・石川 了・佐野 実・西田賢史（京三製作所）

現在，軌道回路を用いた鉄道信号システムが広く用いられている．軌道回路を伝送媒体として用いることは無線方式に比べて妨害波への配慮が容易であるなど安全性の点で優位性を持つ一方で，列車が持つ特有の鉄道雑音の影響が強いことや，オーディオ周波数帯を用いるため伝送速度が低速となってしまう問題が挙げられる．これに対して我々は，多情報化を実現する新たな伝送方式として地上デジタル放送などに用いられているOFDM伝送方式を軌道回路に導入する手法について検討した．本研究では，OFDM伝送方式を用いたシステム構成を示すとともに，鉄道雑音に対する伝送特性を計算機シミュレーションによって評価した．

5-175

デジタル列車無線の回線品質の適正化に関する検討

○近藤継敬・椎崎善貴・早野秀昭（東日本旅客鉄道）

列車無線システムの更新工事にあたり、デジタル列車無線システムのゾーン境界において、実測されたエラーの解消や通話品質向上の具体的手法の検討と、今後も続く線区の業務効率化を行った。

5-176

画像処理を用いた分岐器の自動検出装置

◎山本大樹・田林精二（明電舎）・塩井 崇（日本リーテック）

鉄道線路において一つの軌道を二つに分ける軌道構造を分岐器という。車両の走行方向に対して分岐器の開閉方向が適切でない場合、脱輪する可能性がある。現状では運転手の目視によって分岐器の確認を行っているため、自動での分岐器の検出が望まれている。そこで車両にエリアカメラと照明を搭載し、カメラから得られた画像より、レール及び分岐器を自動で検出する装置を開発した。 レールの検出を行うために、画像中の線路位置により形状が変化するレールモデルを作成し、レール面と軌間中心との明るさの違いを用いてレールの検出を行う。また、検出したレール内でレールらしい直線を検出することで、分岐器を検出することが可能である。

5-177

GNSSを利用した列車位置認識方法の研究

◎坂口慶多・松本雅行（東日本旅客鉄道）

近年、軌道回路を用いない「無線式列車制御システム」の開発・採用により自列車位置認識の重要性が高まっている。 しかし、自列車位置認識に用いられるは従来の「速度発電機」と「位置補正用トランスポンダ」を使用する方法から変わっておらず、今後は誤差の発生を抑える方法の検討が必要となる。 本論文では、全球測位衛星システム（Global Navigation Satellite System / GNSS）を用いて、地上設備に依存しない現行システムと同等の機能を持った列車位置認識システムを実現出来るかについて検討を行う。

5-178

保守作業安全性向上に向けた位置情報取得技術の検証

◎田中鉄二・大槻博丈・島田喜久雄・曽我寿孝（西日本旅客鉄道）

新幹線保守用車と保守係員の触車事故防止対策として、保守用車等ダイヤを基に見張員を配置して、保守用車が接近すると待避を行っている。しかし、更なる安全性の向上を図るために、保守係員に保守用車との距離に応じて接近を伝達する機能の検討を行っている。この機能には、保守係員の位置を特定する必要があり、トンネル区間における保守係員の位置情報取得技術の検証状況について報告する。 この技術は、保守係員が所持する携帯端末のセンサー（加速度、ジャイロ、地磁気）情報から位置を計算する方式（自律航法）を用いる。今回は、自律航法の精度を確認するとともに、保守係員の動作に適した自律航法の計算方式を検証した。

5-179

RAMSを用いた鉄道信号システムにおける保全性の評価手法

○高野友佑・松本雅行（東日本旅客鉄道）

RAMSでのリスク管理とは、通常、安全性に関わるリスクを表す。本稿では、安全性に関わるリスク管理ではなく、システムの運用段階での「保全性」についてリスク管理の手法を適用することを提案する。そして、そして、提案手法を用いて、地方線区においてメンテナンス総量を増加させる要因となっている設備を示す。

5-180

設備管理用すれ違い通信システムへのラジオオンデマンド起動技術の導入検討

○田中 実（鉄道総合技術研究所）

軌道上に離散的に配置された鉄道設備の状態監視を効率的に行うため，監視対象設備に無線センサを設置し，軌道上を移動する車両とすれ違う際に監視データを収集する設備管理用すれ違い通信システムの開発を進めている。システムの消費電力を低減するには，車載装置が通信エリアを通過する時だけ，無線通信を行うように制御することが有効である。そこで，必要な無線センサに対して，必要なタイミングで監視データを送信させるラジオオンデマンド起動技術の導入を検討したので報告する。

5-181

分岐器における列車通過時の振動測定と考察

◎新野善行・鈴木雅彦・小林 巧（東日本旅客鉄道）

鉄道の分岐器における転てつ付属装置の不具合の要因の一つとして、列車通過時の振動による影響が考えられる。その影響を把握するため、分岐器の可動レール肘金部、レール後端部に加速度センサを設置し、列車通過時における振動加速度を測定し、振動データの比較検証を実施した。その結果、過去に肘金部折損が生じた箇所は、通常の分岐と比べ、鉛直方向に2倍以上の強い振動が確認された。

5-182

直流電鉄用蓄電装置の充放電制御パラメータ決定へのPI制御の適用

◎日笠裕貴・仲俣友貴・高木 亮（工学院大学）

地上設置型蓄電装置 (Stationary Energy Storage System: SESS)の充放電制御は，一般的に端子電圧が充電閾値を上回ったら充電，放電閾値を下回ったら放電をそれぞれ行う，電圧に基づく制御が行われる。我々の研究では，これらの電圧閾値をSOE値に応じ変更するV-SOE制御の特性をPI制御により調整することを考えた。本論文では、充放電制御のパラメータ群をPI制御で決定する手法について検討を行った研究の成果を報告する。

5-183

電鉄用変電設備におけるメッシュ接地新設後の接地抵抗の推移

○山口 諒・小石川尊信・阿部健一・松井孝行・林屋 均（東日本旅客鉄道）

変電所等におけるメッシュ接地設備は、地絡電流や雷電流による変電設備の接地電位上昇を抑え、機器間の電位差を軽減する役割があり、適切な接地抵抗を維持することが重要である。これまでも、接地抵抗値の経時変化について報告を行ってきたが、施工直後の接地抵抗値変化に関する調査等報告については、烏山線烏山変電所での測定結果のみ報告してきた。今回、施工に関する接地設備の基礎データを収集することを目的として、常磐線新地き電区分所において、メッシュ接地新設直後から1年間の接地抵抗の推移を調査したので、報告する。

5-184

設備信頼性を考慮した輸送影響評価手法の検討

○飯野友記・佐藤栄徳・長野和海・阿部正太朗（東日本旅客鉄道）

電気鉄道は環境性の高い乗り物とされているが、近年、車両の高効率化や回生電力の有効活用などさらなる省エネルギー化が進められている。直流電化区間における運転電力量削減に寄与する方策の一つとして、き電方式の変更によるき電抵抗の低減が挙げられるが、導入にあたってはコストや上下線の片線で停電事故が発生した際にもう一方の線路側にまで影響が波及する恐れがあるなどの課題もあり、多くは導入されていない。そこで本稿では、き電方式の変更に対する輸送への影響度を、設備信頼性を考慮し金額ベースにて評価する手法について述べる。

5-185

電鉄用変電所遠制接地の過渡特性

○田中弘毅・今村英樹・宮崎修造・川原敬治（西日本旅客鉄道）・村上洋之・長岡直人（同志社大学）

近年電鉄用変電所では，雷撃に起因した電気設備の故障が増加傾向にある。電鉄用変電所には電気機器用の機器接地と信号回路を含む通信設備用の遠制接地が存在する。これらの接地は，それぞれ独立した系統を構成しているが，相互干渉については明らかではない。そこで，本稿では狭小な用地の変電所老朽機器取替工事時における両接地系統の最適化設計を目的とし，模擬雷注入によるフィールド試験を実施した。その結果，埋設地線が接地網近傍にある場合であっても，最大誘導電圧は接地網の最大電圧の60%程度である。直近埋設であっても接地網と埋設地線間に僅かに土壌があれば40%電圧が低下するが，離隔距離に依存しない特性を明らかとした。

5-186

光ファイバ温度分布計測システムによる直流き電ケーブル地絡検出手法の考察

◎黒石祥斗・宮崎修造・川原敬治（西日本旅客鉄道）・鶴居政利・豊島重雄（指月電機製作所）

直流き電ケーブルは絶縁離隔を確保できない箇所に敷設するために欠かすことのできない設備である。直流き電ケーブルは交流用のき電ケーブルと基本的な構造は同じであるが金属の遮蔽層が存在せず、遮蔽層を利用した劣化診断が適用できない。筆者らはこれまでに直流き電ケーブルの地絡時に生じる放射電磁波や光ファイバ温度分布計測システムを活用して直流き電ケーブルの表面温度に着目して地絡検出を試みたが、地絡前後において明確な変化が見られなかった。そこで、直流き電ケーブルを支持するクリート部分の温度に着目して地絡検出の方法を検討した結果、検出するために有効な手法を見出した。

5-187

直流変流器(DCCT)の過渡応答特性試験結果報告

◎小原龍也・菊地原 豊（昭和電子工業）・小西武史（鉄道総合技術研究所）

近年VVVF 制御車両の増加により，急峻な電流変化が正方向及び負方向に生じている。これに対して弊社のDCCTの過渡応答特性が追随できるかについて検証を行った。

5-188

電鉄変電所用直流高速度遮断器の開発

◎遠矢将大・小林 稔・佐々木 央・仲田知裕・相良雄大・中田勝志（三菱電機）・鳥羽慎司・田中 翔（三菱電機エンジニアリング）

電気鉄道用車両に電力を供給している直流系統(DC1500V)において，近年，人口が集中する都市圏を中心に，運転ダイヤの過密化・車両の改良等により，電力量は増加傾向にある。このような状況から，電気鉄道用変電所に使用される，直流高速度遮断器（以下HSCB）には遮断容量の増加要求と共にHSCBが長年運用されてきた国内規格JEC-7152を踏襲したJIS E 2015-2 種類H2への適合が求められてきている。 今回，JIS E 2015-2 種類H2に準拠し，定格短絡遮断容量の最大容量である100kAに適合したJH形HSCBを開発，製品化したので報告する。

5-189

電鉄変電所用直流高速度遮断器の高速遮断技術

◎相良雄大・中田勝志・小林 稔・遠矢将大・佐々木 央・仲田知裕（三菱電機）・鳥羽慎司・田中 翔（三菱電機エンジニアリング）

近年の電気鉄道市場では、車両運用の効率化に向けた運転ダイヤの過密化により、変電所の通電容量は増加傾向にある。そのため、保護機器である直流高速度遮断器（以降、HSCB）にも大容量化が要求されており、我々は遮断容量を従来の50kAから100kAに格上げした新形HSCB（JH形）を開発した。開発品のJH形は、2010 年5 月に制定されたJIS E 2501-2 種類H2に準拠しており、突進率10kA/msで100kAまで上昇する事故電流をHSCB（気中）として業界最速（当社調べ2016/12/1現在）で遮断し、電流ピークを55kA以下に抑制している。 これらの高遮断容量化と高速遮断の実現には、事故電流の高速検出とアークの高速駆動が課題となる。本報告では、前者の事故電流の高速検出技術について述べる。

5-190

直流加圧表示装置の基礎検討

○吉野徹郎・山田創平・甲山貴章・貴志俊英（東日本旅客鉄道）・高橋政俊・長崎文彦（日立製作所）

電気鉄道では加圧されている架線等を停電して作業等を実施している。直流き電では作業前に配線付の検電器を用いて停電を確認するが、変電所付近で架線等が輻輳する箇所では停電箇所を誤認する危険性がある。そこで、加圧線に常設し、容易に加圧状態を確認可能な装置を検討した。接地線を不要にするため、加圧線と大地の間に設置した金属板を振動させて金属板の対地静電容量の変化による電圧変動を検出する容量可変方式を採用した。フィールド試験を実施し、アベレージング処理や差動回路により交流の誘導電圧などのノイズや整流器のリップル影響を除去することで加圧状態が判定可能との結論を得た。

5-191

在来線変電所におけるME化配電盤の故障状況調査

◎今村英樹・田中弘毅・宮崎修造・川原敬治（西日本旅客鉄道）・田中 憲・西川孝雄（三菱電機）

JR西日本の在来線電鉄用変電所では、補助リレーを用いたシーケンス制御の配電盤からPLC（Programmable Logic Controller）を用いて連動の大部分をソフト化するME（Micro Electronics）化配電盤の導入が1980年後半から始まった。その後、定期的なオーバーホールを経て約30年を経過しており、導入当初の変電所においては、老朽化取替工事に併せてME化配電盤も更新している。設備更新を迎えME化配電盤で発生する故障実績は一巡したと考えられる。これまでにME化配電盤の故障傾向を報告されたものはない。そこで、本論文では、これまで発生したME化配電盤の故障実績を調査し、故障種別毎にまとめ、その傾向について考察したので紹介する。

5-192

電力補償装置の低パルス化による損失低減制御手法の開発

○白鳥雅史・久野村 健・甲斐正彦・清水俊匡（東海旅客鉄道）・藤井俊行（三菱電機）・堀田泰久（東芝三菱電機産業システム）

東海道新幹線では、き電電圧降下対策および電源電圧変動対策としてき電側電力融通方式電力補償装置（RPC）を導入している。今回、RPCの容量や機器構成の異なる号機間において、制御パルス調整によりインバータのスイッチングを低パルス化し、運転損失を低減する方法を開発した。 低パルス化と電圧歪の増加抑制を両立させる最適条件を求めるため、シミュレーションモデルを構築し、パルス数と高調波および省エネルギー効果について評価を行った。 結果、高調波を抑えつつ、低パルス化により運転損失を低減できることが確認でき、一部変電所に制御を導入した。

5-193

実測による交流き電回路の高調波電圧共振モデルの検証

○赤木雅陽・森本大観（鉄道総合技術研究所）

整備新幹線に代表される近年のAT方式交流き電回路は，分布定数としての性質を有することが知られている。また，上記き電回路において電気車が高調波を発生すると高調波共振を生じることがある。 ところで近年の自励式変換器の普及に伴い，従来着目されていなかった数千Hzの周波数帯域で高調波電圧が拡大する場合がある。筆者らは電圧源として振る舞う自励式PWM制御車と分布定数回路網として振る舞うき電回路を組み合わせた高調波電圧解析モデルについて検討を進めてきたが，今回は高周波電圧アンプと営業線交流き電回路を用いた現地試験を通じて提案解析モデルの妥当性を確認したので報告する。

5-194

き電を用いた配電線路電圧降下対策の一考察

◎南之園弘太・平田啓二・小野田裕一・須﨑哲哉・齊藤里香（東日本旅客鉄道）

当社の配電系統は片側の変電所からの片送りであり系統の末端である変電所付近では電圧降下が規定値を超えてしまう現状がある。き電電圧は送出し電圧と同程度となっている点に着目し、本考察ではき電から配電へ電力融通により配電の電圧降下対策としての有用性を検討した。本検討では回生電力の有効利用を目的に鉄道駅での導入実績のある駅舎補助電源装置を融通装置の模擬として検討を行った。横浜線の横浜SS〜小机SS間をモデルに融通装置を駅への連系を想定し配電系統の電圧降下を計算した結果、末端側に設置した場合に電圧降下の一定の改善が見込めることがわかった。また、他の電圧降下対策との比較を行い本検討の優位な条件を整理した。

5-195

非接地高圧配電系統の接地形計器用変圧器磁気飽和による不足電圧継電器不要動作

◎塩川浩太・國井大輔・渡部貴夫（東日本旅客鉄道）・森田 岳・吉井 剣（鉄道総合技術研究所）

非接地高圧配電系統（以下、高配）の零相変流器（ZCT）機能確認のため人工地絡試験を行った際、高配回線電圧を監視する不足電圧継電器（27H/27L）が動作し，他回線遮断器が開放する事象が発生した。しかしながら，高配地絡電流は高々数Aであるから，数kAに達する短絡故障時のような母線電圧降下が発生した可能性は低いと想定された。 そこで，本稿では原因解明のため再現試験を実施し，本事象の原因が他回線の対地静電容量と接地形計器用変圧器（EVT）の励磁インダクタンスが介在する鉄共振現象であることを確認したので報告する。

5-196

高圧配電線路における太陽光発電電力と鉄道回生電力の協調制御の研究

○藤田徹夫・松崎俊太郎・南之園弘太・菊地伸也・橋本 慎・中平雅士（東日本旅客鉄道）・鍵田昌幸・板屋伸彦（三菱電機）

直流電気鉄道では、環境負荷低減の観点から回生電力の有効活用が進められている。そのひとつのソリューションとして回生インバータによる配電線路での有効利用がある。太陽光発電や回生インバータが線路沿線に敷設されている同一の高圧配電線路に接続された場合、負荷消費出来なかった電力により逆潮流が発生し系統の電圧を維持できなくなるなど配電系統への影響が考えられる。また、系統の電圧を維持するために有効電力を絞り込んでしまうといった課題もある。そこで本研究では、パワーエレクトロニクス機器間で協調して無効電力制御を行うことにより電圧を維持し、かつ余剰電力を有効に活用する制御を開発し、実証試験による検証を行った。

5-197

電車線の線路インピーダンスとトロリ線の分流比の因子が電圧降下と電流容量に与える影響

○島田健夫三（三和テッキ）

2016年9月の電気学会産業応用部門大会で、電車線の線路インピーダンスとトロリ線の分流比に影響する因子の検討を行った。それに引き続き、それらの因子が電車線の電圧降下と電流容量にどのような影響を与えるのか、引き続き検討を行った。それらの結果について述べる。

5-198

新幹線用電車線スリム化の研究

○池田国夫・熊谷和博（東日本旅客鉄道）・常本瑞樹（鉄道総合技術研究所）

東北・上越新幹線では電車線の設備更新時期を迎えている。これを効率的に進めるために、シンプルカテナリ化の検討を行った。これは整備新幹線に比べ、高負荷、高速走行区間用であるため、整備新幹線用とは異なるシンプルカテナリとせねばならない。高負荷に耐える得る許容電流の増大や、高速化に耐え得る高張力化などの観点などから検討し、それを基に東北新幹線の営業線に試敷設し、試験を行った。その結果として、良好な集電特性を有し、実用に供すると考えられることが確認できた。

5-199

新幹線オーバーラップ構成の適正化に関する研究

◎佐藤卓磨・大友祐一・中澤凌太・牧野裕起・村山昌秀・寺川英克・加藤 彰・高山信也・國分憲夫・津嶋英晴（東日本旅客鉄道）

オーバーラップ箇所では、2本のトロリ線が平行して架設されており、パンタグラフはこの平行箇所において入口側のトロリ線（A線）から出口側のトロリ線（B線）に移行する。その際、パンタグラフとトロリ線の間でパンタグラフ前後方向の衝撃加速度（パンタグラフ衝撃）や離線アークが生じ、トロリ線に局部摩耗が発生している。このような局部摩耗が発生すると、トロリ線の利用率が低下するのみに留まらず、トロリ線の緊急張替や鉄道沿線への騒音が懸念される。 そこで本研究では、営業線においてオーバーラップ構成の適正化に向け架線調整を実施し、考察を行ったので報告する。

5-200

新幹線高速走行を想定した架空電車線の一検討

◎入倉佳祐・常本瑞樹・佐藤宏紀・清水政利（鉄道総合技術研究所）

新幹線用の架線として用いられているヘビーコンパウンド架線は線条類の更新時期に達しつつあり、これに合わせ、低コスト化等を考慮し、シンプル架線を導入した事例もある。一方、架線において温度変化やトロリ線摩耗により架線が伸縮すると、架線張力やトロリ線高さが変動する。これらはパンタグラフによる集電性能に影響し、特に300 km/h超の高速走行において、この影響が大きくなることが報告されている。そこで、現在速度320 km/hで営業運転が行われているヘビーコンパウンド架線と、この架線と同等の集電性能を有することを目標として検討したシンプル架線について、線条張力配分条件が温度変化やトロリ線摩耗による架線張力とトロリ線高さ等の変動に与える影響について検討した。

5-201

新幹線高速わたり線用電車線測定装置の検証結果

○西 健太郎・塩谷厚志・寺川英克・橘 伸幸・加藤 彰（東日本旅客鉄道）・田林精二・坂田宗久・望月宣和（明電舎）

わたり線通過時にパンタグラフが側線のトロリ線に接触する可能性が極めて低い高速わたり線への改修を進めている。なお既存の交差式わたり線と大幅に異なるため、電気軌道総合検測車の架線離隔測定装置の測定により、偏位およびトロリ線の高低差の測定を行うことは困難であることから、保守用車に搭載可能な架線検測装置を高速わたり線用として導入した。その概要および検証結果を報告する。

5-202

電車線支持物の固有振動数測定方法に関する検討

○清水雄介・加藤 洋・西郡幸春（東日本旅客鉄道）

電化柱の耐震補強対策として高じん性化補強を施工しているが、この高じん性化補強の施工には多くの工期とコストが必要である。そこで高じん性化補強が不要な耐震補強対策を検討するため、電化柱の固有振動数測定における適切な加振点と測定点について把握することを目的に検討を行った。

5-203

高速鉄道における国際評価基準による集電性能評価

○渡部勇介・田林精二（明電舎）・早坂高雅・小山達弥（鉄道総合技術研究所）

高速鉄道において電車線の健全性を維持することは、電気鉄道車両の安定運用には欠かせない事項の一つである。電車線の設備状態を把握するための測定項目について国際標準であるIEC規格に定められており、接触力測定と離線測定がある。筆者らはこの規格を満足する架線検測装置を開発した。 従来、検測装置で長期間データに基づく精度検証の事例はほとんどない。また、接触力と離線の相関についても長期間データに基づく検証が行われている事例は少ない。 そこで過去3年間分のデータを用いて、精度検証及び接触力と離線の相関関係の調査を行った。将来的に集電性能の評価手法として扱うことが期待されるデータの分析結果の一部について紹介する。

5-204

亜鉛と鋼の線区別平均腐食速度の算出

◎本田誠彦・黒川剛士（東日本旅客鉄道）

当社では線路沿線に立地する亜鉛めっき鋼設備にアセットマネジメントを適用し、腐食環境別に詳細な劣化予測を施した上で最も費用対効果の高い保守管理方法を見出す研究を実施している。その一環として亜鉛と鋼の曝露試験片による電化路線沿線の腐食速度を調査しており、本論文では2015年度に撤去した曝露2年の試験片を含めて路線別の腐食速度を算出した。その結果、腐食速度は路線単位でも亜鉛で約4倍、鋼で約8倍の差が存在し、亜鉛の腐食速度が大きい路線では鋼の腐食速度も大きくなる傾向がある。

5-205

コンクリート電柱の劣化変状進行予測

○常本瑞樹・飯島 亨・工藤輝大・清水政利（鉄道総合技術研究所）・末吉 優（九州旅客鉄道）

コンクリート電柱が鉄道電化柱として本格的に使用されてから50年以上経過し、劣化状況に応じた計画的な取替のための根拠や基準が求められていた。そのため筆者らは、コンクリート電柱の主な劣化過程を解明するとともに、強度評価および材料評価によるコンクリート電柱の保全判定フローを提案した。一方、ひび割れ発生後に鉄筋腐食、コンクリートはく離などの劣化変状予測は、予防保全や取替・補修計画の観点で非常に重要であるものの、これまでコンクリート電柱について検討された事例はない。 本論文では、土木構造物で提案されている予測手法を参考に、コンクリート電柱において、ひび割れ発生後から鉄筋腐食、コンクリートはく離、鉄筋切断に至る供用年数予測について検討した。

5-206

モルタルヒューズに代わる電柱支持部材の開発

◎佐藤修平・原田 智・近藤優一（鉄道総合技術研究所）・奈良場勇人（三和テッキ）

高架橋上にあるコンクリート柱の耐震性向上対策として砂詰基礎が採用されているが、2011年の東北地方太平洋沖地震では、砂詰基礎のコンクリート柱で折損等の被害がいくつか見られた。砂詰基礎に代わる耐震性向上対策としてシリコーンゴム充填基礎が提案されているが、モルタルヒューズが適切に機能しないと、その効果が発揮できない。本論文では、砂詰基礎に使用されるモルタルヒューズの課題をまず述べ、さらにその改良案の構造について述べる. そして、新しく検討する改良の仕様を決定するため、静荷重解析を行い、モルタルヒューズに代わる電柱支持部材に要求される性能を示した。

5-207

ハイブリッドSKがいしの暴露試験結果

◎近藤優一・木村秀夫（西日本旅客鉄道）・中山 勇・喜多守幸（日本ネットワークサポート）

塩害地区における定期的な作業を削減できる新幹線用長幹がいしとしてハイブリッドSKがいしの開発を進めている。ハイブリッドSKがいしは，芯部は磁器がいしと同じ構造であり，笠部はポリマーがいしと同じ材質のシリコンゴムを用いている。また，これらはゴム自体が持つ圧縮力と絶縁性を有する接着剤により接合させている。以上のことから，ハイブリッドSKがいしは磁器がいしと同等の機械強度を有し，塩分等の付着による絶縁性能の低下が発生しにくい特徴がある。このハイブリッドSKがいしについて，経年劣化が絶縁性能に与える影響を検証するため，数年間暴露した試験品の性能確認試験を実施した。

5-208

海底トンネルにおけるチタン製電車線路支持物の撤去品調査

◎臼木理倫・上東直孝・森 久史（鉄道総合技術研究所）・山下博史・池田賢治（西日本旅客鉄道）

新関門トンネルは、本州と九州を結ぶ新幹線の海底トンネルである。設備環境に起因してトンネル内海底部の電車線路設備の腐食が著しく、例えば亜鉛めっき鋼製可動ブラケットはおよそ4年で取替を行っているため耐食性付与ならびに保守費の低減に資するため、鉄系材料からチタン系材料への変更が検討されている。その一環としてチタン製可動ブラケットが架設されている。本稿では、経年13年のチタン製電車線路部材の撤去品材料調査を行った。調査の結果、調査の時点では材料の劣化傾向は認められず、健全な機能を果たしていたと考えられる。

5-209

在来線電化柱の鋼製型枠基礎の実用化

○柴川久光・蜂尾安輝・吉本康裕・坂口耕一（西日本電気システム）

西日本電気システムでは在来線電化柱の基礎工事に関して平成24年度から人手による基礎掘削作業を要しない、機械化が可能な基礎の開発を行ってきた。筆者らは、平成27年度に一連の開発結果を整理し技術的に検討して新しい鋼製型枠基礎の実用化を行った。この方式は施工の機械化に寄与するため短い工期で施工できる。重い鋼製型枠の取扱いが少しでも容易になるように薄肉化をしている。本稿では電車線柱の基礎設計において、N値を用いる強度計算式と測定例との比較例を紹介した。鋼製型枠基礎は平成28年度にJR西日本の可部線で7箇所施工された。鋼製型枠基礎は西日本旅客鉄道株式会社の指導と日本地工株式会社の協力を得てなされた。

5-210

電車線支持物強度検討アプリの開発と今後の展望

◎佐藤寿人・青栁東樹・古山幸男・加藤 洋（東日本旅客鉄道）・西森隆行（電気技術開発）

電車線支持物の強度検討は、構造計算ソフト等を用いたPCでの作業が主体である。「PCが無ければ検討が進まない」という状況を改善するため、場所を選ばず、容易に強度検討が可能なアプリを開発、検討期間の短縮を図ることとした。 本アプリは、汎用のタブレット端末上で“イラスト素材を選択、ドラッグ操作で装柱図を描くだけで強度検討できる”という仕様を基本とし、現場調査時にも強度検討ができる高い利便性と直感的に扱うことのできる高い操作性を兼ね備えている。 これにより、支持物の建替要否を現場で即時判断できるようになるなど、これまで現場調査後に数時間要していた一連の強度検討作業を数分程度にまで短縮できる見込みである。

5-211

エアセクション内停車列車の自走脱出検討

○和田祥吾・太田康文・梅田善和・近間大志（西日本旅客鉄道）

1つのパンタグラフで運転している電車列車（以下、1パン列車）や電気機関車列車は、エアセクション（以下、AS）で停車すると、トロリ線を断線させる恐れがあるため、パンタグラフを上昇できず、救援列車手配が必要になる場合があり非常に時間がかかる。早期運転再開を可能にするため過去の知見をもとに、これらの列車を自走でASから脱出させる方法を検討した。机上計算と現車試験の結果、前後き電区間の列車負荷を無くすことで、1パン列車はAS内で起動可能であることが分かった。電気機関車列車はAS内からの起動が困難であるため別の脱出方法を検討した。本論文の方法により、救援列車手配は不要とでき早期運転再開が可能となった。

5-212

アーク放電によるトロリ線断線時の伸びと電流値に関する考察

◎伊東和彦・佐藤修平・久家広嗣・早坂高雅（鉄道総合技術研究所）・宮崎修造・福光俊祐・宮口浩一・川原敬治（西日本旅客鉄道）

エアセクション箇所に列車が停車した際、発生したアーク放電によりトロリ線が断線する場合がある。断線が生じる際の電流値は明確な数値がわかっていないため、エアセクション箇所におけるトロリ線断線対策を進める上で、想定すべき電流値の設定に苦慮している。一方、アーク放電を含む熱的影響に伴うトロリ線の断線では、破断面に延性破壊の様相が見受けられ、その形状はアーク電流に応じて変化すると考えられる。そこで、筆者らは張力を印加したトロリ線においてアーク放電を発生させる試験を行い、その様相を確認すると伴に、断線したトロリ線の塑性変形の長さとアーク電流値の関係について報告する。

5-213

ジュール熱による集電材料の溶融体積推定手法

○山下主税・小原拓也（鉄道総合技術研究所）

電車線のトロリ線やパンタグラフすり板などの集電材料は、通電しゅう動によって摩耗し、特に電車線とパンタグラフの離線時において両者の摩耗は著しく増大する。集電材料のジュール熱による溶融体積を推定するべく、接点近傍の電位分布と温度分布の関係を用いた溶融体積の推測式を新たに提案した。また、直動型摩耗試験機を用いた実験により推定量の検証を行い、提案した溶融体積推定手法の妥当性を把握した。

5-214

名古屋駅構内限定区分用セクションインシュレータの開発

○小西 弘・杉田正俊・川地重和・加藤博之（東海旅客鉄道）

名古屋駅の改修工事に伴い、停電時間を確保するため各番線毎の限定区分が必要となる。名古屋駅は停車する旅客列車と、通過する貨物列車が混在し、夜間は最大で80km/hの通過列車があり、現行セクションインシュレータでは対応が難しい。そこで、名古屋駅の限定区分に対応したセクションインシュレータを開発し駅構内での試験を行った。

5-215

張力調整装置の特性に関する研究

◎武藤 洋・清水政利・佐藤宏紀（鉄道総合技術研究所）

電車線の静的構造は、張力調整装置の特性に応じた張力変動の影響を受けて変化する。このため、近年採用が広がりつつあるガスばね式（GSTB）の張力調整装置を適用した場合を想定し、張力調整装置単体の特性と電車線の構成や状態が、電車線の張力、高さに及ぼす影響を明らかにした。この検討に当たり、GSTBを採用した場合の張力計算手法を新たに構築した。GSTBは、他の自動張力調整装置と異なり、張力が電線変位だけでなくガス温度によっても変化するため、ガスばね式の張力特性について詳細に検討を行った。その結果、GSTBを用いた場合の電車線張力の変動幅はガス圧力、仕様上の調整距離と実調整距離との差、ガス温度と線条温度の差から計算される張力にヒステリシス分を加味して算定する必要がある事が分かった。

5-216

電車線非接触測定装置の試験電車への搭載試験

◎松村 周・薄 広歩・根津一嘉（鉄道総合技術研究所）

鉄道総研では，電車線路設備の検査の効率化のため，測定手法や診断の定量化の研究開発を行っている。徒歩巡回や至近距離検査の負担を軽減するため，鉄道車両から測定を行うことで，長大な電車線路設備を効率よく検査することが期待できる。そこで，電車線非接触測定装置を試験電車に搭載し，鉄道総研所内の試験線において電車線測定を行った。車体動揺や太陽光等の影響はあるものの，良好に電車線の線条位置が測定可能なことを確認した。また，本手法の活用方法の一例として，わたり線の高低差解析結果および交差箇所付近のハンガ長さの推定を行い，わたり線の高低差についてはレーザー距離計による手測定と比較して誤差5mm以内の精度が得られた。

5-217

高頻度データを用いたき電線圧縮部の不良予兆判断の検討

○下原光幸・甲斐知彦（東日本旅客鉄道）

高頻度に収集したデータの分析から設備状態を判断しメンテナンスの意思決定につなげるメンテナンス方法（CBM）の実現に向けては、データ分析をした設備が正常か、異常かを把握するしきい値の定め方が確立されていないことが課題としてあげられる。 今回き電線圧縮部を対象とし、無線式温度センサを用いたCBMの実現にむけた検討で不良予兆を把握するためのしきい値の定め方を検討した。

5-218

超高頻度運行計画の頑健性と車両性能の関係に関する基礎検討

◎鎌木澄也・高木 亮（工学院大学）

鉄道サービス超高度化のため，複線都市鉄道における列車頻度の一般的上限（約30本/時・方向）を大幅に上回る超高頻度列車運行の手法が数多く開発されている。超高頻度運行のもとでは「荷物のドア挟まり」「急病人」といった発生が避けがたい小遅延による乱れが従来より広範囲に波及しやすいと予想されるので，これに対応するため超高頻度運行計画には十分な余裕を付加する必要がある。本研究は，必要な余裕を得るため車両性能を高める方法について，知見を得ることを目的とし，モデル路線において中速度域の加速度を向上させた場合の頑健性の評価から車両性能と頑健性の関係について基礎的な解析を行った。

5-219

在来線電車の走行抵抗近似曲線に対する統計学的な精度検証

◎吉川 岳（鉄道総合技術研究所）

在来線電車の消費電力の大半は走行抵抗による消費である。列車の走行抵抗は惰行試験結果から最小二乗法を用いて推定されるが、その推定精度を知ることは電車の消費電力シミュレータの精度把握の面でも重要である。本稿では在来線電車の走行抵抗測定試験結果に対し、95%信頼区間を算出することで走行抵抗の近似曲線の統計学的な精度の検証を実施した。その結果、走行抵抗の近似曲線の誤差は高速域で2.8%未満であることがわかった。ただし、近似曲線の係数については同定精度が低く、これらの値から列車の空気抵抗や機械抵抗の割合を論じることは、少なくとも統計学上は推奨されないことがわかった。。

5-220

空転・滑走安定化制御の現車試験検証

◎牧島信吾・大久保孔靖・高木正志（東洋電機製造）・板木重人・川元昌夫（阪急電鉄）

電気鉄道では空転時に積極的にトルクを引き下げて再粘着させる再粘着制御が用いられるが，筆者らはトルクを積極的に引き下げずに空転状態を安定的に維持して加速度と乗り心地を両立する手法を提案している。本論文では，この手法がブレーキ時の電空協調制御においても有効であることを現車試験検証により示す。

5-221

接線力の調整トルクフィードバックに基づく高粘着制御の一提案

◎松本拓未・大石 潔・横倉勇希（長岡技術科学大学）

通勤電車においては，これまでにフィードフォワード制御に基づいた再粘着制御が実用化されてきた。これは経験則に基づいた制御であり，試行錯誤的な調整を要した。それに対し，筆者らはこれまでにノウハウによらないフィードバック制御に基づく粘着制御系を提案している。本稿では特に制動時に着目し，空気ブレーキと電気ブレーキの協調動作を行うためのブレーキ力指令値を提案した。計算機シミュレーションにより加速および減速において良好な粘着制御を行えることを確認した。

5-222

双方向給電可能な非接触給電システムにおける適正動作のため回路条件の解析

◎植原彪之介・Febry Pandu Wijaya・近藤圭一郎（千葉大学）

電気鉄道の一形態として，蓄電装置を搭載した車両に走行区間の一部に敷設された地上コイルから，非接触で車両に給電する方法が考えられる。 車載蓄電装置搭載量低減の観点からは，双方向非接触給電を適用し，回生電力を地上コイルで受電できることが好ましい。 車載電力変換装置の小型軽量化に配慮した，二次側の自励式変換回路にゼロ電流スイッチングを適用した双方向給電可能なシステムが検討されている。 しかし，このシステムには，回路定数の条件によっては，伝送可能電力が低下する，スイッチング回数が増えるなどといった好ましくない動作条件が存在する。 本稿では不適切な動作に陥る条件を1kWクラスのミニモデルにおいて解析する。

5-223

鉄道用非接触給電装置のレール損失を考慮した効率検討

◎浮田啓悟・坂本泰明・依田裕史（鉄道総合技術研究所）

鉄道用非接触給電装置における，レール損失の電磁界解析による算定の妥当性を要素試験で確認した。給電ケーブル敷設距離に対する効率を計算した。今回の諸元では，レール損失は給電ケーブルの銅損と同程度発生しており，鉄道用非接触給電装置の効率向上にはレール損失の低減が重要であることを確認した。

5-224

省エネ運転支援システムの実証試験

◎小田篤史・牧 健太郎・堀 聡美・西野 亨（日立製作所）・原田淳一（東京モノレール）

鉄道システムの消費エネルギーのうち約80%を車両運行のエネルギーが占めており，鉄道システムの更なる省エネのためには車両運行のエネルギー低減が重要となる。本論文では，省エネな運転曲線のリアルタイム生成と生成した省エネ運転曲線へ追従するための運転操作を運転士に支援する省エネ運転支援システムを提案する。また，省エネ運転支援システムの実証試験を東京モノレールで行い，省エネ運転支援システムのガイダンスに従って走行した場合，通常の運転と比較して消費エネルギーが駅間で最大16%減少，試験区間全体で平均6%減少した結果について報告する。

5-225

列車単体における消費電力を最小にする首都圏電気鉄道の運転方法

◎梨本晟平・熊野照久（明治大学）

国土交通省から2030年の鉄道の電力消費量を2010年比で20％削減するという目標が掲げられ、鉄道のさらなる電力の削減が必要である。さらに電力不足に対する鉄道の脆さから電力や電力量の削減が継続的に求められる。 一般に工学システムにおける最適スケジューリング問題では変分法が応用でき、火力発電における燃料費最適化などへ応用されている。 電車の消費エネルギー低減は重要な技術であって種々の検討が行われているが、変分法による最適化はこれまでほとんど行われていない。 本研究では、列車単体における消費電力を最小にする運転方法を、変分法を用いてシミュレーションによって求め、最適化結果の妥当性を検討した。

5-226

電力貯蔵装置における回生電力の「横取り」を防止する手法の一検討

◎小花崇樹・近藤潤次（東京理科大学）

近年、電気鉄道において電力貯蔵装置が設置される例が増えてきている。電力貯蔵装置は電気鉄道の省エネルギー化に貢献するが、回生電力を直接力行車へ融通できるケースでも回生電力を「横取り」してしまい、回生電力の有効利用率を低下させてしまうことも考えられる。そこで、回生電力の横取りによるマイナス効果を検証し、それを防止するための手法について検討するためのシミュレーションを行った。シミュレーションは、JR中央東線の20‰勾配区間の条件を想定して行った。その結果、電力貯蔵装置の充電により有効利用される回生電力量が減少するケースを確認した。また、回生電力の横取りによるマイナス効果の防止手法について検討し、状況によっては有効となることを示した。

5-227

直流電鉄用地上設置型蓄電装置の超分散設置に関する基礎検討用

◎萩原 健・高木 亮（工学院大学）

直流電気鉄道における回生失効や電車線電圧変動の対策として，地上設置蓄電装置の適用事例が近年急速に増加しているが，いまのところ設置方法としては1路線あたり1カ所などの集約設置の事例のみが存在する。本検討では、饋電特性シミュレータを用いてエネルギー蓄積装置を超分散設置した場合における饋電特性の評価を行う。