社団法人 日本物理学会 Jr.セッション

The Physical Society of Japan

第14回日本物理学会Jr.セッション(2018)

Jr.セッションは中高生による物理的内容を含む理科の研究発表の場で、世界物理年の2005年からスタートしました。
Jr.セッションは、毎年日本物理学会年次大会で開催しています。

素粒子

(質問) 四次元ポケットは作れますか?

(回答) 四次元ポケットってドラエもんのポケットのことですよね。今は不可能でも,将来に渡って不可能かどうかはわかりません。実は超弦理論(質問24参照)に代表されるように,この世界には空間3次元に加えて見えない次元がいくつもあるという可能性が真剣に議論されています。最近まで,その余分な次元(余剰次元)はとてつもなく小さく丸まっていてとても見えない(観測にかからない)と思われていました。しかし,近年,その「丸まり」がそんなに小さくなくてもよいという可能性も指摘されています。今年の終わり頃に運転を開始する巨大粒子加速器LHC(ヨーロッパ原子核研究所)で発見されるかも知れないという期待も高まっています。もし余分な次元が発見されたとしたら世紀の大発見です。それでも余剰次元の大きさはごくごく小さいので,それが実用化できるとしてもさらに長い年月が必要でしょう。(渡邊靖志)

(質問) 超弦理論について。

(回答) 超弦理論は,究極の理論TOE (Theory of Everything) の最有力候補として現在盛んに研究されています。自然界に働く基本的な力は4種類(日常よく知っている重力と電磁力に加えて,原子力エネルギーを生み出す「強い力」,ベータ崩壊などを引き起こす「弱い力」の4つ)あり,超弦理論は,この4つの力を統一する理論です。しかし,4つの力が統一されるエネルギーは,現在加速器で現在実現可能なエネルギーの十数桁上の超エネルギー領域であり,ほとんど検証不可能なエネルギー領域なのです。それで超弦理論は物理学ではなく,哲学あるいは「宗教」の一種であると揶揄する人もいます。でも,宇宙誕生のことは超高エネルギー状態だったはずで,宇宙誕生のころを解明できる可能性をもつ理論でもあります。
  超弦理論は,その名の通り,自然界に超対称性も成り立っていると仮定します。理論の無矛盾性の要求から,次元も,空間の3次元に加えて6個(または7 個)の余分な次元(余剰次元)を必要とします。回答23で述べたように,これらの余剰次元は全て小さく丸まっていて通常は見えません。
  そもそもなぜ超弦理論と呼ばれるかというと,最も基本的な単位「弦」が,基本要素だからです。しかし,10次元(または11次元)の世界には1次元の弦だけでなく,2次元以上の面(「ブレーン」:membraneからの造語)も存在します。それで,私達は3次元のブレーンに閉じ込められているという描像になります。(渡邊靖志)

(質問) 光に質量があるのか。

(回答) よい質問ですね。そのように物事の根本を疑ってみることは大変重要なことです。現在の理論では,光子の質量は正確にゼロです。したがって、光は光速で進みます。実験家や理論家は,あなたのように何でも確かめないと気がすみません。物理学では,無いかもしれないものを研究する時には、仮想的にあるものとしてその上限値(あったとしたらその値は、□%(□として90, 95などが用いられる)の確率でこの値より小さい)を求めます。光は電磁波ですので、電磁場について考察することによって、その質量を推定することができます。実験室で測った質量の上限値(の世界記録)は,水素原子の質量の約1/1026(10の26乗分の1),推論で得た上限値は,水素原子の質量の約1/1036です。後者は,銀河系に磁場が広がっているという観測事実から導けます。光子が質量をもっていると,磁場は遠くまで広がりません。湯川秀樹博士が核力を媒介する中間子の質量を見積もったのと同じ議論を使います。
 ただし,これまでの話は観測される光(光子)についてです。観測されない光子(仮想光子)は,質量の2乗が正負両方の値を持ちえます。それはミクロの世界で電磁力を媒介するときです。電荷をもった粒子の間で交換され,ほんの一瞬しか現れないときです。それは,不確定性原理により許容されます。すなわち,ほんの一瞬の間ならエネルギーは大きく成り得て,それを相対論的に記述すると,質量の2乗がゼロでない状態を取ることが許されます。                            (渡邊靖志)

(質問) 光はなぜ粒子と波の両方の性質を持っているのか。

(回答) 本当に不思議ですね。答えは,「神のみぞ知る」です。光だけではありません。ミクロの世界では、粒子も波のように振る舞います。すなわち、すべてのものは粒子と波の両方の性質を示すということです。それを記述するのが量子力学です。最近では、マクロの大きさのもので,量子的な振る舞いを観測することができるようになりました。BEC(ボース‐アインシュイタイン凝縮)です。たくさんの原子(>107個)を極低温にすると全体が一つの粒子のように振る舞い、一つの波動関数で表されて、(映像として)目で見える形で干渉したりします。現在盛んに研究が進められ、それまでできなかった新しいことができるようになり、新事実が発見されつつあるホットな分野です。専門家でない私たちもその成果・進展にわくわくしています。学問の進展はすばらしいですね。 (渡邊靖志)

(質問) なぜ自然界には反物質が存在しないのか。

(回答) すべての粒子に対してその反粒子が存在します。これは,素粒子物理学の基本法則の一つCPT定理の帰結です。中には光子のように、粒子と反粒子が同じである粒子もあります。反粒子から成る反物質も当然存在します。現在,水素の反物質、反水素が人工的に作られる時代になりました。これは11月11 日に行なわれる公開講座の話題の一つです。可能ならぜひご聴講ください。そのうち、物理学会HPに掲載されます。
質問の趣旨が「この宇宙に」ということと解釈すると、確かに大変不思議なことに、観測可能な限りの宇宙には、反物質でできた銀河が存在しないのです(宇宙規模の非対称性)。もしあるとすると、物質でできた銀河との境界領域で物質と反物質が出会い,互いに消滅し、大爆発を起こしているはずで、そういう現象は発見されていないからです。宇宙の果てのその向こうがどうなっているかについてはわかりません。
ビッグバン宇宙論のいうように、宇宙が超高エネルギー状態から始まり、冷えて現在の宇宙になったとすると、ほぼ等量の物質と反物質が生成され、ほとんど消え合って、現在のような量の物質(または反物質)は残りません。そのもっともらしい予測より10桁以上の量の物質が余計に残ったのです。なぜそうなったのでしょうか。そうなるための3つの条件の一つが「物質と反物質間の対称性の破れ」です。CP非対称性と呼ばれるこの現象は,素粒子物理学のホットな話題の一つで、つくばの高エネルギー加速器研究機構の加速器を使った実験等で盛んに研究されています。ただ、このCP非対称性が宇宙規模の非対称性と直接関係があるのかないのかは現在のところ分かりません。(渡邊靖志)

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